第17話カエル:カエルの話
「
そうじゃな。
握りつぶされるのもいやだから、話すか。
だが、わしにも言い分があるぞ?
わしは小さい時にはここには住んでいなかった。元々は隣町の田んぼ付近に住んでいた。まあ、湿っているところは好きじゃ。
わしは、周りから浮いた存在じゃった。それは宙に浮くという意味ではない。存在が浮いていたんじゃ。周りに溶け込むことができずに、1人ぼっちじゃった。その理由は、わしの能力じゃ。浮く能力じゃ。この浮く能力とは、宙に浮く方じゃ、間違えるなよ。ややこしいが、宙に浮く能力のせいでわしの存在が周りから浮いてしまったんじゃ。
お主は知っているかもしれないが、妖怪の中でも特殊な能力を持つ者は少ないんじゃ。事情の知らないものたちは、妖怪は皆、特殊な能力を持っていると思っているらしい。しかし、特殊能力を持つ者はごく一部の妖力が強いものだけで、普通の妖怪はもっていない。
そして、このことはお主だけでなく誰でも知っているかもしれないが、そういう特殊なものは周りから敬遠されるのだ。わしは周りから尊敬されたり疎まれたり色々とあったが、共通してあったことは、周りから浮いていたということじゃ。存在が浮いていたのじゃ。
尊敬するものは、常にわしに合唱して拝んでいた。自分なんか恐れ多い、といってある程度から近づくことをしなかった。形式的な礼儀ばかりで、友達というものはできなかった。別にそのものたちからは嫌われてはいなかった。ただ、距離があっただけじゃ。尊敬するものとの距離じゃ。お供え物をいただくことはあっても、友達としてプレゼントをもらうことはなかった。その距離は全く埋まらなかった。
一方で妬むものたちもいた。石を投げられたこともあった。無視も日常茶飯事じゃ。そういうものは腹たつこともあったが、腹立つことも忘れるくらいいろいろとされた。そこには形式的なものはなく、無作法にいじめられた。嫌われていたからものも盗まれた。ひどいものじゃろ? しかし、意外となんとも思わなかった。結局のところ、わしから距離を置いていることにはかわりないのじゃ。尊敬してくるものと同じ感情を抱いた。このものとは距離があるんだな、と思った。
結局のところどちらもわしのことを考えてくれなかった。わしはいつも気持ちは沈んでいた。皮肉じゃろ? 浮く能力を持つ者が、沈んだ気持ちになるなんて。そんな気持ちはお前の能力で浮かしてしまえ、と皮肉られる気がするから誰にも言わなかった。それだけわしは誰も信じていなかったし、距離があった。要するにわしは浮いた存在じゃ。わしはそんなことが嫌になり、皆がいない場所を求めた。皆から距離を置いたのじゃ。そこではわしの能力を知る者はいなかったので、浮くことはないと思っていた。しかし、こんなよそ者を招き入れるほど世の中は甘くなかった。わしは一人ぼっちだった。わしの能力を知らないモノたちの中にいても、周りからは距離があった。
その時に思ったのじゃ。わしが周りから距離があったのは、能力のせいではないのではないのか? ただ単に自分のせいだったのではないのか?
