5-8. わかりますか? 絶対です

「あら、ヌチ・ギさん。美女さんをたくさん引き連れてどうしたんですか?」

 火口の上にドロシーの上半身がホログラムで表示され、声が響いた。


「おい、娘! お前に用なんかないんだ! さっさとドラゴンを出せ!」

「ん――――、ドラゴン……ですか? どちら様ですかねぇ?」

 ドロシーは冷静を装い、必死に時間稼ぎをする。


「何をとぼけてるんだ! レヴィアだ! レヴィアを出せ!」

「ん――――、レヴィア様……ですね。少々お待ちください……」

 ドロシーは席を外し、ポッドの所へ行った。

 そして、寝ているユータの寝顔をそっと見て……、目をつぶり、大きく息をついた。

「私、がんばる……ね」

 そう、つぶやき、両手のこぶしを握り、二回振った。


 ドロシーは席に戻り、言った。

「えーとですね……。レヴィア様は今、お忙しい……という事なんですが……」

「何が忙しいだ! ならこのままぶち壊すぞ!」

 絶体絶命である。


「ヌチ・ギさんは戦乙女ヴァルキュリさん作ったり、すごいかしこい方ですよね?」

「いきなり何だ?」

「私、とーってもすごいって思うんです」

「ふん! 褒めても何も出んぞ!」

「でも、私、とても不思議なんです」

「……、何が言いたい?」

 怪訝けげんそうな表情のヌチ・ギ。


「ヌチ・ギさんはこの世界を火の海にするって言ってましたね」

「それがどうした?」

「それ、すごい頭悪い人のやり方なんですよね」

「……。」

「だって賢かったら人一人殺さず、この世界を活性化できるはずですから」

「知った風な口を利くな!」

「つまり……。活性化というのは口実に過ぎないんです。単に戦乙女ヴァルキュリさんたちで人殺しを楽しみたいんです」

「……。」

 ヌチ・ギはムッとして黙り込む。


「私、あなたに捕まって戦乙女ヴァルキュリさんたちのように操られそうになったから良く分かるんです。戦乙女ヴァルキュリさんは皆、心では泣いてますよ」

「だったら何だ! お前が止められるのか? ただの小娘が!」

 真っ赤になって吠えるヌチ・ギ。


戦乙女ヴァルキュリさん達、辛いですよね。人殺しの道具にされるなんて心が張り裂けそうですよね……。うっ……うっ……」

 ドロシーは耐えられず、泣き出してしまった。

「何言ってるんだ! 止めろ!」

 そして、ドロシーは鼻をすすりながら、決意のこもった声で言った。

戦乙女ヴァルキュリの皆さん、聞いてください。私、これから、この基地の秘密を皆さんに教えちゃいます! ヌチ・ギさんに火口に入られてしまうと、この基地、すごくヤバいんです。ヌチ・ギさんは絶対に火口に入れるなとレヴィア様に厳命されているんです。絶対です。わかりますか? 絶対です」

「は? 何を言っている!?」

 何を言い出したのかヌチ・ギは理解できなかった。

 戦乙女ヴァルキュリたちはお互いの顔を見合わせる。

 そして、褐色の肌の戦乙女ヴァルキュリが素早くヌチ・ギを羽交い締めにして言った。

「レヴィアを殲滅せんめつせよとの命令を果たします」

「お、おい、何するんだ!? 止めろ!」

「命令を果たします」「命令を果たします」

 他の戦乙女ヴァルキュリたちも口々にそう言うとヌチ・ギの両手、両足をそれぞれ押さえ、一気に火口に向かって飛んだ。

「放せ――――!」

 ヌチ・ギの絶叫が響く中、ドロシーは泣きながら赤いボタンを押した。

「ごめん……なさい……」

 テーブルに突っ伏すドロシー。

 激しい地響きの後、火山は轟音を放ちながら激しく爆発を起こした。吹き上がる赤いマグマは天を焦がし、ヌチ・ギも美しき戦乙女ヴァルキュリたちものみ込まれた。


 ドーン! ドーン!

 激しい噴火は続き、吹き上がった噴煙ははるか彼方上空まで立ち上る。

 物理攻撃無効をキャンセルさせる仕掛けをレヴィアが仕込んでいたのだろう。噴火の直撃を受けた彼らは跡形もなく、消えていった。


 ズン! ズン! と噴火の衝撃が続き、地震のように揺れ動く神殿の中で、ドロシーは泣いた。

「うっうっうっ……ごめんなさいぃぃ……うわぁぁ!」

 胸が張り裂けるような痛みの中、狂ったように泣いた。

 世界のためとはいえ、五人の乙女たちの手を汚させ、殺してしまったのだ。もはや人殺しだ……。

 仕方ない事だとはわかっていても、それを心は受け入れられない。


 ドロシーの悲痛な泣き声はいつまでも神殿にこだました。

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