幕間 眷属たちの春休み

前書き

皆様の反応が温かくて調子に乗り、予定を前倒しで投稿。ありがとうございまあす!


◆ 


 嗚呼素晴らしきパラダイス。


『ギギ!』


 貴明が学園の地下にこっそりと用意した、眷属用の小部屋のソファで寝っ転がっているのは、非常に小型化している恐ろしき呪蜘蛛である。


『ギギギ!』


 366日間の労働を覚悟していた蜘蛛だが……当たり前の現実に救われた。


 如何に来年度の新四年生がやる気に満ち溢れていようが、基本的に非鬼と戦うのは推薦組だ。そしてほとんどの推薦組生徒は名家出身であり、春休みは基本的に実家の京都などに帰っている。


 つまり!


 つまりである!


『ギギギギギギギギ!』


 言語化すれば、イエエエエエエイ! と叫びながソファでごろごろと左右に寝返りを続ける蜘蛛は、春休み限定で暇なのだ!


 勿論、日本の単独者が非鬼の訓練符を経験するため訪れることもあったが、単独者は重要拠点の守護を任されていることが多く、一日程度しか学園に留まることができないし、身軽に動くこともできない。


 そのためあっても数日だけ単独者と戦い、後はごろごろするだけでいい春休みは、蜘蛛にとってまさに至福の時間だった。


『ガア……』


 一方、暇にうんざりしているのは通常の猿サイズまで小型化している阿修羅猿である。


 新年度の準備期間である春休みは、当然ながら竹崎が多忙である。そのため最大のライバルが訪れる頻度が下がっており、暇を持て余していた。


 ただ救いがあるとすれば、とんでもない大騒動となったイギリス騒乱が起こったことで世界各国の危機感が跳ね上がり、国家主導で学園に特鬼の訓練符の使用できないかと相談していることだろう。


 なにせ明確に確認されているだけでもソロモンの悪魔と逆カバラの悪徳、更には白き龍なんてものがイギリスを転覆させようとしていたのだから、特鬼との戦闘を現実的に想定する必要があるのだ。


 そのため近い将来、猿を目当てに世界各国の上澄みが学園を訪れる可能性が高く、この修羅道の化身はそれが楽しみで楽しみで仕方なかった。


 だが今現在は暇という現実だけはどうしようもなく、早く今代でも先代でもいいから、アーサーとか来てくれないかなあと願っていた。


 なお余談だがイギリス騒乱の表で起こったことだけに限定すると、世界の危機、つまり世鬼相当の事態と言っていい。それ故にNATOは異能研究所に保管されている蛇を使用して、国家の連携を確認する必要があると真剣に討議していた。


 その内にNATOの正面戦力、バチカンのカバラ、ヨーロッパ各国の聖人、ギリシャ神話体系の影響がある人間、イギリスのアーサーなどの超連合軍vs蛇という地獄絵図が見られるかもしれない。


 だがイギリス騒乱の真実は世界の危機どころか、制御されていない原初神の力の欠片によって、宇宙が吹っ飛ぶ瀬戸際だった。


「今年こそ……! 今年こそ猫ちゃんズは……!」


 なんなら元凶の大本がここではない田舎でピンピンしているため、人類は常に滅亡の危機である。流石は異能研究所が唯一認定している滅亡の危機、滅鬼だ。尤も異能研究所が想定しているのは地球滅亡の危機であり、まさか宇宙の全存在が滅亡の危機に瀕しているとは思っていなかった。


『にゃあ……』


 数年後、具体的に言えば日本のインターネットを猫のミームが支配する時代なら、とんでもない存在に化ける可能性がある黒猫は、基本的に学生がいなければ仕事がない。


 そして、彼は誕生理由が労働であるため、猿と同じく暇を持て余していた。


 ちなみに彼は最近、古代ペルシャ兵の手によって盾に縛り付けられ、古代エジプト兵に対する切り札として利用される夢を見てしまう程度には心身共に猫である。


『わんわん!』


(むっふんむっふん!)


 そして犬だが、なぜか貴明の眷属用の部屋にいる白蜘蛛となにやら企んでいるようだ。


 どうも犬、猿、鳥による三体合体に味を占めたようで、白蜘蛛とも合体できるのではないかとあれこれ試しているらしい。


 ついでに白蜘蛛の方も、体験入学の学生にボコられたことでパワーアップを図っており、犬の提案は渡りに船であったようだ。


 だがどう頑張っても相性の悪い組み合わせにしかならず、もういっそ白蜘蛛に乗った犬でいいんじゃないかと妥協気味だった。


『ギギギギギギギギ!』


 そんな後輩達はさておき、蜘蛛は炭酸飲料とポップコーンの完全装備でごろごろしながら、映画を見ていた。


 休暇も満喫したから、そろそろ仕事してもいいかなー! と甘えたことを考えながらである。


 彼がやっぱ前言撤回。と思うのは、これからすぐの話である。


 何故なら……傑物世代には劣るものの、やる気では全く負けていないのが次の新四年生なのだから!

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