第2話

変装用の黒縁眼鏡が真島マヒロによって奪われた。



「や、やっぱり...!

その切れ長の目!!シンの目じゃん!


更に俺の重ため前髪も彼女の右手によって

ふわりとかき上げられ、おでこがあらわになった。


「さ、触るな...や、やめろ...」


俺のうめき声虚しく。


「そのでこの広さ...!シンと一緒!!」


興奮した表情を浮かべた真島マヒロが

手際よく事に及んでしまった。


俺は確かに、シンだが。

正体は隠さなくてはいけなかった。


レコード会社や事務所との約束で、

絶対的に俺の存在はよくわからない、そうミステリアスな人間だと

しておかなくてはならなかった。


週刊誌に、国民的人気バンドのボーカルが

実は陰キャだなんて記事が載ろうものなら、

CDの売り上げに影響が出る。

売り上げが減れば、給料もそれに付随して減る。長男な俺の下には弟が四人。子沢山な

貧乏母子家庭の俺は、

俺のギャランティーで生計を立てているようなもの。俺は国民的人気バンドのボーカリストにまで上り詰めたが、道のりは急な上り坂だった。


現在から約一年前こと。デビューする前までは、

血反吐を吐く思いで毎日、歌の練習をし、音源を何度となくレコード会社に送りつけ、

漸く掴んだ夢。


やがて。俺のしつこさに

根負けした、レコード会社の


お偉いさんと話をして、デビューさせて

もらえることとなった。だが、当たり前だが、ぱっと見俺は陰キャだから、外見の徹底的な改造を余儀なくされ、眼鏡はやめろと言われて、

コンタクトにし、前髪はオールバックにして

くれと、言われて作り上げられたイケメンは

もうひとりの俺。


ここで、バレる訳にはいかないんだ。


「違うったら、違う...!他人の空似だっっ!!」


「あら、まだとぼけるわけ?

そんなに、正体、バレたくないわけ?」


「バレたくねぇよっっ!」


あ、と思った。


俺は咄嗟にそんなセリフを吐いてしまったが、

この発言、

自分が、シンだと言ってるよーなものだった。

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