主席だ
『ブラジルの現地時間で昨日の深夜3時過ぎ頃、呪術師として指名手配されていたペドロ容疑者と、逮捕の為に派遣された警察の突入部隊が交戦しました。激しい抵抗をしたベドロ容疑者は死亡しましたが、その余波で民間人も含め、死者30名を超す大惨事となり』
あっちゃあ……。
昼食を食べるためお姉様と宰相室を出た後、一旦戻った教室のテレビからニュースが流れていた。この伊能学園は学園長の方針で、勉強だけでなく世情も知るべきだという考えのもと、休み時間にはニュース番組限定だがテレビが映るのだ。
そしてそのニュースによると、人類の面汚し、人に害を加える事に対して、あまりにも特化した呪術師を逮捕しようとした現地の警察が、殆ど相討ちと言う形で始末したものの、その余波で民間人も死者が出たらしい。
あ、生き残りの隊員の姿が映った。単なる武装テロリストを相手にする延長上の装備だ。いやー、ちょっとそれで呪術師相手にするのはダメだよ。
「さあ屋上に行きましょう」
「はいお姉様!」
おっと、お姉様の手作り弁当が待っている! いやあ、俺って幸せ者だなあ!
◆
「昼休みに長時間テレビでやっていたから知っているだろうが、ブラジルで呪術師と警察部隊が交戦して大きな被害が出た。本来、我々異能者が想定しているのは対妖異だが、警察機関が手に負えないと判断した異能者の逮捕には、我々にも要請が来る事がある。私が伝手を使ってそれなりの情報を入手したから、この時間はその情報を使って授業を行う。ではそれを記した物を配る」
やっぱりそうなると思っていましたよ学園長。学園長のいいところは、何事も反応が早い事ですね。っつうか昼前のが第一報としたら、これだけ短時間で情報を集められるってどんなデカイ伝手だよ。名家の皆さんが、学園長の伝手も使ったらよりビッグになれるぜって思うのも無理ないな。
あ、お姉様ありがとうございます! さてなになに? ふんふん。あっちゃあ……これむしろ良く相討ちに持ち込んだな。
「読み終わったか? では藤宮、呪術師の危険性を軽くでいいから述べてみろ」
「はい。呪術師は我々異能者とは全く違い、対妖異の事を想定していない代わりに、対人に対して特化した危険極まりない存在です。しかも殆どが知られていない裏の技術なため、適切な対処が出来ない事がそれに拍車をかけています」
「よろしい」
そうなんだよなあ。使ってるだけで危ない存在と見られるから、呪術師は裏の一番暗い所に潜んでるのだ。
日本でもバンバン使ってた陰陽寮最盛期が終わると、南北朝やら応仁の乱やらで、日本の呪術もその殆どが失伝してしまって、使ってるのはよっぽど後ろ暗い連中が新たに作り出したり、ひっそりと受け継がれていたりで、かなり対処が難しいのだ。
そのせいで、俺の知識は名家の皆さんほどではないと入学前まで勘違いしていたが、実は皆さんはかなり呪術に対して知らない事が多い。
「装備について意見があるものは? よし東郷」
「小鬼、もしくは弱い能力者程度なら制圧できるでしょうが、呪術に対する浄力での防御が全くありません。十字架もです」
「そうだ。攻撃の方はあくまで、火器の集中投入で対処できるものとして想定している事が分かる。これは間違ってはいない。呪力呪術は、異能の中で最も防御に向いていないからだ。しかし東郷も言った通り、外部からの衝撃に対する装備は一見優秀だが、呪術に対してはそれではだめなのだ」
仰る通り。昔の呪術はまじないとしての魔除けとかの効果があったが、現代の呪術はそういったものを削ぎ落して、研磨して、より鋭く、より殺傷能力があるものに変化しているのだ。そのため対人攻撃力は最強だと胸を張って言えるのだが、逆に防御力に関しては、水に濡らしたティッシュより役立たないモノと化している。
マジで銃弾一発で死ぬ可能性がある異能者なんて呪術師だけだろう。他の皆さんは普通に避けたり、そもそも効かなかったりするのに。
「以前にも述べたが、呪術とは視線、吐息、声、その全てがこちらの命を奪う毒なのだ。それが何の対処もしていないなら猶更だ」
何て恐ろしい力なんだ。こんな力使ってる奴には近づきたくないね。おおこわっ。
「先生、術者が使った術は何だったのでしょう?」
「そこまで詳しくは分かっていないが、術者の体は酷く爛れていたそうだ。これは突入した者達に覚えが無いらしい」
ははぁん、呪術として数少ない防御系統の術だが、術者としては3流以下だな。ここは主席として手を挙げてやるか。
真っ直ぐ堂々と!
