第20話 残り続けるもの
とある日の事。
俺は公園でニコと星空を眺めていた。
人気の無い公園は静寂に包まれていて、頼りない街灯の灯りが柔らかく辺りを照らす。
「紡にはさ、心の中で輝き続けている光はあるかい?」
ニコは唐突にそんな事を言った。
「なんだそれ。哲学か?」
そうぶっきらぼうに返す俺を見て、ニコは吹き出した。
「アハハ――今空に光っている星の中にはさ、もうその命を終えてしまった星もある事は知ってる?」
「あー、何となく。星の光って何年もかけてこっちに届くからみたいな」
「そうそう。凄いよね。もう既にこの世界には存在していないのに、輝きは残り続けている。まあ、いつかはその光も消えてしまうんだけどね」
空を見上げるニコはどこか寂しそうだった。それはまるで、もう会う事の出来ない誰かを想っているような、そんな表情だ。
「僕の中にはさ、そんな光が残っているんだ」
「光?」
「うん。もう
ニコと会ってから数ヶ月が経つ。
それなりに親しくはなったつもりだ。
しかし、一向に素性を明かそうとはしなかった。踏み入ろうとすれば頑なに拒む。
そんな彼が少しだけ開かずの扉から隙間風を吹かす。
ニコが自分の事について話したのは初めてだった。
「もう会えない友達でもいるのか?」
俺はほんの少しだけ開いた扉のドアノブに手をかける。
「さあ、どうだろうね」
ニコは再びその扉を閉め鍵をかけてしまった。やっぱり、まだそこに立ち入るのは許してくれないみたいだ。
「その内、紡には話す時が来るよ。だって、僕らは似た者同士でしょ?」
「おいおい、俺はニコみてーに弱々しくはねーよ」
「ひどいなぁ。ていうか、見た目の話じゃないし」
何てことのない会話で二人して笑う。
俺はニコと過ごす時間は心地良いと感じていた。それはニコの言うとおり俺達が似た者同士だからなのだろう。
そんなニコが何を抱えているのかは俺には分からないし、救ってやりたいなどと、おこがましい事も考えていない。でも、できるだけ寄り添ってやりたいとは思っている。
「もし、いつか僕が紡を頼るときが来たらさ、紡は助けてくれる?」
「うーん……それはどうだろうか」
「そこは即答して欲しかったなぁ」
ニコは呆れながら苦笑する。
「でもきっと紡は――フフ、そうだね」
ニコは一人で納得したような様子を見せるとベンチから立ち上がる。
「今日はもう帰るよ、またね」
そう言ってニコはその場を後にした。
一人公園に残った俺は先ほどのニコの言葉をもう一度考える。
濁すような言い方をしたけれど、もし本当にニコが助けを求めてきたなら、俺は多分迷うことなく助けるだろう。
――この時の俺はそう思っていた。
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