第14話 ひねくれ王子の告白

 宿屋でリネットに王宮で起こったことを話すとリネットは怒りまくっていた。ジョルジュが怪我をしたことも一応心配したが何せ自分もまだ傷が癒えていないのだ。


 伯爵領に戻る途中、リネットの実家に寄り彼女は怪我が治るまでは自宅療養となった。


「お嬢様!こんな怪我直ぐに治して見せますわ!」


「リネット無理をしてはダメよ?安静にしてね?」

 と涙ぐむリネットと別れて伯爵領へ戻る。リネットの代わりにアグネスが


「リネットさんの怪我が治るまで私が彼女の代わりに働きます!お給金弾んでくださいね!旦那様!どの道資金稼ぎもしなきゃでしたから好都合です!」

 とアグネスはちゃっかり言う。


 伯爵邸に戻り旦那様は王宮で大勢の人の前で発言したりしたから少し自信が付いたようでもう禿げを見られても笑われても気にしないようになったり、自分から使用人に挨拶したりするようになった。


「凄い変わりようですわね」

 食卓の席で聞くと


「いやあ…セシリアさんがいたからできたことです!僕の禿げを見て陛下が笑ったでしょう?なんか…人を楽しませることもできるんだなって思って…。


 短所だと思っている情けないこの禿げだけど人を笑顔にできるならいいかなって初めて思えたのです!」

 とローレンス様はにこにこと仰った。


「ならば今度は領地の視察に行って領民達とも交流してみましょう。もうじき冬になりますからその前に」


「はい!そうですね。冬はこの辺りは寒くなり雪が降り積もるので冬支度も必要ですね」

 とローレンス様は言う。


「まぁ…私…冷え性ですの…。腹巻でも編もうかしら?」


「え?そうなんですか?それは心配ですね…。暖かくしないとですね」


「旦那様の頭もね」

 と言い笑い合う。


 しばらくするとアグネスさんから書簡と旦那様用のプレゼントをいただいた。


 書簡には私達が帰った後のことの顛末と真相が書かれていた。

 全てはやはりエステル嬢の仕組んだことで自分の周りのものに長い間催眠をかけ従わせていたことが判った。


 彼女は今、ひっそりとした塔の牢獄に閉じ込められ日夜叫び続けているようだ。自分で自分に催眠でもかけたのかとにかく気が狂ってしまったのかまともな話をしなくなったようだ。


 エルトン王子はしばらく自室に引きこもっているとのことだった。催眠にかかったことがショックのようだと書簡には記してある。


「エステル嬢…自業自得とは言え…これが結末となるなんて…」

 と言うとローレンス様は


「セシリアさんはお優しいです。貴方を殺そうと目論んでいた女です…。しかも自分の手は汚さず他人を使い…。操られた者も今となっては被害者ですが…一歩間違えば本当に危なかったんです!」

 と心配そうに手を取る。

 暖かい手の温もりだった。


「気を付けますわ…。まぁもうこれで命を狙われなくなっただけ良かったですわ」


「セシリアさんに何かあったら僕は…」

 と赤くなる旦那様。僕は何なのかその先を中々言えずにいる。


 アグネスさんは


「盛り上がっているところ申し訳ありません。旦那様と奥様。…そのエルトン王子ですが、近々こちらに謝罪に来るとのことです」

 と言う。


「えっ!?王子が伯爵領に来るって!!?」

 急な王子訪問の予定にびびる旦那様。


「謝罪など手紙に書けばよいものを…」

 エルトン王子も暇なのかしら?

 と急遽伯爵邸は慌ただしく掃除したり来客用の部屋を整えたり料理などもなるべく予算を抑えつつも豪華に見えるようなものを仕込む。


 そして王子は5日後に伯爵邸に到着した。

 てっきり悲壮な顔して謝罪に来たと思っていたのだが…エルトン王子はなんか偉そうに狐のファーを付けたコートを羽織りやってきた。


「こんな所に住んでいるのか。いや…古臭い邸だな!」

 ローレンス様は


「王子殿下!よ、ようこそお越し下さいました。汚い所ですみませんがごゆっくりどうぞ」

 と挨拶する。するとエルトン王子は


「…ああ、禿げのファーニヴァル伯爵か。此度は大変すまなかったな!何せ俺もあの狂ったエステルに操られていたからな!無理矢理セシリアと結婚させすまなかった!」

 と言う。

 いや、そっちの謝罪かい!?


「そんなわけでもういいぞ?」

 という王子に全員「は?」という顔をした。


「あのう…な、何がでしょうか!?」


「だから…この結婚だ。セシリアは元々俺の婚約者だった。さっさと離縁して王宮に帰るぞセシリア!」

 と言うから驚く!!

