転生したら乙女ゲームのヒロインだったけど、一人で魔王を倒します
じゅごん
第1話 プロローグ
カシワギ マシロ。
それが前世での名前だった。
王都から程遠い、ノルンという小さな町で生まれたサラは「不思議の子」と呼ばれて育った。
サラが誰に教えられたわけでもないのに、この世界の歴史や文化、魔法や魔物のことを知っていたからだ。
サラには、前世の記憶があったのだ。
幼いサラは、この世界で『誰か』として生きた前世の記憶が断片的に残っているだけだと思っていた。
この世界では、稀に前世の記憶を持って生まれる者がいる。
そのため、サラが行ったこともない国々の話をしても誰も気味悪がったりしなかった。むしろ、歴史に名を残すほどの魔術師の多くは『記憶持ち』だという伝説があったため、町の人々からは将来を期待されていたほどだった。
美人で有名だった母親譲りの薄桃色の髪と、深い藍色の大きな瞳が愛らしいサラの容姿は、女神からの祝福だと町中で評判であり、皆を笑顔にする自分の容姿がサラは誇らしかった。
見た目と、『記憶持ち』に恥じぬ立派な人間になろうと、サラは幼心に誓っていた。
そんなサラが大好きな祖父母や町の人々から引き離されることになのは、8歳の時だ。
実の父と名乗る偉そうな男が現れ「王都で育てる」と言い出したからだった。
サラの母は、父に捨てられ命からがら両親の家に辿り着いた後、サラを産んですぐに亡くなった。
そのため実の父と言われてもなんの感慨も無く、住み慣れた故郷を離れ王都に行くなど、サラにとっては迷惑でしかない。
それでも従ったのは、その男がこの土地を治める貴族であり、サラが逆らえば祖父母を奴隷に落とす、と脅したからだ。むろん、そんなことはこの国の法では許されていない。だが、この土地ではこの男、ゴルド・シェード伯爵の言葉こそが順守される法律であり、国の定めた決まり事など無いに等しかった。
逆らう術を知らないサラは「王都に行ってみたかったの。すごく楽しみよ」と笑顔で祖父母に言い残し、ゴルドと共に王都へ旅立ったのだった。
気まずさしか無い沈黙の馬車に揺られること1か月。
ゴルドがサラに向けて口にしたのは「これが王都だ」の一言だけだった。
声をかけられて無視するわけにもいかず、サラは少し腰を上げ、窓からレダコート王国の王都レダの白い街を見上げた。
「!?」
突然、頭の中に詳細な地図が浮かんだ。
「……あ」
そして、はっきりと思い出した。
自分がカシワギマシロという日本人であったこと。
63歳で亡くなったこと。
そして、この世界がマシロが定年退職後、ハマりにハマって死ぬ直前までやり込んでいた乙女ゲーム『聖女の行進』の舞台であることを。
そして気づいてしまった。
「私、ヒロインだ」
ということに。
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