第1章 5 パストリスと私

《 ねえ、ロザリア。今は私がこの身体を支配しているんでしょう? 》


私は頭の中に念?を送る。


《 は・はい・・そういう事になりますね・・・。 》


《 だったら、勝手にこの身体を動かしたり、感情を表さないでくれる?やりにくくて仕方がないんだから。大体・・どうしてこんな事になってしまったのか・・貴女、理由知ってるでしょう? 》


《 ギクッ!ど、どうして・・・その事を・・・? 》


《 だって、普通だったら別な人間が憑依して自分の身体を乗っ取られたらパニックを起こすはずなのに・・貴女には全くその様子が見られないんだもの。それで・・どうなの? 》


《 ・・・・。 》


黙っているって事は・・肯定って事だな?


《 とにかく、私がこの身体に憑依している間は、勝手に動かないでくれる?そうじゃないと・・・・ 》


《 そうじゃないと・・・な・何ですか? 》


《 脱ぐよ? 》


《 へ・・・?ぬ・脱ぐって・・・? 》


《 どうせ、この身体は私のものじゃないんだから、別に脱いだって恥ずかしくないしね~。 》


チラリと制服のスカートをつまみ、頭の中に語り掛ける。


《 キャアアアッ!イヤアアアッ!お、お願いしますっ!それだけは・・・勘弁してくださいっ! 》


《 だったら、今から勝手に身体を動かしたり・・自分の感情を表に出すのはやめてくれる?話は夜夢の中できっちり聞かせてもらうから? 》


《 はい・・・分かりました・・・。 》


そしてロザリアの気配は完全に消えた。


「ふう、やれやれ・・・。」


溜息をついて、その時私は初めて気づいた。クラス中の全員が白い目でこちらを見ていると言う事に。


「・・・。」


だけど、私は気にしない。だって私は大人の女性なのだから。だてに双子の弟妹のせわを17年も見ていたわけじゃないのだよ?何せあの子たちのおむつを替えてたのも私だものね。さて、とりあえずは・・・。

一番近くに座っていたおとなしそうな少女に声をかけてみた。


「ねえ。私の席はどこ?」


「え?」


少女は驚いたように顔を上げる。すると近くにいた意地悪そうな少年が言った。


「おいおい。何言ってるんだ?このパストリスめ。とうとう頭がイカレタようなだ?ほら、お前の席はこの列の前から3番目だよ。」


少年はロザリアの席を指さす。


「・・・・。」


私は少年を無言で見下ろした。まただ・・・。この少年もロザリアの事をパストリスと呼んでいる。一体どういう意味なのだろう?よし、聞いてみよう。


「ねえ、パストリスってどういう意味?」


私のその時の声はよほど大きかったのだろう。雑談をしていた少年少女たちは一斉にピタリと会話をやめ、私に注目している。


「何だよ・・・お前今更何で聞くんだよ?知ってるくせに。」


少年は意地悪そうな目で私を見る。


「いいえ、知らないわ。」


何だか馬鹿にされたようで癪に障った私は腕組みをして言った。


「は!やっぱりお前は馬鹿だなっ!」


別の少年が脇から口を挟んできた。


「パストリスっていうのはねえ・・・ ぺんぺん草って意味よ。どんな荒れ地にでも咲く、地味な雑草。それがあんたの名前の由来よ。」


ご丁寧に説明してくるのは、目つきの悪そうな女生徒だ。


「へえ~。いいじゃない、ぺんぺん草。」


私の言葉に全員の視線が集中する。


「いい?ぺんぺん草って言うのはね、別名、なずなって呼ばれていて撫でたいほど可愛い花っていう意味から来てるんだから。それにねビタミン、ミネラル・・特にカルシウムがすっごく多く含まれている素晴らしい野草なんだからね。」


私は自分の知識をひけらかしてやった。すると全員がぽかんとした目でこちらを見ている。フフン、どうよ。だてにIQ120あるわけじゃないのだよ?まあ・・・パストリスは知らなかったけどね。


そして私は全員の視線を浴びながら自分の席へ戻り・・・固まった―。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る