 何言っとるかこいつは!!


「あの…私…離縁する気も王宮に帰ることもないですわ…」

 と言うと王子は


「無理しなくてよい!もうエステルのことは片付いた!お前俺のことが好きなんだろう?だからさっさと戻って来い。禿げなんかと結婚させて悪かった。王宮に戻ったら俺との結婚の準備を始めよう!ウェディングドレスも最高のものを用意させる!」

 と一人でなんか悦りながら言ってる。


「いや…あの…だから…そう言うことではなく…私はローレンス様と離縁はしませんし、別にエルトン王子のことを好きとは一言も言っていませんわ」

 と言うと


「なるほど…照れて皆の前では言えぬと言うのか。セシリアは存外恥ずかしがり屋ではないか!おい、貴様ら席を外せ」

 なんでだよっ!!

 お前なんか正直嫌いだよ!!とっとと帰れええ!!


 と思っているとローレンス様は


「あの…僕もセシリアさ…セシリアと別れる気は無いのですが…」

 と言うといきなり旦那様の服を掴みエルトン王子は


「おい!禿げ!身を弁えろ!セシリアは情けでお前と結婚したんだ!俺が催眠にかかっていたとは言え、セシリアがお前みたいな禿げを相手にしていると本気で思っているのか?それとも毎晩その禿頭でセシリアを!!


 この禿げがっ!!」

 とエルトン王子は旦那様を睨みつける。


「エルトン王子!勘違いなさらないでください!私達は夫婦として上手くいっておりますわ!邪魔をなさらないで!!」

 と言うとエルトン王子は目を見開き額を抑えた。そして。


「ああ…なんてことだ。セシリアが…禿げマニアになってしまったのか!!」

 おいっ!何だ禿げマニアって!!


「ですから…王子。私は貴方など好きでは…」


「判った!!セシリア!俺も覚悟を決めようと思う!お前が禿げがそんなにも好きと言うなら!この俺も…髪など惜しくは無い!


 …おいっ!ヘーゼル!俺の髪を逸れ!!セシリアが好きな禿げにしろ!この伯爵よりすごい頭だ!てっぺんから行け!!」

 従者らしき男は流石に青ざめた。


「殿下!いけません!王子が禿げに自らなるなんて!!」


「やかましい!さっさとやれ!!」

 と従者に命じ…エルトン王子は大人しく椅子に座り髪を剃られていた…。


 そして王子は…頭のてっぺんをつるッパゲにしてしまった。な、なんてことだ!!

 美しい顔をしながら頭はテカリんと禿げが光る。


「どうだ!セシリア!俺の禿げは!惚れ直したろう?さぁ!王宮へ帰ろう!俺が結婚してやる!

 光栄に思え!!」

 と笑う。

 それを凍てつくようなアイスブルーの瞳で見る。


「いやもうお帰りください…。お願いします…。私はもうローレンス様の妻ですので」


「くっ!これではダメと申すか!やはり後頭部が好きなのか!?おいっ!後も剃れ!」

 と王子は言う。

 どうするこれ?


 その時アグネスさんが気を利かせて


「失礼ながら王子殿下…。意味が解っておられぬようですが…旦那様と奥様は毎晩お子作りに励んでおられます!奥様は心から旦那様を愛し旦那様も奥様をとても大切にしておられますので離縁などとんでもございません」

 と言うと王子は


「な…何?ふざけるな!王子の俺よりこんな地味で冴えなくモテない禿げを愛してるはずはない!セシリアは俺のことが好きなんだ!俺だって…ほ、本当は…セシリアが…す、す好きなのだ!」

 と王子はとうとう告白してきた!困る!

 すると旦那様が


「確かに…あ、貴方様と妻はお似合いだと思いますが…ぼ、僕もセシリアを…ああ、あ、愛しておりますので!!」

 とかーっと茹で蛸のように真っ赤になるローレンス様は頑張ったが王子に鼻で笑われる。今の禿げたお前が上から目線で何か言っても何の威力もないわよ。


「セシリアが好きなのは禿げだ!お前では無い!ファーニヴァル伯爵!セシリアは必ず返してもらう!」

 と勝手に宣言して狐のファーのコートのフードを被り王子は笑いながら


「セシリアに似合うドレスを帰って発注せねばならない!こんな汚い家では飯もまずいだろう!セシリア!直ぐに迎えに来るから我慢しておくれ!」

 と言い王子は帰る。

 なんか凄く疲れた。

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