第9話3-2:検証
「冷静に振り返っていいですか?」
「いいわよ。検証しましょう」
「まず最初に、君に話しかけたのは授業中に鶴を折っていたからです。君が他の女子に折り鶴のことで話しかけられたときに、僕も気になったのです。君自身ではなく、折り鶴に興味を持っただけです」
「それは嘘ね。私の折り鶴の話は盗み聞きしていたはずだから納得したはず。それに、私に話しかけたときに折り鶴のことを聞いてこなかったでしょ。ただ単に私と話をしたかっただけと記憶しているわ」
僕は右人差し指で後頭部を掻きながら思い返していました。僕は考え事をするときに頭が虫の這うように痒くなる時があるのです。掻きむしって虫が出ればいいのですが、それは想像上の出来事にしか過ぎません。
「忘れていました、確かにそうでした。僕は君と友達になることしか考えていませんでした。そのために折り鶴をダシに使おうと思ったのです」
「急に正直になったじゃない。正直が一番よ」
カウンセリングを受けている気分でした。カウンセリングを受けたことはないですが、カウンセリングを受けた気分でした。……カウンセリングって何なんだ?
「それ以降は君が言った通り、話題がなくてよくわからないことを話したりしました。たしかに君と仲良くなりたかったのですが、それは友達としてであり、恋人とかではないのです。それに関しては君の勘違いです」
「そうなの?そんな事を言って言い寄ってきた人は何人もいたわ」
「そうなんですか?今まで彼氏とかいたのですか?」
「いたわよ。中学の時も高一の時も。今はいないけどね。似たもの同士仲良くなれそうだとか、違うタイプだから逆に仲良くなれそうだとか、理由は人それぞれ違うかったけど、あなたはどういう理由かしら」
「僕は違うと言ったばかりですけど……」
僕は意外なことへの驚きと自分が異性と付き合ったことがないことへの恥ずかしさを感じました。そりゃあまぁ、年頃の人間なら異性と付き合ったことがあるのは不思議ではないと頭では理解していましたが、人と交流がなかった僕には伝説の生物を拝めたような神々しい圧迫感を感じました。しかも、仲良くしてくれた人が実は悪の親玉だったみたいなサプライズのおまけ付きです。
「そうなの? 私の勘ではそのはずだったんだけど。まぁ、外れる時もあるわね」
「そうですか。そういう時もありますよ」
僕は心の奥底では恋心を抱いていたのですが、これ以上恥ずかしい思いをしたくない思いで砂のようにひた隠ししました。僕は盗人のようにそろそろとまた歩きをして逃げたい気持ちでしたが、まだ話をしたいという飲兵衛のおっさんみたいな気持ちも携えていました。盗人が酔っ払ったらどういう歩き方をするのかとバカバカしいことを考えて現実逃避をしようとしましたが、冷静に過去を振り返って検証をしなければならないという現実がカーテンコールのように迫ってきました。
「その日の放課後のことですが、僕はあなたについていきました。それは、昼間にあんなやりとりがあったのなら一緒に帰らないとクラスメイトから何を言われるかわからなかったからです、それだけです。それに、君も僕に目で合図したように見えました」
「確かにそうね。あの場では仕方のないことだし、私もあなたに目を向けたわ。でも、あなたはまた隠しているわ。そのことに対して嫌そうな言い方をしているけど、本当は友達ができるかもしれない状況を喜んでいる節があったはずよ」
「そうです。喜んでいました。隠してました、すみません」
僕は学校の先生に怒られた生徒のようにシュンとなりました。折り鶴女子は表情を変えていませんが、内心呆れているふうに見えました。僕は飼い主に怒られた犬のように離れた距離から上目遣いでいました。
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