第10話
コレスコもシャイネも、当然のような顔をして俺の部屋に泊まっていった。
妹みたいなシャイネはまだいいとして、コレスコは良くないんじゃないかと思ったが、
「ヒロインなら別にいいっしょ?
それともヒロインをこんな夜遅くに追い出そうっての? そんなのありえないし。
それにシャイネがいるならオッサンもへんなことしないっしょ」
などと『ヒロイン』という単語を特権のように振りかざして居座っていた。
しかもそっと俺の耳元に顔を近づけてきて、とんでもないことを囁いてきやがった。
「でもシャイネが寝たあとだったら、へんなことしてもいいよ……」
「なっ!? なにを言うんだお前はっ!?」
「あははははは! 赤くなった赤くなった! ジョーダンに決まってるじゃん!
オッサンってば純情~! だからコレ好きなんだよねーっ!」
足をバタバタさせて、ケタケタ笑うコレスコ。
そのせいで両隣の部屋から「夜中にうるせぇぞコラァ!」と壁ドンされてしまう。
そしてもうだいぶ夜遅いことに気づき、川の字になって寝た。
俺を真ん中にして、両隣にヒロインコンビ。
大胆に俺にくっついてくるコレスコ対し、シャイネは遠慮がちに寄り添い、俺の服の袖をつまんでいた。
しかしふたりとも疲れていたのか、すぐに安らかな寝息をたてはじめる。
俺も今日はいろんなことがあって疲れていたのだが、なぜか目が冴えて寝付けなかった。
空中に、ステータスウインドウを表示させて眺める。
ウインドウはほのかに光を放っているので、暗闇のなかでもよく見えた。
「まさかこの俺が、強くなれるだなんてな……」
『強くなる』それは俺にとっては、ずっと夢のような言葉だった。
1年生の頃から変わらぬ腕力と体力で、女子にもいじめられていた小学生時代。
こんなだから、冒険者としてはもちろんのこと、まともな仕事にすら就けなかった。
子供でもできるような簡単な仕事になんとかありついて、日銭を稼ぐ毎日……。
でもそれも、終わりを告げるんだ。
これからガンガンレベル上げをして、強くなってやるんだ。
「強くなって、俺をバカにしてたヤツらを見返してやる……!
ずっと止まっていた30年もの時を、取り戻すんだ……!」
俺はひとり決意を新たにしていると、ふと、ステータスウインドウの隣にあったチートウインドウに気付く。
難易度:イージー(1ポイント使用中)
世界観:JRPG(1ポイント使用中)
セクシャル:全年齢
見知らぬ項目がひとつ増えている。
『セクシャル』って、なんだ……?
俺は、俺の胸の上で大の字になって寝ている妖精を小声で叩き起こす。
「おい、テュリス、起きろ」
「だ、旦那! 聖剣ってそういう意味ちゃう!
それにそこは入れるところやない、出すとこや!
……アッー!」
「寝ぼけてないで起きろ!」
「な、なんやねん、旦那……せっかく人がええ夢みとったっていうのに……」
「そんなことよりこれは何なんだ? チートウインドウに新しい項目が増えてるんだが?」
「なんや、そんなことかい……チートウインドウの項目は、進行に応じて増えていくんよ……」
「で、『セクシャル』ってのはどんな効果があるんだ?」
「ぶっちゃけ言うと、『エロさ』やね」
「は?」
「旦那の人生のエロさやで。いまは『全年齢』やから、エロいことはなんも起こっとらんやろ?」
「ということはこれを変更すると、俺の人生はエロくなるってことか!?」
「そういうこっちゃ」
俺は、はやる気持ちで『セクシャル』を選択する。
すると、5つの項目が現れた。
全年齢
12歳以上(使用ポイント1)
15歳以上|(ロックされています)
17歳以上|(ロックされています)
18歳以上|(ロックされています)
テュリスが夢見心地で教えてくれる。
「対象年齢が高くなるほどエロい人生になるでぇ……。
18歳以上なんて、それはもう口にも出せんようなレベルで……あんなことやこんなことが……」
「あ……あんなことやこんなことが!?
ロックされてるみたいだが、どうやったら解除できるんだ!?」
「まず、ひとつ前の項目を選択するんや……そうしたらひとつずつ選べるようになっていくでぇ……」
CPはちょうど1ポイント残っていたので、俺は迷うことなく『12歳以上』を選択した。
難易度:イージー(1ポイント使用中)
世界観:JRPG(1ポイント使用中)
セクシャル:12歳以上 (1ポイント使用中)
12歳といえば中学1年生か、下手をするとまだ小学生の年齢だ。
30過ぎたオッサンがそんなエロスを求めるなんて屈辱だが、さらに上を目指すためには仕方ない。
それに、がぜんやる気が湧いてきた。
今までは漠然と『強くなりたい』と思うだけだったが、新たに、
『CPを稼いで、セクシャルの項目を解放したい』
という具体的な目標が増えた。
そう強く思うのも無理はないだろう。
だって俺の人生は30年以上ものあいだ、エロとはまったく無縁だったんだから……!
「よおし……やるぞっ!
遅咲きだって、花は花だっ!」
俺は穴の開きかけた天井に向かって、強い決意を表明する。
その言葉は「強くなってやる」と宣言したときよりも、数倍のエネルギーを持って部屋に響いていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
俺はいつの間にか眠ってしまっていた。
トントンというリズミカルな音で目を覚ます。
「ん……なんだ……?」
身体を起こすと、ワンルームの中にあった流し台に、ふたりの少女が立っていた。
「わぉ、すっげー! こんなに細く野菜が切れるだなんて、マジ魔法みたい!」
「れんしゅうすればできるようになりますよ」
「マジで!? あーしもやってみたい!」
「どうぞ、おててをきらないようにちゅういしてくださいね」
どうやら、コレスコとシャイネは料理をしているようだった。
コレスコは流し台で料理するのは背が足りないので、踏み台の上に乗っている。
ふたりは俺が起きたことに気付くと、エプロンの裾を翻すほどの勢いで振り向く。
そして待ちかねていた様子で、
「あっ、起きたみたい! おっはーオッサン!」
「あっ、おはようございます! お兄ちゃん!」
まぶしいほどの笑顔を、この俺に……!
……ピカーッ!
それは窓から差し込む朝日と相まって、神々しいくらいに美しかった。
「て、天国か、ここは……?」
俺は思わず、そう口にしていた。
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