入学準備

「マンションの契約も終わりましたし、次は専門店で学園用のを色々買いましょうか」


「そうね」


お姉さまとのあ、愛の巣になるマンションを契約し、次は異能者向けの専門店に足を運ぶことになった。そう広くないマンションだったが、お姉さまが一緒に住んでいるのに部屋が広くて別々に住んでいるみたいなのは嫌よ、と仰られた時は胸がエンジンになったと錯覚した。そんで気が付いたら契約した後だ。でへ。


まだ合格通知が来てないのに気が早いとは思うが、お姉さま曰く、推薦組の試験案内が届いた時点で合格したようなもので、他の名家の子弟ももう色々準備しているらしい。

俺も勿論合格だ。親父がそう言っていた。なんたって推薦組で試験を受けたのだ。親父がちょっと電話して俺がどうなったか聞いたみたいだが、それと俺の合格に何の関係もない。無いったらない。あったとしても評価されない項目で最優秀なので問題ない。


大体試験内容がダメなのだ。なんだって呪力を測定する装置が無かったんだ? ちょっとだけ人を苦しませてころころしたり、ちょっとだけおバカになる程度苦しませるだけの力じゃないか。ストレス多き現代社会でこれを評価しなくてどうする? その解消のために使われている素晴らしい力なのに。うん無いな。教育機関で教える力じゃねえわ。そもそも想定されてる相手が人間だもの。妖異とか怪異を相手に現代社会を守る異能者の恥さらしだ。やべえよやべえよ。私の呪力は50数万とか言ったら退学どころか都会から叩き出されるわ。現に今だって都会の怨念パワーですげえ強化されてるんだもの。と言うかまじで都会の怨念すげえな。超漲る。


【…………殺す】 【……死ね】 【…………根絶やしにしてやる】 【怨怨怨怨怨】


ほら。

都会って怖いなー。田舎じゃないからちゃんと戸締りしとこ。






【杉の木を殺す】 【花粉死ね】 【一本残らず根絶やしにしてやる】 【咳鼻水くしゃみ目の痒み】


アホかあああああああああああああああああああ! ただの花粉症じゃねえか! 恨み起こりすぎだろ! と言うか俺花粉症でパワーアップしてんのか!? ああヤバい認識しちまったせいで呪力値が上がっていく! 100万!? 1000万!? どんどん上がっていくううう!

本当にまずい! このままじゃあ、邪神の息子が都会から追放されました。見てろよ田舎で最高の野菜を作って見返してやる。が始まってしまう!


「どうしたの?」


「いえ何でもありません!」


抑えろ! 俺の右目を治すためにこの呪力を抑えるんだ! ああムズムズするううううう!


点鼻薬と目薬はどこですか!?



「あら、思ったよりずっと大きいわね」


「ですね」


なんとか花粉眼を抑えつけた俺は、異能者御用達の専門店に足を運ぶことに成功した。でも結構デカいなおい。大きめのスーパーくらいあるんじゃねえか? 異能者の少なさからもっとこじんまりとしたのを想像してた。


「伊能学園があるからかしら」


「ああなるほど」


そっか。学生と言うお得意様が一杯いるんだ。そりゃあ色々複合的になって大きくなるな。

というか異能養成所だから伊能学園って名付けた奴出てこい。絶対事務員さん困ってるだろ。あ、また変換ミスだって。馬鹿じゃねえのか?


「じゃあ行きましょうか。お買い物デート。ふふ」


ぐえええええ! お姉さまその流し目は僕にいつも大ダメージを与えてます!

だがこの貴明負けっぱなしじゃありません! 手を握らさせていただきます! えいや!


「……もう」


頬をほんのり染めたお姉さま可愛い! 可愛い!

