第136話 彼は汗だくになっていた

 ――ガチ。


「——あれ?」


 俺が部活を終えて図書室へとやって来た時には――もぬけの殻だった。


 ちょっとした事故。事故である。ホントわざとではない。たまたま掃除をしていて、窓近くに置いたバケツ。正確に言えば消火栓?まあ消火用のホースの赤い箱だよ。

 そこの上にバケツを置いて、窓掃除だったのだが。その時に。たまたま手が当たって、たまたま下にいた松尾に水がぶっかかっただけ。

 って、さらに言うと、なんか下で声がするな――と思ってみたのが原因ってか。下で遊んでいる奴が居なかったら俺も覗いて、バケツを落とすということはなかったはず。って、待て待て、ダメだ。遊んでいたのは長宮。あっ。長宮様だから――これは下手に触れてはいけないか。消去だ。


 そうそうちなみに目撃者も居た。美術部員で掃除をしていたので、他の部員が俺が水の入ったバケツに身体が当たり落していた。と証言してくれた。だから、俺がわざとではないことは証明されている。って、マジで金貸してもらっている松尾に水ぶっかけるとかできないからな。

 そこそこの額普通に払ってもらってるし。マジで明日は忘れないようにしないと。長宮――違う違う、長宮様。蓮花寺様に乗り込まれたら。って。蓮花寺は様いらないか。いや、長宮も普通でいい気がするが。って、今は変なことは考えない方がいいな。


 俺はそんなことを頭の中でくるくるとエンドレスで思いつつ。図書室までやって来たのだが、ドアが開かなかった。ぱっと見部屋の電気も――ついてない。


「あれ?帰った?いや――どこかで乾かしている?」


 俺はとりあえず再度図書室のドアを開けようとしたが。


 ――ガチ。


 鍵がかかっていた。


「もしかして――まだ外に居るのか?」


 その後の俺の話を少しすると。

 まず松尾たちが水浴びをしていた場所へと向かったが。そこも誰も居なかった。

 ちなみに松尾に水をぶっかけた時はあちらこちらに水たまりがあったが、今は綺麗に乾いていた。これだけの日差しがあるとな。

 って、どこ行ったんだよ。とりあえず謝るというか。謝って。話さないとな。それこそまた弁償。明日も何か買ってくるか。などと考えつつ俺はその後教室や。グラウンド。体育館の方まで行ったのだが、松尾たちの姿を見つけることは出来なかった


 ちなみにこの時の俺はすっかり松尾に連絡をしてみるという選択肢を忘れており。暗くなるまで校舎内を走りまわることになったのだった。

 せっかく連絡先の交換をしたのに、交換した。ということが完全に記憶から抜け落ちていた俺だった。


 俺が「そうだよ。電話したらいいだけじゃん」と気が付いたのは家に帰ってから。汗だくになり。シャワーを浴びて自室で冷たい飲み物を飲んでいたら、頭が記憶を呼び戻してきたのだった。


 一つ報告しておくと。俺が連絡した時の松尾はハーレム状況だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る