鉄拳令嬢アイアネリオン

青木のう

第1掌 転生令嬢編

第1話 その顔面に右ストレート

前書き

よろしくお願いします

――――――――――――――――――――――――――――――――


「ウィナーァッ!!! チャンピョンッ!!!」

「「「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」


 歓声が、称賛の声が私に浴びせられる。これこそが最後まで立っている者のみに許される、勝利の美酒びしゅというやつだ。


 ここは裏社会の闘技場。表社会とは隔絶した強者たちがしのぎを削る。私はその女子チャンピョン。無敵の女王、人類最強の女として君臨している。


「嘘だろ……、“シベリアの赤き荒熊”が瞬殺だと!?」


 私の目の前でのびているコイツ、そう言えばそんな異名を持っていたんだっけ?

 まあ、私の敵じゃなかったね。


 私が何故こんな裏社会で生きているか?

 理由はシンプル、金を稼げるからだ。


 私は孤児こじとして生まれ、孤児院で育った。そして格闘家としての才能を今のコーチに見出された。多くの金が動き、ファイトマネーをたんまりと稼げるこの闘技場は私にとって好都合だ。表の格闘会と違ってクリーンな縛りはないからね。ただ敵をぶちのめせばいいこっちの方が私には向いている。


「女王、サインしてください!」

「ああずるい! こっちもお願いします!」

「わかったわかった、並んだ並んだ」


 強さこそが正義の裏社会。無敵の女王の私にはファンが多く、毎度こうやって裏社会を生きるいかつい男女が列をつくる。


「チャンピョン、花束をどうぞ」

「ああ、ありがと――」


 私に花束を差し出した女の瞳が怪しく光った。


 ――コイツ、ヤバい。


 だが、さすがの私も試合直後で気が緩んでいたのか反応が遅れる。女はその隙を見逃してはくれなかった。


 ――パン、パン。


 乾いた音が二度響き、私の腹のあたりから温かい液体があふれ出す。見れば目の前に突き出された花束の中央から、鈍く黒く光る物が突き出ていた。銃だ。


「きゃあああああああああっ!!!」

「チャンピョンが撃たれたぞ!!!」


 気がついた周囲の人間が女を取り押さえ、私の下へと駆けよる。


 ああ、痛い。痛いと言うより熱い。腹に二発食らった?

 クソっ、畜生、油断するなんて私もドジ踏んだものだ。


「あはは、あははははははは!!! ざまあないわね!!!」


 私を撃った女は取り押さえられながらも、狂ったように笑う。

 私に恨みをもつ人間?

 生まれてこの方、恨みと喧嘩はアホみたいに買ってきたから、心当たりが多すぎてわからない。


「クソっ……、畜生……」


 もう声もまともに出ない。医者を呼ぶ声が聞こえる。

 畜生、銃なんてつまらねえもの使ってくれやがって……。

 恨みがあるなら殴りにこいってのよ……。


 嗚呼、欲しい。

 何者にも撃ち抜かれない、鋼の身体が――。


 嗚呼、欲しい。

 どんな壁だってぶち破る、鉄の拳が――。

 

 そう考えたのが、私の人生最後の記憶となった。



 ☆☆☆☆☆



「――!」


 ……なんだ?

 私は確かに撃たれてそれで……、つまりここは病院?

 いや、少なくともベッドの上じゃない。私は立っている。


「――でしたか? 貴女のその下劣な行いが――」


 私は落ち着いてゆっくりと目を開けた……が、どこよここ?


 ――パーティー会場だ。


 いや、比喩表現じゃなく。

 ドレスや燕尾服えんびふくで着飾って飲み食いするあのパーティー。間違いなく私の周囲でパーティーが行われている。そして私も何故かドレスを着ている。


 なんじゃこりゃ、夢かな?

 それともここがあの世なのかしら?


「――よって僕は貴女の様な女性とは――」


 そして目の前でさっきから喋り散らしている男は、輝くような金髪にエメラルドグリーンの瞳、すらりとしたスタイルに整った容姿。どっからどう見ても日本人には見えない。外国人モデルか?


 いや、目の前の男だけじゃない。私たちを囲むように立っているパーティー服の男女は、みんな日本人には見えない。全員十五、六くらいの外国人だ……って待て――、


 ――私の身体も私じゃないっ!!!


 え? なによコレ!?

 いつから私はこんなちょい肥満気味の女になった!?

 いつから私の髪の毛は長ったらしいプラチナブロンドになった!?


 いやいやいや待って、これは夢?

 今頃私は病院で生死の境をさまよっているとか?


「聞いていますか? 僕はあなたに言っているのですよ、イザベル・アイアネッタ!」


 イザベル・アイアネッタ……それが私の名前なのか? どうも人違いですって雰囲気じゃないみたいだし、なんか薄っすらとそんな名前だった気がするような……?


「だいたい貴女はですね――」


 目の前のモデル男は、またくどくどと喋りだす。

 なんなんだコイツ? さっきから聞いてりゃ男のくせにネチネチクドクドと、私……というかイザベル・アイアネッタの悪口ばかり言ってくれちゃって。玉ついてないのかな?


「――性格が――品性が――」


 ああもう状況はわけわからんし、私的にはさっき撃たれたばっかりだしでイラついてきた……!


「ゆえに僕、スチュアート・スタントンは貴女との婚約を破――グベシッ!?」

「ごちゃごちゃうるせえ―――――――――――――――ッ!!!!!」


 何を言おうとしたかはわからない。けれどなんか知らんけどムカついた。


 ――だから私は、を目の前のモデル男に叩き込んだ。


 モデル男は空中できりもみして吹き飛び、「ぶべっ」とかよくわからない音を上げて倒れ伏した。

 ったく、この程度でノックアウトとか鍛え方が足りないよ。


「きゃああああああああっ!」

「うわあっ! 王子!」

「アイアネッタ公爵令嬢を取り押さえろ! 殿下が殴られたぞ!」


 会場は阿鼻叫喚あびきょうかんの渦に叩き込まれた……というか叩き込んでやった。周囲の男達が、私の身体をガバッと取り押さえる。


 さっきとは逆の立場ね。だけど私はムカつくやつは自分の拳できっちり殴る。そういうスタイルよ。武器に頼るハンパな覚悟でリングに上がっていないわ。


「くそっ……、放せッ!」

「反逆者め、大人しくしろ!」


 なんか知らんが押さえつけられている以上に身体が重い。クソっ……、こんな男五、六人程度、いつもの私なら楽勝なのに……。そんな事を考えながら、私の意識は再びブラックアウトしていった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

後書き

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