あいてっ。お姉さまが飛ばした霊力でデコピンされた。でへへ。


「人も案外多いわね。ちょっと箱入り娘だったかしら」


「明るくて広い……自分も田舎者でした」


2人で手を繋いだまま専門店に入ると、そこは広々とした空間と多くのお客さん達がいた。勝手な想像だったが、もっと陰鬱で商品も所狭しと並び、道で会ったら思わず避けてしまいそうな人ばっかりだと思ってた。


「あら、霊符も色々あるわね」


「攻撃用から防御用、あ、回復のもありますよ」


お姉さまの視線の先には、主に陰陽師や神職についている者が作成した霊符が沢山あった。霊符のメリットはある程度の異能があれば、能力や適性に関係なく使用できることだ。多分俺でも炎とか雷なんかを起こせる。まあデメリットとして使い捨てな事と、よっぽどの達人が作ったのでなければ効果が大したことが無い事か。

おっと呪い避けがある。俺が触ったら破裂するから気を付けないと。


「ふーん。浄力で作った物は買おうかしら。霊力のはいらないわね」


「僕も幾つか」


お姉さまと俺は浄力で作られた傷を癒してくれる霊符を買い物かごに入れる。


「ちょっと疑問なのだけど、浄力を浴びたらあなたの場合傷付かない?」


「多分そうですけどこれはお姉さまに万が一があった場合のです!」


お姉さまの言う通り、多分俺が超強力な浄力を浴びた場合逆効果になるだろう。だがこれはお姉さま用のであって全く問題ない。


「……馬鹿」


「お姉さま」


プイッと顔を逸らしたお姉さまの手をほんの少しだけ強く握ると、お姉さまも同じように握り返してくれた。


「……ふふ、浄力と言えば巫女だけど、確か義母様は義父様の巫女と言う立場だったわよね。という事は私もあなたの巫女になるわね」


「ぶっ」


お姉さまが再び俺の顔を見ると、いつもの余裕たっぷりな顔でニタニタ笑いで、衝撃の言葉をぶっ込んでくる。

そう、世間一般、じゃねえや、極々一部界隈では、お袋の事を親父を鎮める巫女として認識しているらしい。冗談じゃない。俺が生まれる前に親父に頼まれて巫女さんのコスプレしてたのが精々なのに。箪笥漁ってたら出て来て卒倒しそうになったわ。ありゃあ親父に罰が当たるね。まあ親父の頭が上がらないないという点では間違ってないか。


「今度服を取り寄せてみましょうか。ね? あ、な、た」


ふ、ふ、ふおおおおおおお!? お姉さまそうやって囁かれたらああああ!


「でもその前に買い物デートの続き。ね?」


「はははは、はい!」


ああああだめだああああ! 浄化されるううううううううう!




「おかえりー」


「ただいまー」


「ただいま帰りましたわ」


「はいこれ、貴明宛てに」


都会デートも終わり、ラストダンジョン邪神のおうちに帰宅した俺とお姉さま。そんなデートの余韻に浸っていた俺に親父が封筒を渡してくる。これは、伊能学園からか。さては合格おめでとうだな。


「デート楽しかったかしら?」


「はい義母様」


「ふふふ。私達の若い頃を思い出すわあ」


お袋の若い頃っていつだよ。ひえっ殺気が飛んできた! 助けてパパ! 無視すんなコラア!


お、やっぱり合格じゃーん。やっぱ世の中コネげふんげふん。典型的ボンクラ馬鹿息子のムーブかますところだった。


おやこれはなんだ?


は?


は?


満点?


主席合格?


新入生代表の挨拶?


は?


は?


「おお! 竹崎君も言ってたが、本当に満点でしかも主席合格か! いやあ流石はうちの息子だ!」


お、お、お前かああああああああああ!


鼻薬嗅がせ過ぎなんじゃあああああああああ!


す、推薦組は俺がゼロ点って知ってるんだぞ! それで主席だなんて恨まれるに決まってるだろ! ど、どうすんだよ肩身が狭いってもんじゃねえぞ! いや元から狭いのは分ってたが、これはマジで洒落にならん!


助けてお姉さま!?


「流石は私の旦那様ね」


ああそのニタニタ笑い素敵です!


のおおおおおおおおおおおおおおお!

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