これぞ主席か
「あなた起きて」
ふごごごご。ふっご。あと24時間……。
「起きてってば」
ふごごっ。昨日夜勤で。ふごっ。
「起きないと」
起きないと?
「塩水に沈めるわよ」
「おはようございますお姉様!」
僕東京湾に沈められちゃうんですか!?
「おはよう。昨日徹夜だったけど、主席がサボりはマズいわよ」
「そうですね! 主席ですから!」
昨日ちょっと徹夜で仕事だったけど、伊能学園の主席が眠いからってサボる訳にはいかない。今日も元気にブラックタール帝国の発展のため、内政をしなければならない。
そういや校門がちょっと寂しいよなあ。なんか飾りが必要だな。なんといっても帝国の玄関口なのだ。金剛力士像いっちゃう? いっちゃうか? う、げふん、か、げふん呼んじゃうか? 芸術家なら皆未練タラタラだろ? 常世から呼んじゃうか?
「それと今日は綺麗ね」
「え? 綺麗?」
おかしいな。仕事終わりにそのまま寝ても、真形態はそんなきゃああああああああ!?
何で第三形態になってるんだあああああああ!?
恥ずかしいいいいいい!
◆
『ギリシャを中心として起こったこの奇跡は』
朝起きてテレビをつけると、どこもかしこもギリシャのこと一色だ。しかし一体何が起こったんだ……。
『バチカンは沈黙を保っておりますが、世界各地の信者が巡礼に訪れようと空港に押しかけ』
ああ、やっぱり一神教だったかあ。流石だなあ。凄いなあ。憧れちゃうなあ。
「大騒ぎね」
「そうですねお姉様。いやあ、一体何があったんでしょうね」
「そうねえ。ところで新婚の新妻を放っておいて、一日家に帰らなかった旦那がいるらしいわよ。どこ行ってたのかしら」
「ききききっと新婚旅行の下見じゃないですかね!?」
「そうねえ。ヨーロッパとか?」
「ああああアメリカとかじゃないですか!?」
お姉様のいつものニタニタ笑い素敵です!
やべえよやべえよ、まな板の邪神だよ。完璧に出来るか分からなかったから、お姉様にはフワッとしか説明してないんだ。だって失敗したら恥ずかしいから!
「ほんとうぅ?」
「ほほほほほんとでしゅ!」
だからお姉様そやってつーってされるとおおおお!
「ふふふ。さあ朝食にしましょうか」
「はい!」
ふう誤魔化せた。お姉さまにこんな極悪極まった事をしているなんて、知られる訳にはいかない。昨日は達成感からいいことしたと思ったが、よくよく考えるといいことして、しかも喜ぶだなんて邪神の面汚しよ。危うく邪神カテゴリーから追放されてしまうところだった。
それにしても疲れたからお腹減ったなあ。
「はいおまたせ。ギリシャへの行き方は、前に言ってた怪物形態でのワープ? 恨みだけじゃなくて未練のある所でも行けるの?」
「はいそうです!」
ご飯! お姉さまの手作りご飯!
いただきまーす!
◆
「おはよう諸君。少々世間が騒ぎになっているが、それで学業を疎かにすることは出来ない。今日も一日普段通り頑張ってくれ」
流石ですね学園長。まあ、30年も前の事件だったんだ。ここの生徒で直接面識がある人はいないだろう。
「それと貴明は後で学園長室に来てくれ」
いきなりですね学園長。それにしても何で呼ばれたんだろう。あ、主席として何か用件があるんですね。分かりました。丁度校門の事を相談したかったんですよ。もう連絡して同意済みなんで、魔除けの意味も込めて金剛力士像とかどうですかね?
◆
「心当たりあるか?」
唐突ですね学園長。それだけじゃ何のことかさっぱり分かりませんよ。でも分かってるよ。あれだろあれ。
「30年越しとはいえ、3日後って事はあの復活と丁度ですから、一神教でまず間違いないと思います。親父じゃ逆立ちしたって出来ません。あ、直接自分の復讐をしたいって言う人に、ちょっとだけ肉の器を用意する事なら出来ます。ただまあ、こんな世界中で福音鳴りまくる様な事は出来ませんね」
「やはりそうか」
学園長もまず親父は関係ないと思っているが、一応俺に聞いたのだろう。それにこれは本当の事だ。例え未練が残っていても、ヒュドラが討ち果たされ、恨みが残っていない者達をどうこうするのは、悪ではないが純粋な負である邪神の領分じゃない。
「世間話ですけど、日本でも信者増えて来年からここ大変じゃないですか?」
「言うな。昨日からずっとそれで悩んでいるんだ」
まあそうだろう。ただでさえ一神教の教師は取り合いと聞くのに、世界中で勧誘合戦が激化するだろう。しかしそれは宰相の役目なのだ。何とかしてくれたまえ。
「あ、そういえば校門に魔除けの金剛力士像とかどうですかね? ちょっと伝手がありまして、国宝とかに引けを取らない奴が手に入るんですけど。逸品ですよ」
「詳しく聞こう。製作費用と期間はどれくらいになる? 効力は私が霊力、東郷に浄力を付与すればかなりのものになる筈だ」
ちょろいですよ学園長。前の前に餌垂らされたブラックバスだって、もっと慎重になりますよ。
「費用の方は貸しがあるので大丈夫です。実物も、明日の朝早くに俺がワープで持って来て来るんで、じっくり見分してどうするか決めて下さい」
呼ぶと言ったがあれは嘘だ。もう呼んで実家の方で作って貰ってる。いやあ、もっといい物作りたいって言う未練に負けたよ。しかも邪神パワーで強化されて100倍速くらいの製作スピードだ。常世にいても国民の義務労働を提供してあげるなんて、俺ってなんていい子なんだろう。
あ、明日持ってくるって言っちゃったから、頑張って今日中に仕上げて下さいね。納期は厳守でお願いしますよ。
「至れり尽くせりだな。しかし国宝に引けを取らない逸品か」
「そこらの呪いじゃ近づいただけで吹っ飛びますよ」
「これ以上ない保証だ。明日楽しみにしている」
そうでしょうそうでしょう。何と言ってもほんもげふんげふん。本物そっくりの出来になるのは決まってあるのだ。
「ところで今回の件、貴明じゃないよな?」
「え! いやいや無理ですよ! 僕も仇を目の前にした怨霊に肉を上げるのは出来ますけど、今回のは僕じゃ無理です! 買い被りされ過ぎて照れちゃいますね! 兎に角僕じゃ無理です! それこそ神に誓ったっていいですよ!」
そんな、そういえばその可能性がって急に思いついたように言わなくても、そんなこと僕が出来るわけないじゃないですか!
「ははは。すまん急にその考えが思い浮かんでな」
全く。自分でもそんな事ないって分かってて聞くんだから宰相は意地が悪い。
「おっともうこんな時間か。今日の戦闘会で例の式符を使うから君も来てくれ。それでは主席四葉貴明。今日も頼んだぞ」
「はい! 四葉貴明、今日も主席として頑張ります!」
「うむ」
かーっ仕方ないな! なんたって主席だからな! 今日も主席として頑張ってやるよ!
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