LIFE IS SPIRAL

ジーニー

第1話 8月8日

8月8日の午後8時。




俺……大山川貞李おおやまかわていりは散らかった部屋のソファで寝転んでいた。扇風機の温い風を浴びるのは不思議なほど心地よく、もうここで寝てしまおうかと瞼を閉じたそのとき、玄関のドアが開く音が聞こえた。




「ただいまぁ!」




「……おかえり」




兄の蒼李そうりが帰ってきた。相変わらず声がデカい。その上、金に染めた髪にピアスも開けているときたもんだから、もはやDQNでしかない。だが、中身は意外と優しい。そのおかげか、薄汚れたアパートで兄と2人暮らしをもう3年も続けているというのにあまり不満も無い。強いて言えばエアコンが無いことくらいか。




「おい、掃除くらいしとけよな」




「ごめんごめん」




散らかった部屋を一瞥して蒼李が愚痴をこぼす。確かに、毎日働いている蒼李より大学生で暇な俺が掃除するべきだな。




「これとか……もういらないだろ」




続けて、蒼李は床に置かれた季節外れの白いセーターを掴んで言った。そういや、こんなセーター買ったっけか……。




「まあ、確かにいらないね」




セーターをクローゼットの中に放り投げた。……こうやって雑だから、整理整頓ができないんだろうな。






○○○






時刻は午後11時。部屋が静寂と暗闇に包まれ、遂に眠ろうとした頃。




「……なあ」




「……ん?」




もう寝たと思っていたのに、ソファから蒼李の声が聞こえてきた。




「母さんのこと、どう思ってる?」




「……どうもこうも……どうとも思ってないよ」




「……そうか」




会話はそこで終わった。もう何回目だろう、この話をするのは……。






○○○






ジリリリリリリリリ!




けたたましい目覚ましの音で目覚める。……何で夏休みなのに目覚ましセットされてんだよ、全く。




そう思って携帯の時計を見ると……




「あれ?」




6月8日の午前7時。




あれ、6月8日?昨日は8月8日だったよな?携帯がおかしくなったか?いや、でもそんなこと……。




立ち上がり、カレンダーを見ると……6月だ。昨日は確かに8月のカレンダーになっていたはずなのに。試しにテレビを点けても、6月8日のニュースを垂れ流されていた。キャスターは何の疑問も持たずに原稿を読んでいる。




……兄はもう仕事に出かけている。取り敢えず誰かに話を聞いて確かめに行こう。今日が確かに6月8日なら、大学で授業がある。




「行くか……」




俺は街に出た。

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