第37話愛妻家は怒らせると怖いね
「さてと、みんなそろったわね」
寮のソファのいつもの位置。イチと、グンちゃんを抱っこしたジュニアの真ん中に腰を下ろすあたしと、セットの一人用のソファに腰を下ろす巽さん。
「やりにくい」
軽く頭を抱えてリカコさんがつぶやく。
「気にするな」
巽さん自身はさらりと流したけど、どう頑張ったって気になるから。
せりかさんは病院に運んで、検査のためと入院させてもらった。
一応個室の前には森稜署から警備を置いてもらったけど、キバやアギトが攻めに来たらとてもじゃないけど、歯が立たないだろうなぁ。
まぁ、今回の襲撃のメインはあたしだったみたいだし、せりかさん単体への襲撃は無いだろうと踏んでの処置ではあるんだけど。
せりかさんには巻き込んじゃって本当に申し訳ないとしか言えない。
で。そのまま巽さんに車でここに送ってもらったんだけど、なぜか一緒に上がってきたという。
「せりかさんはどんな様子?」
「各所打撲と捻挫、足裏の
全治3週間程度。週明けの月曜日には退院の予定だよ」
リカコさんの問いに答えて、ついため息が漏れる。
「もおおおぉぉっ。
すっごい悔しい!
絶対に許さないんだから」
「今回は常に先を行かれてる感じだね」
ジュニアがちょっと遠くを見るように言葉を口にする。
「色々手を伸ばして調べてみたんだけど、僕とカエが内偵に入った回の前日に中国からそれらしい人物が11人入国しているんだ」
みんなの視線がジュニアに集中する。
「で、翌日の昼には8人が帰りの飛行機に乗っている。
3人はまだ国内にいるみたい」
「3人って事は」
イチのつぶやきにジュニアが肩をすくめた。
「もちろん搭乗手続きした名前はキバやアギトじゃなかったよ、どの名前も偽名だろうけどね。
帰った連中は観光で入っているから15日以上の滞在は出来ないし、危ない取り引きの後だ出来るだけ早く出国したかったはず。
一方で餓狼たち3人が日本国籍を持っていると考えれば僕たちの始末のために残っていると思われる」
「滞在先は?
日本でのアジト的な場所があるのかな」
「かもね。
ここから半径20キロの範囲にある宿泊施設をしらみつぶしに当たったけど、それらしい人物は見当たらなかったよ」
あたしの問いかけに、ジュニアがお気に入りのダイオウグソクムシの巨大なぬいぐるみ、グンちゃんの頭をぽすぽすと叩く。
「滞在先と言えば、さっき太一と剣士が引き渡してくれた銀龍会のヤツらだが、アイツらも逮捕までの滞在先が不明のままだ」
巽さんがゆっくりと口を挟む。
「全員が金曜日の取引に関わっている」
カイリが考えてる風につぶやいた。
「ところで、入出国の情報なんてどこから仕入れてきたんだ」
巽さんがチラリとジュニアに視線を送る。
「もちろん入管管理局のデータをハッキングしたんだよー」
悪びれる様子は一切ない、いつもの調子で口にするジュニアに。って、違法だからねハッキング。
んで、巽さんは警察の人間だし。
ジュニア以外の全員が、ヤバいかなぁって雰囲気を感じ取る。
「そうか、今のはプライベートって事で聞かなかったことにしてやる。
その代わり、次からは必ず俺を通せ。
持てる権力は最大限活用して、今回はお前たちをフォローする」
ええええっ。
お堅い巽さんが、なんかちょっと、柔軟になってる?
「それって公私混同ってヤツじゃないの?
愛妻家は怒らせると怖いね」
あああっ、ジュニアァァ。珍しく巽さんが協力的なのにぃ!
「なんとでも言え。
普段ならお前たちにはお前たちのやり方があるだろうから口出しはしないが、今回は俺の見えるところでせりかさんや、俺の子供たちに危害が加わったんだ。
俺も腹に
憮然とした顔のまま、巽さんが淡々と言葉を紡ぐ。
なんかちょっといい事言ってない?
みんなの視線がパパパッと絡んだ。
「ま。いいけど」
珍しくジュニアも毒気を抜かれた返事になるくらい。
「これからの動きで1つだけ確認だ。
しばらくの間
確実に場所が割れてるんじゃ、危なくて仕方がない」
一同を見渡した巽さんの視線があたしで止まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます