第14話 十一才 基盤作りにいそしむ件3
「捕まえるって、何を。どこで」
「人間を、境界地帯で」
「いや、確かに聞いた事に答えてるけどそうじゃなく」
シェルディナードの自室、ソファで朝食後の紅茶を出していたら言われた言葉に突っ込んだディットに対する返答がこれである。
「兄貴達からお小遣いも貰えたし、手配もそこそこできたから、そろそろ本腰入れて人間選別と調達しようかなって」
「言い方」
物資か何かか? と思うような言い方だが、対象は生き物。
「坊、サラ坊のクセが移ってねぇか? 言い方気をつけろよ」
「そっかなー? まあ、端的でわかりやすくない?」
「マジでやめろ。そのうち端的じゃなく、歯に
毒(舌)持ちは二人も要らない。
「腹黒で毒持ちとかマジねぇからな?」
「はーい」
紅茶を口にしながら、シェルディナードは返事をして、飲み終えたカップを
「ま。今日は一応、様子見。どの群れがどこに巣を持ってるかと、どれを初めに確保するかを見るだけだから」
「坊……だから、言い方」
「ディット、これは線引き。わざと」
ソーサーごとカップを目の前のローテーブルに置く。
「全部を保護するわけじゃない。中には害悪になる人間もいる。それが住人の中から出たなら話は別だけど、選定前の今は全部の人間が保護外。認識としてヒトではなく、野生動物と同じだよ」
冷たいようだが、現実がそうなのだ。
「ディットは種族的に他の世界で人間とも共存してる事が多いって聞くから、気まずいのかも知れないけど、これでも他の領地と比べたら変わり者の対応だよ? 特に、人間を食糧と見る種族の領地と比べたらね」
シェルディナード自体は母方の体質なのでその人間を喰う種族で、だからこそ面倒以前の問題として領主なんてならない方が良いと思っているわけだが。
本来の父方種族は人間を喰わない。領地もそう見られて来た。それと昔から普通に人間を食糧として認識している種族が治める領地を比べたら、当然その人間の扱いは違う。
ちなみにお隣の領主一族は食べる方である。それもあって自然と人間が
「ヒトか、家畜か。その線引きをする為の『法』なんだから」
「……はあ。わかったよ。けど、言葉遣いは直せ。まかり間違って公式な場でやっちまうとヤベーだろ」
「そうだね……」
(ディットには悪いけど、むしろ公式な場では人間て完全に
ヒトとして見ている方が笑われるのが今なのだが。
この辺りは貴族と庶民の社会性の違いだろう。
勿論、ディットが言っている『言葉遣い』はそちらではなく、単語選びとかそちらなのは知っている。ただ、こういう小さな食い違いが結果的に大きな差に、
(今度の、俺が社交デビューする夜会、ディットも連れて行こうかな)
少し貴族のそういう面も見せておきたい。
ディットの感覚はあくまで庶民の一般常識だから。
(正直、ディットにはストレスになるだろうから気は進まないんだけど)
しかし、小さな食い違いが時に命取りになる事もある。一度はやはりあの
「坊?」
「……ううん。何でもない。さて、行こっか」
◆◆◆◇◆◆◆
そしてやって来ました境界地帯。
境界地帯はその名の通り、領地と領地の間に横たわる中立の境界線。
幾つかある村や町の廃墟群を見て回る。
「お。いるいる~」
「…………」
物陰からそこに
「どうしたの?」
「何でもねぇ……」
「そ?」
再びシェルディナードは人間に視線を戻す。
(うーん。ここのやつが良いかな?)
この廃墟群で十個目くらいだが、街から一番遠い。
廃墟としても古く、あと数十年くらいで風化しそうなボロさだ。
大人は無視して、今回狙っているのは子供の群れ。
人間は何故か大人が必ずしも子供を守らない。野生動物ならば独り立ちまでは親やいなければ群れの成体が面倒を見るものなのだが。
守られない子供達は、子供同士で群れを形成している。
「あれがリーダーかな」
そんな群れの中で、子供達のまとめ役と思われる少年を見つけた。外見的にはシェルディナードと同じか一つ上くらいだろうか。
赤茶けた髪に青い瞳の質素な服装。靴はボロボロだが、まだ
「……よし。決めた」
「で。どうすんの。坊」
「とりあえず、今日は帰る。準備しないといけないし」
下見は完了。狩りも何でも準備が八割だ。
目星はつけた。後は狩るだけ。
シェルディナードは帰宅すると準備を整え、そして翌日。
「助けてっ、あんちゃん!」
「あはは。命が
幼い子供の一人を人質に取ってそんな事を言っていた。
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