わしはそういうことを考えながら1人寂しく川を眺めていた。
――そんな日が続いた後、わしはある人間と出会った。
その人間は1人で川を眺めていた。なんか不思議だと思ったのが、普通こんなところに学生の人間が1人で来ることはないということだ。小さな子供が来るだとか、集団で来るだとかならわかる。1人って。
わしはその奇妙な人間がどんなものかを確認に行った。すると、見つかったのじゃ。わしは見つかるなどと思わなかったからびっくりした。なんせ、妖怪は基本的に人間から見えないからの。それでわしは話しかけた。何をしている、とかだったと思うわ。しかし、これも驚いたが、言葉は通じなかったようである。わしの姿は見えるが言葉は聞こえないという中途半端はものじゃった。だから、わしはどうしたものかと思った。
そんなわしが思ったことは、とりあえず交流を持とうというものじゃ。わしが妖怪たちと近しい交流を持てなかったから、このモノで代わりに交流を持とうと思ったのじゃ。わしは妖怪となら交流は持てなかったが、人間となら交流を持てるのではないかと思った。
わしの思惑は成功し、わしらは仲良くなった。わしは毎日そのものと遊んだ。そいつも毎日飽きもせずにわしのところに遊びに来た。楽しかった。わしの心は埋まっていった。
そんなある日、やつは川に落ちそうになった。馬鹿な奴じゃ。命が危ない。わしの遊び相手がいなくなると困るので、わしは能力を使った。そやつを宙に浮かしたのである。すると面白いことに、やつは驚いていた。目を丸くさせて、現実を信じられなかったようである。その様子があまりにも面白かったので、わしは自分が宙に浮く姿も見せてやった。それはそれは驚いておったようじゃ。わしはゲラゲラ笑った。それとともに、しまった、とも思った。自分の能力のことは秘密にしておくべきだった。これではやつから距離を取られてしまう。それではいままでのような仲良しではいられなくなる。
それでわしは思った。やつとはもう会わないでおこう、と。それでわしは、やつが来ても姿を現さないでおこうと思った。すると、やつは翌日も姿をあわわした。すると、ワシを探していた。其の時に、わしの能力・宙に浮く能力のことについて叫んでいた。やはりコイツもわしの能力のことを知ると、そのことに目がくらんでしまったらしい。その能力を利用したいのか。わしのことを尊敬するのか嫌がるのかは知らないが、わしを探していた。でも、出て行くつもりはない。今までのような友達の関係は無理である。わしらの間には距離ができることは、わしの経験上避けられない。だから、わしはそいつのことを避けることにした。
――翌日にもやつは来た。まあ、諦めないだろう。
その翌日もきた。まだまだ諦めないだろう。
そのまた翌日もきた。いつまで諦めないだろうか?
……
それからもずーっと来ている。1年数えてからは数えていない。しつこい奴だ。やつがここに来ている理由は知っている。浮く能力を解除して欲しいようだ。どうやらわしがやつに浮く能力を分け与えたようである。それがどういう道理かは知らない。わしの力に触れてそういう能力が開花したのかもしれないし、わしに関係なくそういう能力を持っていたのかもしれない。噂によると、何かしらの道具を使って能力を貸すこともできるらしいな。とりあえずわしは、逃げることにした。
実はな、わしはやつが来るのが楽しみなんじゃ。理由は、1人ぼっちでなくなるからじゃ。奴が来る限り、わしは1人ぼっちではないんじゃ。いままで1人ぼっちだったから、もう1人になるのは嫌なんじゃ。それがだよ、もしわしが呪いを解いてしまった場合、やつはもう来なくなるかもしれんじゃろ? そうなることが嫌なんじゃ。呪いが溶けない限りやつはここに来てくれる。
または、その能力がわしと関係ない場合じゃ。その場合でもそれが発覚したら、わしに興味をなくしてこなくなるじゃろ?それも困るんじゃ。だから、わしはやつから逃げるんじゃ。やつが困っているのは分かっている。しかし、やつの問題を解決するわけには行かないんじゃ。わしのためにな。
そういうことで、やつが来る気配がしたら、わしは逃げるようにしていたんじゃ。そしてら今日、馬鹿でかい妖力を持ったものが近づいて来るではないか。わしは焦った。何者なんじゃ? わしは恐る恐る様子を見たら、お主が現れた。一体何者なんじゃろ。何の用事で来たのだろうか?
わしは確認しようとした。すると、見つかってしまった。以前のやつとの出会いの時と同じように見つかってしまった。どこか懐かしい思いに耽っていた時に、よく見たらやつもいるではないか、と思った。お主のせいでやつの存在に気付かなかったではないか。せっかくいままで逃げてこれたのに、どうしてくれるんだ。
それでわしは覚悟していた。色々と問いただされると思っていた。そしたらどうだ。お主ら、わしのことはほっといてわけのわからん言い合いをしやがって。わしのことは無視か。いつまでわしを握ってるねん。それでわしが自ら話しかけたということじゃ。わかったか?
わしがお主に言えることはそれだけじゃ。わかったらさっさとその手を離せ。わしは逃げなきゃならんのじゃ。
」
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