第3章 16 勝手な言い分
「は・・?婚約破棄・・ご冗談を。ギンテル伯爵。」
コナー子爵は胸ポケットからスリーピークスに折りたたんだ白いハンカチーフを右手でサッと取り出すと額の汗を拭き始めた。
「何を言うのです?そもそもあなた方の来訪の目的は・・我が娘に文句を言う為ですよね?それほど文句があるのであれば、双方の気が合わないと言う事・・無意味な婚約はやめましょう。もっとお互いに良縁の相手を見つけた方が良いでしょう?」
すっかり痩せて別人のようになったロザリアの父は淡々と語る。
「そ、そんな・・・!無意味な婚約だなんて・・・!た、ただ私は息子が池に落とされたと聞かされて、少しロザリア嬢に注意を・・・。」
「そ、そうですっ!僕は・・ただ、ロザリアに謝罪の言葉を貰えれば今回の事は水に流そうと思って伺っただけです!」
何となくジョバンニの上から目線的な物言いにカチンと来る。
「違うでしょう?あれはジョバンニが勝手に池に落ちただけよ。」
腕組みしながらジョバンニに言ってやる。
「な、何だって?!大体もとはと言えばお前がいけないんだろう?!折角この俺がわざわざ貴重な時間を割いてデートに誘いに来てやったのに、ジョギングでパークまで行かせるし、挙句の果てに人にジュースを買わせに行かせた隙に別の男とボートに乗りやがって・・!」
憎々し気に私に言い、両家の父親の前だと言う事に気付き、ハッとなるジョバンニ。
「ほう・・ジョバンニ君。随分横柄な物言いを娘にしてるのだねぇ・・?」
父は眉間に青筋を立てながらジョバンニを見た。
「ジョバンニ・・・お前、いつもそんな口を聞いていたのか?」
コナー子爵はジョバンニに尋ねた。と言うか、自分の息子が婚約者に対してどんな態度を取ってきたのか、この愚かな父親は何も知らなかったとでも言うのだろうか?!
「い、いや・・そ、それはたまにはこんな言い方をしてしまった時もあったかもしれないけれど・・・。そんな事よりも!今大事なのはロザリアは僕とのデート中に浮気をしたと言う事ですよっ!」
「あれは浮気ではないわよ。大体浮気って言うのは互いに好意を持っていて付き合う事を言うんじゃないの?あの人はナッツを売っている屋台の人で、私は常連客と言うだけの関係だから。」
最も・・・この本当の身体の持ち主のロザリアはどう思っているかは知らないけどね。
「娘はこう言ってるが?」
父はジョバンニ親子を交互に見ると言った。
「お待ちくださいっ!本当にただの友人だという話を信じろと言うのですか?!男と2人でボートに乗る・・・これはもう立派な浮気ですぞ?!」
コナー子爵は顔を真っ赤にさせた。
「ええ、2人は仲良さげに笑っていました。誰が何処から見てもあれは恋人同士のようにしか見えませんでした。」
そして私を憎々し気に睨みつけた。
「だったら・・君がセレナという女性と浮気しているのはどうなのだ?」
「うっ!」
突如、ジョバンニは顔色を変えた。
「か・・彼女は単なる友人です・・よ・・。」
「何?ジョバンニ。誰だ?セレナという女性は?」
コナー子爵の言葉に私は絶句してしまった。嘘でしょう?!まさか・・父親なのに知らないのっ?!すると父もその言葉に反応した。
「ほほう・・。コナー子爵・・・。貴方は自分の子息がどのような振る舞いを外でしているのかご存じないと見えますな・・・。」
そして父はテーブルの上に並べられた何枚かの書類から、おもむろに1枚の書類に手を伸ばした―。
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