世界の敵

蝕まれる異能学園

 いやあ、すんばらしい出来栄えですねお二方! これぞまさしく国宝と言う奴ですよ! 我が帝国の正面に飾るに相応しい一品! 次は何作るんです? え? もう満足したからいい? ちょ!? 何でお二人とも成仏する寸前なんです!? ちょっと強化して100倍速にしたのが悪かったんですか!? それとも無報酬だからですか!? それともそれとも、納期が一日だったからですか!? 一体どれが悪かったんですか!? 待ってー! うげふんっさん! かげふんっさんカムバーーーック!


 逝ってしまった……いや、よく考えると新しい作品が作りたいって未練があるから、無報酬でいいって言ったのは向こうさんだし、俺はそんな作品をいち早く世に出すためのお手伝いをしただけだ。きっとなにか別の理由があったんだろう。言ってくれたら相談に乗ったのに。


 いやあしかし本当にいい出来栄えだ。後はちょこちょこっと俺が手を加えて、学園長が霊力でコーティングしたら完成だ。では第一形態変身! 早速ワープ!


 ◆


「む、すまん遅れたか」


「いえいえさっき来たところです」


 朝早くの学園入り口で、社交辞令を交わす俺と学園長。断じてデートの挨拶ではない。おえ。


「これがそうか。おお、なんと見事な……」


「国宝並でしょ」


「ああ」


 帝国の正面入り口の、左右に配置された金剛力士像に、感嘆のため息を漏らす学園長。それもその筈、そこらの雑多な妖異では、その顔を見ただけで吹き飛びかねない阿吽の口に、睨みつけている目、どこか鬼気迫る表情。まさに国宝並の金剛力士像なのだ。まあ、作った人がげふんげふん。ってなんか鬼気迫ると言うか、恨みが篭っているような……気のせいか!


「しかしこれほどの逸品、やはりタダという訳には行かん」


「いえいえどうかお気になさらず!」


 やっぱり言い出すと思った! 食らえ邪神流説得電波! 相手は納得する!


「本当に元手が掛かって無いんですよ。それに魑魅魍魎を調伏する学園に、ピッタリな像じゃないですか!」


「だがな」


 ちっ、電波の効きが悪いな。学園長レベルに気付かれないようするには骨が折れる。だけど金銭的価値にしたら、文字通り金には代えられない金額になるからいいんだよ!

 それに、臣民が皇帝に奉仕するのが当然なように、皇帝は臣民の暮らしがよくなるようにするのも義務なんだ! マジで少鬼程度この眼力でぶっ飛ぶから、黙って置いとけ!


「それに朝一番この像を見た生徒の皆さんは、今日も学びを頑張ろうと気を新たにしますよ! 学園の為に寄付させてください!」


「むう、分かった。そこまで言ってくれるなら、ありがたく受け取らせて貰おう」


 勝った。敗北を知りたい。

 学園長を説得するコツは、生徒、学び、学園の為という3フレーズを盛り込んどけばとりあえず行ける。


「じゃあ僕は、お姉様と一緒に登校するために帰ります!」


「分かった。後の霊力と浄力のコーティングはこちらでやっておく。ありがとう貴明」


「いえいえ!」


 へっ。このくらい当然っすよ学園長。何と言っても栄えあるブラックタール帝国の入口なんだ。貧相だと沽券に関わるからな。お前の事だぞ島津義久。


 お姉様今帰りまああす!


 ◆


「あなたお帰りなさい」


「ただいまですお姉様!」


 家に帰るとお姉さまが朝ごはんを作って待っていてくれた。これが新婚生活……! でへ。でへへへ。


「ニュース聞いたかしら?」


「ニュースですか?」


 はて、何のニュースだろう?


「あれよあれ」


『……に現れた大鬼相当と思われる妖異を、アメリカ西海岸異能養成校の教員と生徒達が見事に討伐しました。専門家によりますと、現れた妖異は呪詛型と呼ばれる珍しいタイプのようで、彼等が居なければ甚大な被害が出ていた恐れがあると指摘しています。代表の声明では、今回の活躍は極東異能学園と、その好意で使用させてもらった非常に危険の訓練符、とある生徒のお陰だとしています』


 おお、アメリカの皆さんが大鬼を討伐! しかも呪詛型とは、まさか早速蜘蛛君の特訓の成果が出るなんて! これマジで世界中から人が来るぞ!


「このとある生徒ってあなたね」


「やっぱりそうですよね? でへ。でへへ」


 いやあ、困りますよ教官殿。蜘蛛君たちがワールドデビューするのはいいんですけど、僕はしなくていいんですよ。でへ。でへへ。


「さあ食べましょうか」


「はいお姉様!」


 世界中からこれで人が来ること間違いなしだよ! やったね蜘蛛君!


 ◆


「うっわすっげえ」

「これもう動くレベルだろ」

「ちょっと私と撮ってくれない?」

「金剛力士の真言ってなんだっけ?」

「長すぎて忘れた。しかも阿形と吽形で違うし」

「はい落第。学園長の事だから絶対小テで出す」

「じゃあ言ってみろ」

「ナマサマンダバ・サラナン・トラダリセイ・マカロシヤナキャナセサルバダタアギャタネン・クロソワカ。こっちが阿形」

「なん……だと……」


 お姉様と登校すると、その正門には人だかりが出来ていた。勿論原因は左右に置かれた金剛力士像だ。魑魅魍魎なんざぶっ殺してやる! と言わんばかりのその威容に、誰もが口を開けて見上げている。


 ふふ。はは。はーっはっはっはっは!


 これぞまさしく帝国に相応しい玄関口に仕上がった!

 これからもどんどん帝国を偉大なものにしていくぞ!

 えいえいおー!


別タイトル、ブラックタール帝国皇帝の献身。あるいは暗躍。

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