第二十四話「家にて(4)」

 父親が持つ、鈍く輝く包丁を見て、紗希は血の気が引いた。

「……お父さん……やめて……!」

 必死にそう叫ぶ紗希だが、キッチンからリビングへと向かって、ゆっくりと歩いて来る父親には、聞こえていないようだった。

 先程まで浮かんでいた笑みが消えた父親は、

「死ねば、母さんに会えるんだぞ?」

 と言いながら、ゆらりゆらりと、近付いて来る。

 紗希は、後退りながら、

「……お願いだから……お父さん……! ……やめて……!」

 と、恐怖と悲しみに染まった顔で、必死に呼び掛けた。

 が、父親には届かない。

「母さんも、天国で一人っきりじゃ、可哀想だろ? 俺たちが行けば、きっと喜んでくれるさ」

 焦点の合っていない目で、父親はそう呟く。

「……お父さん……! ……いや……!」

 震えながら後退し続ける紗希だが――

「――――ッ!」

 ――とうとう、壁に追い詰められてしまった。

 父親は、

「苦しまないように、急所を一突きして殺してやるからな」

 と、紗希に語り掛ける。

「……お願い! ……お父さん……! ……やめて……!」

 必死に懇願する紗希だったが――

「先に向こうに行っていてくれ」

 ――父親は聞く耳を持たず、手に持った包丁を振り上げた。

「いやあああああああああああああああああ!」

 尻餅をつき、悲鳴を上げた紗希に向かって、包丁が振り下ろされようとした。

 ――次の瞬間――

「次のニュースです」

「「!?」」

 突如、テレビがついて、ニュース番組が映し出された。

 思わず、父親の手が止まる。

 テレビ画面の中で、女性アナウンサーが、淀みなく原稿を読み上げて行く。

「3Dプリンターで拳銃を作ったと見られるA市在住の男ですが、男の家を調べた所、一丁ではなく、複数の拳銃を作った痕跡がある事が分かりました。男は現在も行方不明で、警察は、近隣住民に警戒を呼び掛けると共に、総力を挙げて捜索しています」

 父親は、

「何で勝手についたんだ?」

 と言いながら、テレビの方を振り向いて、テーブルの上にあるリモコンに手を伸ばそうとした。

 ――その直後――

「おわっ!?」

 ――いつの間にか、輪っか状にして床に貼り付けてあった複数のガムテープに脚を取られて、父親が転んだ。

 そして――

「今の内に、逃げろ!」

「……え……!?」

 どこからともなく聞こえた少年の声に、紗希が戸惑って声を上げる。

「……だ、誰……!?」

 少年は、相変わらず姿を見せないまま、

「そんな事どうでも良いから、逃げろ!」

 と、再度言った。

 少年に対して、紗希は、

「……腰が抜けちゃって……動けない……」

 と、言った。

 すると――

「!」

 ――突然、目の前にスミが現れた。

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