チーム【ゾンビーズ】2

 一年A組所属、東郷小百合。


 長女は極東にその人ありと言われた浄力のエキスパートかつ、単独者でこの異能学園の教員。次女は戦闘会会長の右腕で副会長、将来を期待されている次世代の新星。


 では彼女自身は? 残念ながら悪い言い方をすると、東郷さん姉妹のみそっかす扱い。浄力も橘お姉様の次くらいではあるが、平均的な一年生よりは多い程度でこれといった特徴がなく、周囲も彼女を他のお姉さん達と比べていて、それが彼女のコンプレックスになっていた。いた。である。


 まだ入学してから半年も経っていないのに、東郷さん自身は認めないだろうが、刎頚の友達を見つけた彼女は、自分の真の力を見つけることになる。


「不動! 明王!」


「っ!? 奴を見るな!」


 相手チームが木村君の大ウソに騙された。一般組とはいえ、二年生の彼らは先程我がチームが戦っていた変人の技、不動明王を弄り回して、相手を動けなくする技を知っていたのだろう。だから木村君はそもそも不動明王の力を降ろせないのに、ただの言葉で相手の動きを止めることができた。


 そう、変人がその力でするはずだった、2秒ほど相手を止める。それを彼は単なるブラフで成し遂げたのだ。


「【神堅建陣】【癒しの居】【強力剛力】【早疾走】【六根清浄大祓】」


 そしてその隙に、東郷さんの浄力によるバフが完了する。


 ふむ。さっきの隙を攻撃ではなく、東郷さんのバフとそれを邪魔さないようゾンビ共が構えていたのを見るに、ゾンビーズのプランは持久戦か。あーあ、俺しーらね。今休んでる藤宮君がそれを知ったらうんざりした顔をするだろうな。


「他の奴全員に5つもバフを同時掛けしたぞ!」

「相手は短期決戦するつもりだ!」

「守りを固めて凌ぐぞ!」


 そうだよねえ。薄く広く、纏めてバフを掛けるんじゃなくて、ゾンビ一人一人に東郷さんはバフを掛けたのだ。普通、浄力が尽きる前に最大強化された力で短期決戦を狙ってると思うよね。


「狭間」

「おう【超力壁】」


 目眩がして来た。そうするんじゃないかと思ってたんだ。


 四馬鹿の突っ込み役にして、マッスルと同じく超力を操るもう一人。名は狭間勇気。名は体を表し過ぎた男である。なぜなら彼は、超力使いではあるのだが、念力も、透視も、テレパシーも使えず、空間の固定しかできないのだ。


 いや、空間の固定そのものは超力でも結構上位の技なのだが、彼は本当にそれしかできない。そのせいで、名家出身なのに超力しか使えないことと、自分では出来ない上位の技を使える嫉妬、それなのに基本の技を一切使えない事からくる、ある意味代償的な嘲りを受けて、彼もまた爪弾きにされている。


 そしてそれを発動して自分達の周りを囲んだということは、間違いない……危うく我がチームが負けかけた、というより、藤宮君の無敵結界がブチ破られかけた戦法、名付けて、時間切れいっぱいまで詠唱した魔法で、最低一人は脱落させて判定勝ちを取ろう作戦だ。時間は……30分間。うっそだろ……。


 いや、そもそも30分も魔力を集める必要あるのか? 先輩とはいえ相手は普通科だぞ。


 なにせ十分な魔力を蓄えたなら彼女は魔人だ。


「おーっほっほっほ! 魔力が集まっていくわああ!」


 四馬鹿の紅一点、いや五馬鹿になったから紅二点の片割れか。とにかく彼女、如月優子は馬鹿達の中で最も尖ってる。なにせ彼女は、この学園でいうところの訳あり生徒で、単純な魔法での攻撃はなんと佐伯お姉様を抜いてクラス一。というか多分、単独者よりも上。下手すりゃ日本一。さらに下手すりゃ世界一。


 なのだが、自前の魔力で魔法としてほぼ使えないという、それ魔法使いって言えるの? え、しかも、初級以上の魔法はガス欠になるから撃てない? その初級でも一発撃ったら次の日までお休みしないといけない? 何とか溜めた魔力もどんどんなくなっていく?


 なんてのはまだまし。彼女の出生が抱える訳ありとは、彼女が突然変異の夢魔なことだ。


 極々たまーに先祖に神秘的存在がいないのに、精霊みたいな特徴を持っている子供が生まれたりするが、彼女が生まれたのはよりにもよって名家で、しかも殆ど妖異として扱われている夢魔という種族だったから、如月家にとってはさあ大変。彼女が今も生きているのはほぼ奇跡に近いだろうし、学園に訳あり生徒の枠がなかったらここにも来ていなかっただろう。ただまあ、やっぱり実家から事実上の追放はされたけど。そんでもって本人はこれぽっちも気にしてないけど。


 とまあ、自分の魔力で魔法を撃てない彼女だが、馬鹿共と出会ったときに気が付いた。あ、自分の精神力は魔力に変えられないけど、こいつらから精神力を分捕って魔力にしたら魔法使えるくね? っと。


「ふざけんな! お前が使ってるのは俺の精神的筋細胞なんだぞ!」

「加減しろ馬鹿ッ!」

「ぐえええええ吸い取られていくんごー!」


 その結果出来上がったのが、精神力をどんどんと奪われて文句をぶうぶう言っている残りの三馬鹿共。言ってるだけだ。メンタル100が精神力を削られてなんになる? 答えは全く何も起きない。精神の衰弱も、意識を失うことも、狂気に陥ることも、精神が破壊され生きる屍になることも。全く何も起きない。


