第15話カエル:それがどうしたの?

「それがどうしたの?」


 私は宇木に質問した。


「どうしたの? じゃないでしょ。俺の能力のこと。俺は宙を浮くことができるの」

「でも、それはカエルの能力でしょ?」

「それがね、なぜか俺自身もできるようになったんだよ」

「なるほど、そうことなのね」

「そういうことだよ」

「わかったわ。ありがとう」


 私は納得したので帰ろうとした。


「ちょっと待てー!」


 宇木は再び視界に現れた。


「どうしたのよ。急に」

「どうしたのよ、じゃないだろ。なんか言うことあるだろ」

「そこをどいて頂戴」

「そうじゃないだろ」


 私は首をかしげた。


「じゃあ、さようなら」

「それでもない」

「ごきげんよう」


 私はスカートを指で少し上げて挨拶した。


「そうじゃない」

「これ以上挨拶の仕方を知らないわよ」

「挨拶の仕方の問題じゃない」

「じゃあ、なんなの?」


 私は本当にわからなかった。宇木はすごくイライラしていた。


「普通、驚くだろうが。宙に浮くんだぜ。ありえないだろ?」


 相手は両手を広げて力説していた。


「ワーオドロイター」


 私はいわれた通り驚いてみた。


「えらい棒読みだな」

「それほどでも」

「褒めてねえよ」

「じゃあ、なんなの?」

「お前、喧嘩売ってんのか?」

「あら、いくらなら買ってくれるのかしら」

「お前は俺をなめてんのか」

「嫌だわ。汚い」

「おとなしくしていたら!」


 そう言うと宇木は拳を振り上げた。

 ドン!

 ――後ろの壁はヒビが入った。

 どうやら私のキックに耐えられなかったようだ。私は壁にめり込んだ足の裏を抜き、地面に下ろした。宇木はあいた口がふさがらないようだった。その口からは何も発しなかった。


「まだおとなしくしてくれているの?」


 私は宇木に質問した。宇木は答えなかった。


「あら。いつまでおとなしくしているのかしら?」


 私はグイっと顔を近づけた。ジーッと見つめ合った。


「まあいいわ。何も言わないのならそれで」


 私は門を出た。

 幾分か歩いた。

 後ろから走る音がした。


「危な!」


 振り返りながら繰り出した私の蹴りを、そう言いながら宇木は仰け反りながら回避した。そして、その勢いのままに転がっていった。それを確認したから、私はそのまま帰ろうと思った。


「ちょっと待て!」


 宇木は顔の擦り傷を拭うこともせず叫んだ。


「今度はなんだ?」

「いや、いきなり蹴り飛ばそうとしてそれはおかしいだろ」

「正当防衛よ」

「いや、なにもしていないけど!」

「何言っているの。背後からいきなり知らない人に襲われることだってあるらしいのよ」

「いや、知っている人!」


 宇木は立ち上がった。


「さっきから、いやいや、うるさいわね。嫌になるわ」

「……その、いや、はわざと言ったのか?」

「そうよ。面白かったでしょ」


 ……

 私は蹴りを入れた


「なにするんだよ!」

「いえ、なんか腹たったから」

「お前、めちゃくちゃだな」

「ふふ」

「……なにがおかしいんだよ」


 私は久しぶりに人前で笑った気がする。そういえば、こんなに話が続いたのはいつぶりだろうか?私と会話を続けるなんておかしな人だ。


「そうね、なんでかしらね」

「はぁ?やっぱり変なやつだな」


 そう言いながら、服についた砂利を払っていた。変な奴、か。聴き慣れた言葉だ。


「そうね、私は変な奴ね」

「ああ、変な奴だ」

「そして、めちゃくちゃな奴ね」

「ああ、めちゃくちゃなやつだ」

「では、さようなら」

「ああ、さようなら……じゃ、なーい!」


 ああ、バレたか。


「どうしたのよ」

「だ・か・ら、お前に用があるんだって」

「私はないわよ」

「こっちはあるの。なんで聞いてくれないの」

「聞きたくないから」

「だから待てって……」

「深入りするな」


 ……

 私の短い言葉。

 ……


「あなた、自分だけが特別だと思っているでしょ? でもね、世の中にはいろいろな人がいるの。いえ、人とは限らないわね。もしかしたらカエルかもしれないわね。そうね。あなたの出会ったカエル、珍しいと思うわ。でも、珍しいだけ。特別でも何でもないわ。そして、あなたがそのカエルに再び会いたいと思っているんでしょ? その浮く能力を無くしてほしいんでしょ? 自分を不幸にする呪いを解いてほしいと思っているんでしょ? ……その顔はどうやら図星のようね。どうしてわかったのかと疑問に思っているわね。まあ、気が向いたら教えてあげてもいいわ。それよりも、カエルのところに行きましょう。」


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