第52話ヤキモチみたいなもん

「香絵。

 烏丸先輩ってさ、生徒会の長谷川先輩と付き合ってるのかな?」


 は……?


 あまりと言えばあまりに急な深雪の発言に、かじったウインナーがお弁当箱の中にポトリと落ちた。

 お弁当箱の中に入って良かった。


 いやいや、えーっとなんだって?


「ええっ!

 彼女いたの?」

「ほら、この前体育の授業の後。

 運ばれて行った先輩でしょ?」


 私より先に、夏美と愛梨が過剰反応。


 待て待て待て待て。

 カイリとリカコさんが。なんだって?


 今日の深雪は朝からため息が多いなぁとは思っていたけどさぁ。

 どうしたらそんな話になるのよ。


「ええええっと。

 そんな感じは、無いと、思うけど」

 ていうか、想像が出来ない。

 カイリしいたげられてるし。


「どこからそんな話になったのよ」

 これは確認しておかねばなるまいよ。


「昨日ね、美術部の友達と駅前のモールに買い物に行ったんだけど、モールのカフェで2人がお茶してるの見ちゃって。

 すごく楽しそうに話しててさ。

 はあぁぁぁ。

 長谷川先輩じゃかなわないよ」

 卵焼きはフォークが刺さったまま、一向に深雪の口には入らない。


 昨日ってことは、日曜日。

 カイリと2人でカフェなんて。

 って、あたしもしたことあるな。カイリと2人でお茶。

 リカコさんも後で合流したけど。


 んー。

 そうなんだよね。あたしもイチとジュニアと3人でおやつしに行ったりもするし、でもそれは何ともない普通のことなんだけど。


 昨日カイリがどこにお出かけしたのか、後でジュニアに聞いてみよう。


「そしたらね。2人が一緒に帰るのも見たことあるなんて友達に言われちゃって」

 それはたぶん護衛対象期間だったっていうか。


「やっぱり付き合ってるとしか思えないよね」

 それはない。


 それはないんだけど。


「深雪。元気出して。

 今度サッカー部の試合一緒に見に行こう。

 最近はテニス部もバレー部もそれぞれいい推しメンがいるから。

 ムキムキがいいなら、水泳部、空手部」

 夏美さん。範囲ゾーンが広いよ。


 ちょっとこのまま深雪のカイリ熱が下がってくてたらいいな。なんて思っちゃうあたしは、深雪にもカイリにも友達思いじゃないのかな?


 なんでこんなにイヤなんだろ。

 深雪もカイリも大好きなんだけどな。


 ###


「それは、ヤキモチみたいなもんだね」

 お日様の当たる階段の踊り場。

 特別教室の並ぶ階に上がる、人気のない階段に座ったあたしは立ったままのジュニアを見上げる。


「お兄ちゃんを取られちゃう。

 みたいな。

 カエ、ブラコンだったの?」


「ええっ。そうなの? かな」

「僕が聞いてるんだけどね」


「んんんんー。

 わかんない。

 わかんないけど、わかった」

 ヤキモチか。

 んー。ちょっと納得かも。


「返答が謎だよ。

 呼び止めておいて、聞きたいことはおしまい?」


 苦笑いのジュニアにあたしは首を振る。

「本題はこれから。

 昨日カイリお出かけしてた?

 なんか深雪が目撃していたらしくて、ショック受けてた」


 思い出すように少し考えていたジュニアは、ああ。と視線をあたしに戻した。


「リカコでしょ?

 ほら前回の内偵、キバ達に不意打ち喰らったからね。

 リカコの手間をまた増やしちゃったし、僕たちみんなの割り勘でリカコにお茶をご馳走したの。

 ゾロゾロ行ってもしょうがないし、カイリはその代表」


「えー。あたしも誘ってよ」

「カエの分はおごらないよ」

「ケチー」


 即答のジュニアに口をとがらせる。


「目撃者がいたなんて笑える。

 しっかし、女の子って本当にそういう話題好きだよね。

 なんだか面白い事になりそうな予感」

 にまっと悪い笑みのジュニアを見ると、あたしってつくづく余計な一言が多いのかなぁ。

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