第1章 7 数学の授業で拍手を浴びる

 この女性教師は数学担当であった。

今、私は空席となっていた机に向かい、授業を受けている。びしょ濡れにされていたロザリアの机と椅子はあの後、教師から渡された布で綺麗に水を拭き取り、今は教室の外のベランダで日の光にあてて乾かしている最中なのだ。

結局、ロザリアの机と椅子をびしょ濡れにした犯人は現れる事は無かったし、私も期待はしていなかった。こんな子供じみたいたずらに、24歳の大人の女性は相手になどしていられないのだよ?

 黒板では女性教師が微分積分の3次不等式の証明問題を書いていた。

おお~・・・・懐かしい。何だか大学を受験したときの記憶が蘇ってくる。私は早速ノートに書き写し、スラスラと問題を解き始めたが、他の生徒たちは悩んでいるようだ。・・・恐らく習いたてなのだろう。余裕で問題を解いて前を向いて座っていると女性教師と目が合った。


「あら・・?ロザリアさん。もうお手上げですか?他の人達は頑張って解いていると言うのに・・貴女は考えることもしないのですね?」


この言葉に私はイラッときた。このロザリアと言う少女・・・クラス中だけでなく、教師からも嫌われていると見える。それにしても・・不本意だ。私は何の因果か、この身体に憑依してしまっただけのに、自分が馬鹿にされているような感覚に陥ってしまう。そこで私は言った。


「いいえ、先生。解けましたけど?」


「はい?」


女性教師はずれ落ちそうになった眼鏡を直した。一方生徒たちの視線が私に集中する。


「ホホホ・・・まさか・・留年寸前の貴女が解けるはずないでしょう?」


これ見よがしな意地悪な笑みを浮かべる女性教師。


「いいえ、本当に解けましたけど?」


腕組みして答えた。


さらに教室ではざわめきが起こる。


「う、嘘をついても貴女の為にはなりませんよ?」


この女教師めっ!どこまで私を疑う気だ?


「それなら、黒板の前で解いてみせましょうか?」


「ええ!解けるものなら是非解いてごらんなさい!」


正に売り言葉に買い言葉状態。しかし・・こんな性格で良く教師なんかやってられるな。

私は無言で、ガタンと席を立つと黒板に向って歩く。そして1本チョークを手に取ると・・・・。


サラサラサラ・・・・・。


あっという間に解いてしまった。そして私はチョークを置き、手をパンパンと叩くと女性教師を見た。


「どうですか?先生。」


「そ・・・そんな・・・嘘でしょう・・?」


女性教師は身体をカタカタと震わせている。


「か・・・完璧な答えですっ!大正解っ!信じられませんっ!」


そして何故か大げさに拍手をする。


「さあ!皆さんも・・・ロザリアさんに拍手をっ!素晴らしいですっ!」


女性教師に促された生徒たちは・・しぶしぶ手を叩き始め、やがて教室は拍手の渦に包まれた。

フフン、どうだ?思い知ったか。私はこちらを悔しそうに見ているセレナを良い気分で見つめた。

これで少しは・・ロザリアを見る周囲の目が変わったかな?


私は心の中でほくそ笑むのだった―。



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