第18話 嵐の後に台風をぶつけんじゃねえ
[PCの不具合と格闘していました。更新再開です。
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その日のアップチュリン収穫は、現時点で収穫できたもので中止となった。まあ、割と十分な量は集まっていたので、残りの続きは明日あたりにやろうということになっている。
今は、村の集会所……っていうか、村長の家にいる。
村長の家は2階が村長の居住スペースとなっており、1階が集会所っぽい役割を果たしている。
まあ、何らかのイベントがない限りは基本的に村長の家なので、勝手に入るのは俺とか村の子供達くらいだ。
今日のような日は、一応救護室みたいな感じで開いてあるが、そうそう使うことはなかったのだが、今はあの捕まっていた男が運ばれて寝かされている。
俺は別室で行っていたリジュさんとロメアさんの診察を終え、村長とヘイルが待っているその部屋へと入る。
「あ、せ、先生!」
「こっちは終わったよ。そっちはどうだ?」
「時々動いてるから、大丈夫そうだよ、魔書塔の。むしろ、寝言も言ってるから、そろそろ起きるのではないかな」
「まあ、さっき1回診たけど、バグミラージの睡眠毒で単に眠らされているだけみたいだったし。」
騎士っぽい男の方を見れば、時折いびきをかいて眠っている。気絶中にいびきってかくものなのだっけ?
「しかし、どうしてバグミラージの長が果樹園の方まで来たのだろうね」
「それについては、後で調べておくか。ちょっと気になるし」
【万象の閲覧者】で調べれば一発なんだろうけど、『負化』の記述があった本が確かあそこにあったので、それで調べよう。単純な気分だが、緊急って訳じゃないし。
とか思っていると、男が目を開いた。
「ここは……」
「お。おはようさん。大丈夫か?」
「ここはメーレシェス村だよ」
「吾輩は、一体……?」
まだぼんやりしているのか、ブツブツと何やら呟いている。まあ、内容は自分のことについて覚えているか口に出しているみたいなのでおかしくはないのだが。
ただ、ヘイルはぴゃっと俺の傍に隠れてしまった。まだ数日一緒にいるだけなのだが、ヘイルは臆病というわけではない。あの戦い方からしても、臆病ではない。まあ、戦い方に関しては、無意識に……つまり、体が覚えていたとかだろうか。人見知りなのか?
しかし、村の人達は初対面でも大丈夫だったのだが……ま、これについては後回しだ。
「バグミラージの尻尾に捕まって気絶させられてたんだ。で、救出してここで寝かせてたんだ」
「武具はそこに置いてあるよ。安心していい」
「なるほど、吾輩は、ふむ。……理解したぞ。まずは、感謝する」
「いいって。それで、あんたは?」
そう聞くと、男はベッドから立ち上がった。
「よくぞ聞いてくれた!吾輩は”
「ぼくはイドラ。ここの村の村長だけど、主に助けたのはこっちの2人」
「ああ。俺はヒルフェール・ケセド。村の近くに住んでるだけの魔族だ。こっちは……」
「あ、へ、ヘイル・イェソドです……」
「ヘイル?もしや……彼の悪逆非道の魔王……と、同名かな?」
「あ、は、はい……」
もしやと言われてギクッとしたが、同性同名だと勘違いしてくれたらしい。セーフ。
しかし、”
「ま、色々ききたいことがあるけど……一旦おやつにしながらにしないか?」
「賛成。確か、アップチュリンのパイを焼いてるって言ってたし、そろそろそんな時間だし……子供達や氷の魔法使いさんも読んでこようかな」
「んじゃあ、俺、レイ達呼んでくるから移動しようか」
▼▼▼
「……と、そこで吾輩の剣が炸裂したというわけだ!」
「へー」「すごーい!」
アップチュリンのパイと紅茶を味わいながら、アーロの話を聞いていた。メンバーは、俺とヘイル、村長、レイ、それから子供達だ。子供達は高めの椅子に座って、足をプラプラさせながら食べている。
「それで、その後はどーなったの?!」
「するとだな、グリフォンは吾輩の前に来てだな……」
「……子供って、純粋ですよね」
「まあ……子供だし?」
まるで夢物語のようなアーロの話を輝く瞳で聞く子供達の様子に、近所で人気だった紙芝居のおじちゃんのことを思い出した。前世の話だけど。
「……というわけであって、グリフォンは吾輩に従うと約束し、かくして、街の平和を取り返したのだ!」
話が終わったらしく、子供達が拍手した。反応を見る限り、信じているというよりかは、「現実っぽい物語・絵本」みたいな感じだろうか。
手元のアップチュリンのパイもほとんど食べたし、と村長が最初に本題に入る。
「それで……アーロさん、かな。なんで、バグミラージに捕まっていたのかな。というか、どうしてこの森にきたのかな」
「ふむ。吾輩は放浪騎士。時に頼みを受けて様々な地へと赴く。此度は、この森に潜む悪を征伐するがために馳せ参じたのだ!……が、少々卑劣な罠に掛けられてしまい、獣の巣へ投げ込まれてしまったのだ」
要約すると、「依頼で森に来たけど、ヘマしてバグミラージの巣に放りこまれてしまった」ってことか。
うーん、なんかこう、アレっぽいっていうか……まだ少ししか話を聞いてないので早すぎるのかもしれないが、『ドン・キホーテ』のような雰囲気がしている。
とりあえず、気になることを聞いてみよう。
「ちなみに、『悪』って?」
「吾輩がこの森に行くべき理由の悪は、2つある。先ずは、この森に潜む盗賊団。その壊滅を頼まれ、吾輩はここに来たのだ」
「へー。で、もう一つは?」
「それはな……」
何が来るかなと思いながら、紅茶を口に含む。が、多分それは失敗だったのだろう。
「……この森を根城にするという魔王を討つためである!」
「ンッ!!?」
思わず紅茶を吹き出しそうになった。
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