 銃身だけ立派だったエネルギー兵器に、無限のバッテリーが繋がったのだ。しかも3つも! それが時間切れ寸前の30分間ずっと貯め込んだなら、一体どうなるか想像に難くない。理論上四系統の完全一致か、よほど変な攻撃以外に対して無敵の筈の藤宮君の結界が、単なる魔法攻撃にぶち抜かれかけたなんて、俺の常識がぶっ壊れそうだったわ。マジで彼女は市街地で戦っちゃだめだな。


「全く、帰ったら精神的筋細胞トレーニングを一からやり直しだ」

「前から思ってたんだけどそれなんだ?」

「せやせや」


「おいおかしいぞ?」

「い、一体どうなってるんだ?」

 

 文句言いながら今にも横になりそうな馬鹿達と、どんどん高まっていく魔力の圧に、相手チームも変だと思い始めたらしい。なにせ東郷さんの初動は、間違いなく、そう、普通に考えるなら間違いなく短期決戦を狙っているはずなのに、馬鹿共は一向に動く気配がないのだ。


「もうバフは切れたはずだ! 早くあの魔法を止めないと!」

「行くぞ!」

「ちっ、超能力の壁だ! 一気に壊すぞ!」

「応!」

「【不動明王剣】!」

「【超力砲】!」

「【氷の礫】!」


 おっと、如月さんが集めている魔力にビビッて、何とか止めようと攻勢に出たな。ただまあ、がっちり守りを固めている上にですね。


「か、固い!?」

「なんだこの固さは!?」


 そう、狭間君が超能力で作り出した壁は、ただでさえ馬鹿みたいに固い上に、


「【神堅建陣】【神堅建陣】【神堅建陣】」


「おい、東郷が追加の壁を御所望だぞ」

「俺の事働かせすぎじゃね? これ以上キツイんだけど」

「せやろか?」


「ちょっと待て!? どうしてまだバフが掛けられるんだ!?」

「そんな馬鹿な!?」


 実は東郷さんのバフは残っているどころか、今も追加で足され続けてるんですよね。しかも人にじゃなくて、狭間君が出した超能力の壁にも。


 東郷小百合。彼女は藤宮君と同じく化けた。ただ、藤宮君が自分で完結しているのに対して、彼女は他者に対してである。


 デバフ要員としてはまだまだだが、バフ要員では動けない。これだけ。彼女が出来ないのはこれだけ。


 後は浄力者として何でもできる。


 ずーっとバフを掛け続けることができる。何でも掛けることができる。無限に掛け続けることができる。無限に掛けることが来出る。無限に、無限に。


 心の底から信じた相手にだけ。彼らのためなら死ねる、彼らもそうする。そう確信している相手にだけ。


 そう、今の彼女は、世界で、最も、頂点に立っている浄力者なのだ。


 もうこうなるとどうしようもない。一度守勢に入った彼らをどうにかするには、藤宮君を引っ張り出すしかない。彼なら如月さんの魔法を耐え、バフの掛かりまくった狭間君の結界を四力に含まれた同じ超力で溶かし、残った三力で馬鹿達を何とか押させながら、佐伯お姉様の攻撃と、橘お姉様による東郷さんの妨害を通すことができる。だが他のチームは、ほぼこの最強の盾と最強の矛を攻略する術がない。


「くそ! どんどん魔力が集まってるぞ!」

「だがこの壁を割れない!」


 だから言ったのだ。学園長ならこの馬鹿達の相手を、一般組の先輩達にするはずがない。現に壁を割れずに、馬鹿達自身が持つしぶとさすら発揮させられてないではないか。最低でも2年の主席、あの爽やかハーレム野郎先輩有するチームにするべきだった。


 後はもう決まったも同然。30分後に、極限まで高められた魔法によって対戦相手はぶっ飛んで終了。てか本当に30分溜めるつもりかな……? いや、如月さんは一発撃ったら次の日まで何もできないから、万が一外した場合攻撃力に乏しい彼らはそのまま引き分けになるとはいえ……え? 本当に?


「何とかこの壁を壊せええええ!」


 ■


「さあ行くわよおおおおおお!【サンダーランス】!」


 どわっ!? 30分経ったのか!? 動画撮れてたら問題ないだろって、つい他の試合見てた! っていうか先輩が壁をどついてるだけの動画とか必要なかっただろ! 何の見栄えもなかったぞ!


 えーっと、まあそりゃ先輩方は全員ぶっ飛んでるな。その上ただ徒労感しか感じなかっただろう。でもこの馬鹿達は精一杯勝つために頑張っただけなんだから、恨むなら組み合わせを考えた職員を恨んでくれたまえ。なーむー。


「はいドリンクとタオルどうぞ!」


「ありがとう貴明君」


 と言ってもこいつらろくに動いてないから、渡すのは東郷さんだけだ。彼女だけ集中力を使うからなあ。あとは自分で取るんだな。あ、北大路君にはプロテインを別に用意しているぞ。


「むう、完璧なプロテインのシェイクだ。これが主席の力……」

「私の化粧崩れてない?」

「かわりゃしねえよ」

「東郷並みの顔があれば、お前も苦労せずにすんだんだろうなあ」

「小百合共々ぶっ殺す」


「なんでよ!」


 試合も終わってじゃれ合っている五馬鹿達。


 人間ってやっぱりいいなあ。

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