主体性0の最強一般人!~悪の組織と正義の味方、どっちにも推しの美少女がいるので助けたら恐るべき第三勢力だと勘違いされました~
佐城 明
プロローグ
雨の中、二人の少女が激突する。
何度も、何度も。互いの力と心をぶつけ合う。
超常の能力と、人外の術。
強大な力のやり取りに恐怖を感じるが、同時に美しい光景に目を奪われる感覚もあった。
「例え偽善と言われようと、目の前にいる人たちの……大切な人たちの日常を、繋がりを、私は守りたい! だから――あなたを止めます」
中学生くらいの外見をした少女が叫ぶ。
ただの少女ではない、白を基調としたフリフリ気味の衣装に身を包んだ……まぁ一言で言うと魔法少女だ。
見る人が見たら、あれは魔法少女ではなくて変身ヒロインだ! と苦言を呈する可能性はあるが。俺はその差までは詳しく知らないしなぁ。
視覚的に見えるほどのエネルギー? オーラ? そういった超常の力が噴き出している。
今の彼女が拳を振るえば、車だろうが戦車だろうが簡単に粉々にできるだろう。
「私は、止まらないわ。この狂った世界を変える――その為に」
十代中盤くらいに見える少女が、魔法少女の叫びを冷たく切って落とした。
やはりこちらもただの少女ではない、何しろ空中に浮いている。
甲冑とドレスが合わさったような衣装に身を包み、背から漆黒の片翼をはためかせていて、しかも両目の色が違うときた。
見る人が見たら、相当重度な厨二病に罹患していると一発で診断確定だろう。入院を勧めるレベルの進行度だ。
ま、彼女の場合はマジもん生粋の魔術師だから厨二病と言っても通じないけどな。
黒い少女の周りに大量の魔方陣が出現し、連結し、重なっていく。彼女はそれを背に負った。
今の彼女が手に持つ刀を振るえば、鉄骨だろうがビルだろうが容易く輪切りにできるだろう。
「いきますッ!」
「覚悟なさい」
両者が同時に動く。
白い少女は地面を破壊する勢いで蹴り、巨大な弾丸の様に突っ込んでいく。
黒い少女が空中で魔方陣をくぐると、物理法則を完全に無視した動きで超加速する。
――次の瞬間。
強烈な衝撃波がまき散らされ、上空の雨雲が吹き飛んだ。
「――えッ!?」
「――なッ!?」
…………痛ってぇ~。
俺の右手には魔法少女……ココナちゃんの拳が。
俺の左手には厨二少女……リリさんの刀が。
それぞれ握られている。
要するに、二人の激突に割って入ったのだ。
二人がすっげぇ真面目に話し合ってるから、しばらく黙って聞いてたけど。
流石にこれ以上は見てらんないもんなぁ。ガチバトル過ぎて。
「な、なんで止めるんですかっ!?」
え? なんでって、そりゃ決まってる。
「あなた……なんのつもり?」
いやだから、なんのつもりって、たった一つの理由ですがな。
俺の『推し』二人が壮絶な殺し合いしてるような状態を、黙って見てられるわけないじゃん!?
まぁ、本人たちには口が裂けても『推しだから!』とか恥ずかし過ぎて言えないけどさぁ!
「え~っと、あれだ、二人の言うことはどっちも正しいとは思う。だが二人が戦うのはその、間違っている。俺的に」
俺的にね? 世界とか正義とかは知らん。
あ~だめだ、かっこつけたセリフが出てこない!
だって、こんな美少女二人に至近距離で挟まれたら、俺みたいなコミュ障陰キャ野郎には封印結界みたいなもんじゃんか!?
あぁ、でも俺の推しはやっぱどっちも可愛いなぁ!!
「は、放してくださいっ。シンさん、どうして……ッ」
いや、どうしって言われても。
うぉお、そんな悲しい顔されるとマジで心臓止るっ。
「どきなさい。それとも……あなたも、私の敵になるの?」
あぁっ、そんな切ない表情見せられるとガチで脳死するっ。
違うってば!
俺はただの、二人のファンでしかないんだってば!!
正義だの悪だの、正しいだの間違ってるのだの、そんな難しいこと、知るか!!
何故か突然やたら強くなっちゃっただけの一般人だぞ俺はーっ!?
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