第50話いつになってもコトが進まない
「リカコもカエも問題なかったか」
走行するバンの窓から車内に転がり込むカイリが開口一番に切り出す。
先に乗り込んでいたイチもジュニアの一言を待つように視線を送った。
「大丈夫、2人ともちゃんと連絡とれたし。
家の中でもインカムを離さないように、リカコからもカエに連絡しておくって」
「インカムを持っていればGPSで追えるしな。
結局、キバは何がしたかったんだ。
動揺を誘うためだけのハッタリか?」
フラットにしたバンの後部座席に腰を下ろしてカイリが意見を求めてくる。
「さあね。
キバもアギトもここにいた。
動いているとしたら、
でもカエのところにもリカコのところにも姿を見せなかった」
確認するように言葉を紡ぐジュニアにイチが顔を上げた。
「間宮家。
今は誰もいない」
「あ。そっか。
そっちに行った可能性はあるね。
ピンポンしててくれればインターホンに映像が残るけど。
まさか襲撃に行ったのに真っ暗な家のピンポンを押したりはしないだろうし。
あの辺りの防犯カメラか……」
ジュニアの意識が集中する。
「あっとと。
その前に今日のお仕事の方にケリを付けておかないと。
倉庫街の防犯カメラの映像はある程度抑えたから、寮に戻ってから解析しよう。
キバたちの動きが見られるかも」
イチの差し出すカメラを受け取ると、ジュニアがデイパックに詰め込んだ。
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マンションの駐車場に入ると大きく開くバックドアから、各自が装備品を確認しながら外に出てくる。
弱い街灯に星の輝きがどうにか見て取れる中、イチの視線は空を隠すマンションの黒い影を見上げた。
「イチ」
呼ばれて車内を振り返る。
「様子見てきてよ。カエの。
荷物の運び出しはカイリがやってくれるから」
完全に他人任せの発言でノートパソコンを手にジュニアが声をかけてきた。
「あ。いや、でも」
今日の荷物は何があったかと思いだそうとしても、脳みそが正常に動いてないのは自分が一番よくわかっている。
「行かないんだったら僕が……」
「いや、行ってくる。
悪いっ」
ジュニアの言葉をさえぎって、
「今日はそんな荷物があったのか?」
イチの後姿を見送ったカイリが声をかける。
「んー。
特にないかな」
「真影さんもお疲れ様ぁ。
気を付けて帰ってね」
バンの運転手に声をかけ、ジュニアがバックドアを閉めると、ゆっくりと動き出したバンが駐車場を後にした。
「あの2人は突き飛ばす位の勢いで押してあげないと、いつになってもコトが進まないよ。
小中学生の方がよっぽどまともに恋愛してるんじゃないの?」
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インターホンの音に視線を移すと、リビングの壁に張り付いた小さな液晶が人影を移す。
むむ。こんな時間に怪しい人。
でも、ジィッとにらむ液晶には見慣れたイチの顔。
自分でも知らずに緊張していた全身の筋肉が、ふわっと
「イチ。お帰り。
ちょっと待ってて」
インターホンに告げて玄関に向かう。
開くドアの向こうから見えたイチのこわばった顔が、ホッと安堵したように見えた。
「今日はもうおしまい?
ジュニアから変な電話が入ったから、なんだか心配しちゃったよ」
少し見上げるイチが、玄関の中に入ってくるとドアを閉める。
そのまま歩み寄ると、何も言わずにあたしを強くハグしてくれた。
「イチ……」
全身に感じるぬくもりに、初めて心細さを感じていたことに気付かされてギュッとイチにしがみつく。
「ただいま」
「うん」
少し緩んだ腕の隙間から見上げたイチと視線が絡み、ゆっくりと唇が重なった。
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