第43話 再び祠へ

「魔法を覚えたいのか? ほれ」


 村長からのクエストで、何かおつかいさせられるのかと思えば、あっさりと紹介状が貰えてしまった。


「拍子抜けですねー」


「ハッチは村長クエやってないんだっけ?」


「成人式で許可をもらったので、やってないですね」


 今は、オトシンさんを祠へ案内しながら話している。

 俺が知ってる場所も、残りは祠だけだろうから、案内も最後になるかな? なんだかんだで、ここ数日は生産以外一緒に居た気がする。

 釣りトークもはずむし、なかなか楽しかった。


「うちの会社がここに参入するって言ったろ?」


「そういえばそんな話も」


「それでイベントを考えてるみたいでな」


「ほうほう」


「お前は参加しろ」


 ん? 勧誘されてるのかな?


「ちょっと良く聞こえませんでした。参加の勧誘ですか?」


「いや。参加が決まってると言ったんだ」


「なぜ!? 何も聞いてないですよ!」


「アタシが申し込んでおいたからな! あっはっは! 運営も喜んでたぞ!」


 イベント参加はしたいから良いけど、ちょっと強引すぎやしないか? それになんで運営が喜ぶんだよ。俺1人参加したくらいじゃ変わらないだろ。

 そんな考えが表情に出ていたのか、それを見たオトシンさんがニヤリと笑っている。


「ブログにイベント告知載せといてくれな!」


「しょうがないですね。今度データ送ってくださいよ?」


「おうよ!」


 見てる人は少ないだろうけど、頼まれちゃったし、一応載せておくか。だとしてもどんなイベントにするんだろうか? そう思って聞いてみたが、詳細は決まってないらしい。それが決まってからデータを送ってくれることになった。


 イベントのことよりも、俺は今、触りたい衝動を抑えるので必死になっている。

 俺の前を歩くクルスが尻尾をブンブン振りながら、オトシンさんに纏わりついている様子が見える。特に洞窟に入ってからは、1戦ごとご主人の顔を見て、褒めてくれと言わんばかりに体を擦り付けている。

 我慢出来ずに手が動いてしまった!


「もう諦めろよ。種族特性なんだろ?」


「オトシンさんにはわかるまい! これは生殺し状態なんですよ!」


「クルスは動き早いから、無理じゃないかなぁ」


 その毛並みに埋もれることは出来ないのか! あな口惜くちおしや!

 隙を見てクルスに触ろうとするが、全部回避されている。一向に成果無く、とうとう目的地に到着してしまった。


「ん? どこに祠があるんだ?」


「この壁がマボロシなんです。そのまま入れますよ」


 先にカモフラージュされた壁に入り込む。

 相変わらず、殺風景……じゃない。

 置物が増えてるな。

 テーブルやベンチに戸棚。鍋や包丁も置いてある。


「失礼します。かなり物が増えてますね」


「いらっしゃい。弟子が世話になるとか言って、教え子たちが置いていったんだよ」


「あぁ。そういうことですか」


 品質の良い物ばかりだから、アップデートで追加されたのかと思ったが、師匠の作品なら納得だ。


「ハッチ! 置いてくなよ」


「その子は?」


「あれ? 人族がいるのか? なんか様子は違うな」


 パッと見ただけじゃわからないけど、人族を見慣れてるオトシンさんには違いを感じるようだ。神官さんが待ってくれているので、とりあえず紹介してしまおうか。


「こちらは村長に許可をもらった人族で、魔法を覚えたいそうです」


「これが許可証だ……です」


 神官さんは、オトシンさんから巻物を受け取ると、軽く流し読みして頷いていた。その後、ポイっと巻物を投げ返し、オトシンさんは慌ててキャッチしている。


「わ! それで、教えてくれるのか?」


「良いですよ。あなたはスキルの種も無いみたいなので、まずは魔力の取っ掛かりですね」


「スキルがゼロまで行けばポイント使えるからな。助かるよ」


 ポイント? どういうことだ?


「オトシンさん」


「どうした?」


「ゼロまで行けばポイント使えるというのは、どういうことですか?」


「ん? ゼロから1は、ポイント1入れれば上げられるだろ?」


 なんだと……。

 つまり、俺の行った数日間の苦行はポイント1の効果だと?


「神官さま!」


 慈悲深き天使のような微笑みに見えるが、目尻がピクピクしている。


「あなたは試練を耐え抜いて成果を得たのです。貯めたポイントは魔法陣に注ぎ込みなさい」


 この神官は、どんだけ魔法陣を覚えさせたいんだ……。


「魔法陣? そんなのもあるのか?」


「ありますよ。あなたも魔法を覚えたら案内してあげましょうか?」


「ありがたい! 是非頼む」


 そう言って、神官さまとオトシンさんは訓練を始めてしまった。

 確かにポイントを他に振れるのは良いけど、あの苦行を考えると、ポイント振ってた方が良いだろ。今になって知るとは、残念でしょうがない。


「神官さまの言う通り、魔法陣に注ぎ込めば良いか」


「あなたもついでに訓練していきなさい」


「え? 俺は別に」


「大地魔法には『土弾』という攻撃がありましてね」


「お願いします!」


「よろしい。それではこちらで」


 いかん。

 つい反応してしまった。

 まぁ、新しい攻撃魔法を覚えられるなら良いか。

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