「貴明、何か分かるか?」
「はい先生。恐らく自分の身に対する災いに対して呪う術だと思います」
「つまり呪詛返しだと?」
それだけ聞いたらそう思うよな。でも呪詛返しみたいな、スマートさなんてどこにもない危なっかしい術なんだなこれが。
「いえ、自分を呪う事によって、その後に与えられた術や痛み、苦痛を増幅して、無差別に攻撃的な呪いとして周囲に撒き散らすんです。恐らく周囲への被害が発生したのもこれが原因かと」
「なんだそれ無敵じゃないのか?」
「いや、ダメージが通っているなら死にはする筈」
「被害を考えると市街地じゃ相手に出来ないじゃないか」
ざわざわする教室内。そうだよな、自分の攻撃がそのまま跳ね返ってくるような物なのだ。一見すると。
「対処法は?」
「この術には致命的と言っていい欠陥があります。他者から攻撃を受けないと周囲に攻撃として発せない上、非常に緻密な制御を行わないと、行き場のなくした呪いが術者を呪い殺すんです。つまり最高位の術者でも無いなら、放っておくと勝手に自滅するんです」
誰だよこんな欠陥抱えてるのに、初見殺しの極みみたいな術開発したの。呪術ってこんなのばっかりだ。やっぱり近寄らんとこ。しかもだ、多分それこそ呪詛返しに発想を得たんだろうけど、やってることは自爆と変わらんぞ。その犯人も制御に失敗して爛れ死んだんだろう。
「なるほど。諸君ノートを取りなさい」
皆さんこれが主席ですよ!しゅ!せ!き!
でも呪いの事以外は平均ですし、魔法とか超能力はチンプンカンプンなんで、呪いの事以外聞かないでくださいね! 冗談抜きにマジで! 超力の発生手順なんて、日本語と思えなかったんですから!
「ほかに気が付いた事はないか?」
「はい、時間が最悪です。恐らく眠っている所に奇襲しようとしたんでしょうけど、日本に限らず世界でも丑三つ時の呪術師は非常に活発化して、その能力も強化されます。恐らくその犯人も起きていた可能性が高いです」
深夜3時なら、丑三つ時から30分程過ぎているが、丑の刻と考えたら殆ど誤差の様な物だ。単なる人間ならそれでよかったんだろうが、呪術師ならまず起きてる。突入した警察は、いきなり攻撃された可能性もあるな。つまり自爆とはいえ、犯人が死亡したのは非常に運がよかったと言わざるを得ない。
「なるほど時間か」
学園長もそれは盲点だったと頷いている。どうですか学園長? ちゃんと主席として頑張ってるでしょ? たまに主席か呪いの専門家か分からなくなる時があるけど……。
と言うか最近思ったけど、皆さん呪いについてかなり知らない事が多い。まあ、俺は生まれた時から知っているという、まさにチートを使っている訳だが……これが学園チート物か。だが呪いで人生楽勝ものどころか、バレたら全人類から追放されてしまうんだがな!
冗談は置いておいて、やっぱ作るか? 今日から出来る呪いと呪術師への対処法って本作っちゃうか? 現代の呪いなんて99%悪事だから作っちゃうか? 残り1%は俺が使ってるんだし。それに俺と親父の呪いは人類にとげふん! 別に痛くもかげふんげふん!
よし作るか! 目指せ一家に一冊! えいえいおー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます