第2話


———この世の端の端、皆さんの知らぬ間に繰り広げられる、愉快な動物たちの生活があることをご存知でしょうか。これから少しだけ聞かせて差し上げましょう。砂漠を庭のように駆け巡る、小さな兄弟たちのお話を。


それは広大な土地を誇る ギリシャ哲学時代の どこかの砂の国からイタリアにやってきたネズミのお話です。彼らの名前は「ペピノ」と「ソレハペンデス」、足の長いネズミの仲間です。また髭は足元まで垂れ下がっているほどに長いことこの上ない。そして彼らは自らそのご自慢の髭を踏んづけて転んでしまわないように、夜中に特訓をしています。転んでしまうと、頬袋に溜めた 榛や胡桃の欠片を吐き出してしまうし、万が一、その髭が絡まったり 切れたりなんてしたら さあ大変。たちまち すってんころりん、ころりんこ。おむすびの如く転げ落ち、行き着く先には地下の王国。いつ如何なるときも、跳ねては飛び、飛んでは跳ねての繰り返し。そう、今日もあしたも明後日も。地獄のようだって?いえいえ、そこは彼らにとっての天国です。トビネズミは飛び跳ねることが何よりも大好き。そしてそれ以外のことは もとよりできないのですから。人間のいる時にだって、本当は部屋の中をピョンピョコピョンピョン飛び回りたいのです。しかし彼らはとても恥ずかしがり屋なので、跳ね踊る姿をなかなか見せてくれはしないでしょう。それでも我慢ができず、あなたがベッドに潜った真夜中に、できるだけ静かに愉快に跳ね踊る日もありましょう。それをこっそりと覗き見て、憧れを抱いた あなたのお友達の梟くんやメルちゃんたちの後ろ足が飛ぶ形に発達する日も遠くはありません。


しばらくすると彼らは、綿人形のもとへとピョコピョコと近寄り、3年間有効な地下の国へのパスポートを発行してもらうのでした。これを通称「アリス条約」と呼びます。地上のあらゆる哺乳類は、幻の地底王国 Schéma へと参入したいが為に、毎日の修行を自らに課し、やがてトビネズミたちの一員として仲間に加え入れられるのでした。厳しい修行の末、トビネズミになった綿人形やメルちゃんたちは、それまでの記憶を消され、来る日も来る日もミートソースで赤くしたサンドイッチを片手に、ピョンピョコピョンピョン跳ね回る楽しいコシュマール(悪夢)を送ることになるのだそう。そろそろいいかな?


いたずら夢魔のミミントは 暁美さんに砂漠の夢を見せたつもりでしたが、初めから梟も蛙も女児人形だって、彼女の見せられた悪夢に綿人形が飛び回ろうと、いつでも目を覚ましていられるので、全員がミミントの救難信号を見つめるのを忘れずに、何故この子は指を隠して話すのかな、とサンドイッチにメモ書きして文通し合っていたようです。迷子や捨て子にどのように関わるのかを暁美さんは気にすることにした。


「落雁をいただける?喉が渇いたの。」

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