第8話 王様に対する作法がわからない
「着きましたよ、ヒルフェ様」
「あ、うん……うん?」
着いたらしく、抱えられていたのを下ろされる。
まだ短い付き合いだが、なんここう、レイって、口調とは裏腹に「畏敬」なんてものと遠縁な感じな気がする。
「どうされましたか?」
「あー、いや、どこに着いたのかなって」
何か感じ取ったのか、レイが顔を伺ってくるので、すかさず、ごまかすために疑問を投げかけた。
「謁見の間の前です。本来でしたら、表から入って少し休み、その後に案内するつもりだったのですが……」
「魔王ヘイルがどうしてか襲い掛かって来ちゃってたから、色々狂っちゃったんだよね。あたし、びっくりしたもん」
なるほど、やっぱりあの襲撃は予想外だったのか。まあ、あれが想定内とか言われても困る。もし想定内なら、どういう想定をしてたらそうなるんだよ。
軽く裾を払い、服装を軽く整える。
「まあ、ともかく。王様に会うんだろ?でも、俺、礼儀とか苦手だし、知らないし……」
一番の懸念はそれだ。500年ほど、交流があったのが村人や村長だけだったのもあるし、そもそも、生前から、目上の人と話すのは苦手だった。
なんというか、敬語は嫌いじゃないものの、無駄にへりくだらないと怒ってくる教師とか、敬語使っても謎に喚き散らす上司とか……。
「目上の人はだいたい理不尽」ということと、「目上の人には敬語を使いましょう」がイコールになってしまい、よくわからない苦手意識がある。
「王様の機嫌を損ねて即・牢獄生活☆」とか物語でよくあるパターンだ。
いや、流石に魔王に対してそんなことしないとは思うが……いや、魔王じゃないけど。だとしても、協力を要請してきたのは向こうだ。罠とかじゃない限り、「楽しい☆ジメジメ牢獄生活」とかな展開はないだろう。
悩んでいると、レイが答えてくれた。
「ご安心を。国を持たずとも、「魔王」は国王と同じ、もしくはそれ以上の立場ではありますので、よっぽど変な態度じゃなければ問題ありませんよ」
「ちなみに、「勇者」も基本は同じ扱いだよー!ま、あたしは、権威とか興味ないんだけど」
「なるほど?」
そういや、自己紹介でもティファは「勇者」と名乗っていた。本にもあったが、基本的に「何をどうした」くらいしか書いてなかったので、この世界での詳しい立場は分からない。
【万象の閲覧者】さーん?
《『勇者』:主に人間、もしくは亜人の中でも特筆すべき力を持ち、尚且つ一定条件を満たした者に贈られる称号、もしくは立場。最も代表的な基準は、「魔王」に対抗可能かどうか。【魔王特攻】を持つ場合が多い。》
あ、やっぱり魔王に対抗できるかどうかが基準の一つになるのね。ってことは、ティファもすっごく強い……のだろう。実際助けてもらったし。
「ん?変なところ見てどうしたの?」
「あ、いやなんでも」
閲覧者のメッセージウィンドウを消す。
生前ラノベで見た情報系スキルは大概「声」を掛けて来るものが多いイメージがあるが、【万象の閲覧者】は「文字」だ。だから、「見る」必要がある。
しかも、見ている情報は他人からは見えない。自由に見せられるようになれば、それはそれで役立ちそうだが。
「大丈夫そうですね。それでは、行きましょう」
レイがそういうや否や、観音開きの重厚な扉が開いた。
▼▼▼
謁見の間と言うと、長方形に広い空間で豪華なシャンデリアが下がっててと絨毯が敷いてあって、奥に金綺羅の玉座があるイメージを持っていた。そう思って入ってみたのだが、どうもイメージと違う。
ガラスかクリスタルで作られたような見た目のシャンデリアが高い天井にぶら下がっているし、どう見ても高そうな青と金の絨毯がおよそ長方形の部屋にいい感じに敷かれているし、部屋の奥、段の上には銀と青い宝石で飾られた玉座が見える。
ただ、部屋にはでっかい円卓が置かれ、そこにざっと10名前後の人が座っている。
部屋の最も奥に位置する席に、おそらく王様と思われる人がいる。
「……よく来てくれた。ここまでの道のり、ご苦労であった」
味のある、渋い声。
よくイメージする、「黄金の王冠に、ファーのついた赤いマント、そして小太り」な王様のイメージではない。
明るい青色のマントを羽織り、王冠は被っていない。金で縁取られた、青を基調とした色合いの服装。深い紺色の髪を撫でつけたオールバック。
アクアマリンカラーの瞳は、力強い光に満ちている。
体格は大柄だが小太りではなく、筋肉質な印象だ。
オッサンというより、オジサマ。そんな言葉が似合いそうな人物だ。
レイは跪き、ティファはフランクな様子で言葉に答える。
「はっ。御褒めにあずかり、光栄です」
「どーもー。少し前にも連絡入れたとーりだよー」
王と思われる人物は頷くと、俺の方を、見定めるように真っ直ぐと見てくる。
「……そなたが、”方解の
「あ、はい。いや、魔王になった覚えはないけど、一応そうらしいっぽい?」
「ほう……。私は、イブン・レイバット・ハートフィル。このハートフィルの現王であるが、畏まらずともよいぞ、”方解の魔王”よ」
イブン王。なるほど、しっかりと覚えた。
人の名前と顔を一致させて覚えるのは昔から苦手だが、村の人と交流するようになってからはマシになったと思う。
フルネームは難しくとも、せめて名前は覚えねば。
「畏まらなくていいってんなら、分かった。俺はヒルフェール・ケセド、ヒルフェだ。なんか魔王に認定されてるけど、俺自身は魔王になった覚えはないから、できれば名前の方で呼んでもらえると助かる」
「承知した、ヒルフェール殿。此度は、協力の承諾に感謝する」
イブン王は立ち上がり、こちらを見ながら言ってくる。流石に頭は下げなかったが。
周囲の人々は、どうしてかはわからないが、イブン王に「王よ!」なんて言っている。多分、魔王に礼を言うんじゃない的な感じか?知らんけど。
「まずは、開いている席へ座ってもらえないだろうか。ティファ殿とレイも、座ると良い」
「あっはい」
「はーい」
「承知致しました」
円卓の空いているスペースに座る。イブン王の丁度正面だ。そして俺の右側にレイが、左側にティファが座る。
座った途端、視線がすべて俺に集まる。ぞわっとする。
それを諫めるように、イブン王が咳ばらいをすると、会議開始の声をあげた。
「それでは……”
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