第49話 笛とヒロユキ

祝宴が終わり部屋に戻ってきた綱秀は驚く、いつの間にか退席していたヒロユキが自分の部屋の隣、娘の笛の部屋の前で眠っていたからだ。

しかも、笛はヒロユキに膝枕をして、優しそうに撫でていた。


「なっ、な、な、」

綱秀は声がでなかったが・・・

「お父様、お静かにヒロユキ様が起きてしまいます。」

「笛?」

綱秀から見た笛は親の欲目を除けても綺麗な娘だ、物静かで優しく、趣味の笛は名人級の腕であろう。

ただ、1つの欠点が男性が苦手な事だった、話すだけでも避けたがるのに、まさか膝枕をしている光景を目にするとは・・・


「しかし、笛、ヒロユキ殿をこんなところで寝かす訳にはいかないだろう。」

「あっ、そうですね、じゃあお部屋に寝床を用意しないと・・・」


「だ、だめだ、笛の部屋で寝かせるなど!」

「お父様静かに、しかし、あまり遠くにお連れするのもどうかと思いますし。」

笛はきっと深くは考えていないのであろう、しかし、嫁入り前の娘の部屋に男を泊める訳にはいかない。


「わ、わしの部屋で寝てもらおう、隣だしな、それならいいだろう。」

「私の部屋でいいですのに・・・」

笛は不満そうにしたが受け入れてくれる。


寝床を用意しようとした所でマサムネが来る。

「こんな所にいたのか?おい、起きろ。」

マサムネはヒロユキの頬を軽く叩き、起こそうとする。

「マサムネ様お止めください、ヒロユキ様が起きてしまいますわ。」

笛はマサムネを非難するがマサムネは気にせず頬をさらに軽く叩く。


「・・・マサムネ?なに?朝?」

俺は目を擦りながら、ろくに見ずにマサムネに、声をかける。


「朝?じゃねぇよ、なに宴席抜け出して美少女の膝枕で寝てるんだよ。」

「膝枕?美少女?」

俺が目をしっかり開けると笛の顔が上にあった。


「おはよう、笛さん。」

「おはようございます。ヒロユキさま。」

思わず挨拶をしてしまう。

「ごめんねぇ~、何で膝枕してるかはわかんないけど、おもかったでしょ?」

俺はゆっくり体を起こす。


「膝枕は私がしたのですからお気になさらずに、それより、私の膝枕は固くていたかったでしょう、肉付きが少なくてすみません。」

笛は申し訳なさそうにしているが・・・


「いやいや、気持ち良かったというかグッスリ寝れていたよ。」

「そんな、気持ち良かったなんて・・・」

笛は顔を赤くしながらも嬉しそうだった。


それを見た綱秀は信じられなかった。

男が苦手だった筈なのに進んで膝枕をして、喜んでいるだと?


「はぁ、お前はなんだそうなんだ、息をするように女の子を口説いて。」

マサムネは呆れたように言う。


「口説いてないよぉ?笛さんに失礼だよ。」

「私はそんな・・・」

笛も満更ではない顔をしている。


「おい、寝坊助、いいから、部屋で寝ろ、ほら。」

マサムネは無理矢理俺の手をとり、引き上げる。

「乱暴だなぁ、それじゃねぇ~笛さん、ありがとう。」

「はい、またいつでもお越しくださいませ。」

「またね~」

俺はマサムネに連行されながら部屋に帰った。

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