気付けば名も知らぬ悪役令嬢に憑依して、見知らぬヒロインに手をあげていました

第3章 6 ジョバンニへの嫌がらせ その1

「まあ別にいいよ。ジョバンニがそこまで言うのなら・・・デートしても。」

「本当か？」

途端に笑顔になるジョバンニ。

「それじゃあ、着替えてくるから私の代わりにモップかけしておいてくれる。」

ぽいっとモップをジョバンニに放り投げてやる。

「うわああぁっとっ！」

変な声を上げつつ、何とかモップをキャッチするジョバンニは文句を言ってきた。

「おいっ！モップを投げるなよっ！」

「あら？でもナイスキャッチだったけど？」

しれっと答えてやるとジョバンニは、ヘヘそうか？等と照れている。全く何て単純な男なのだろう。こうやって考えてみればひょっとするとジョバンニの方がセレナに実は利用されていたのではないだろうかと思えてくる。

「それじゃジョバンニ。私が着替えてくるまで、このエントランスホールの床をピカピカに磨き上げておいてね。」

「あ、ああ。分かったよ。だけど・・・なるべく早く戻って来てくれよ？」

「ええ、そうね。」

それだけ言うと私はくるりと背を向けてジョバンニの元を去って行く。

「なるべく早く？ジョバンニのくせに言ってくれるじゃないの・・なら出来るだけゆっくり戻ってきてあげようかな？」

何せ、ジョバンニはロザリアの婚約者のくせに、死ねばいいと言ったり・・これは恐らく私の勘だが、セレナに毒を預けたのはジョバンニではないかと疑っている。何しろセレナは庶民なのだ。毒薬など、ただの一般庶民が手に入れられるはずなど無いだろう。

「フフフ・・・ロザリアを苦しめてきた罰よ・・。今度はこちらからやり返す番なんだから・・・。」

さて、どんな風に嫌がらせをしてやろうかな・・。手始めに今からジョバンニを放置することにした。さて、この放置プレイ・・ジョバンニは一体どこまで耐えられるかな・・？

そして私は自分専用の小さなキッチンでお湯を沸かし、お気に入りの本を持って自室に引きこもることにした―。

コンコンコンコンコン・・・。

レースのカーテンが揺れ、さわやかな風が吹き込む部屋・・・。

本を読み始めてどれくらいが経過しただろう？部屋のドアがものすごい速さでノックされた。そのノックの仕方から、相手がかなりイラついていることが理解できた。

「う～ん・・・。」

読みかけの本にしおりを挟んで大きく伸びをすると、私は部屋の中から声を掛けた。

「はーい、誰かしら？」

すると予想通り、イラついた声がドアの外から聞こえてきた。

「俺だよ、ジョバンニだ。おい、ロザリアッ！一体いつまで待たせる気だよ？あれから75分も経過しているんだぞっ？！」

おお、そうか。あれから75分経過していたのね。しかし意外と根性あるじゃない。てっきり30分で根を上げると思っていたけど・・・ジョバンニの割にはなかなかやるじゃないの。よし、ならば・・・。

ロザリア、許して頂戴ね。

私はわざと上半身だけキャミソール姿に、カーディガンを肩から羽織るとそっと部屋のドアを開けた。すると・・・。

「うわああっ？！な・な・何て格好してるんだっ？！ロザリアッ！！」

ジョバンニは顔を真っ赤にして顔を両手で隠したが、指の隙間からばっちりロザリアの胸の谷間を凝視しているのが分かる。

全く・・・やはり思春期男子だ。しかし・・・このレベルで赤くなるのなら、まだまだ可愛らしいものかもしれない。

「ごめんね・・・どんな服を着ていけば良いか迷っていたものだから・・。」

さりげなくカーディガンの前を合わせて胸元を隠すしぐさをすると、ジョバンニは慌てて視線を反らせると言った。

「そ、そうか？お・俺とのデートに着ていく服を今まで悩んでいたのか・・・。なかなか可愛らしいところがあるじゃないか。お前の好きな服を着ろ。ど、どんな服でも今のお前ならきっと似合うんじゃないか？」

ジョバンニは顔を赤らめながら言う。

「そう？じゃあ着替えてくるねっ！」

そこで私は再びバタンと部屋のドアを閉じて、引きこもった。

ふふふ・・ジョバンニめ・・・好きな服を着ろと言ったわね・・・。私は・・・目の前の服に手を伸ばした―。