43話 朝だぞ、起きろ!

 カーテンの隙間から覗き込む太陽の光が瞼を透過する。それだけなら二度寝を決め込むところだが、頭上に置いてある目覚まし時計がジリジリとなり始めた。


「んんんんん……」


 寝返りをうって瞼を開ける。小さな隙間から眼球へ向けて光が突き刺した。それでも覚醒しきらない寝ぼけ眼で目覚まし時計を手に取る。


 時刻は7時半。


 そこまでしてようやく身体を起こした。


 朝食は、昨日作り置きしていたハンバーグを温めたものだ。レンジに入れたハンバーグが回転しているのを眺めてやるべきことを思い出した。


「おーい、起きろ! 火恋かれん!」


 2階の隅にある部屋をノックする。扉には乱雑な字で「勝手に入るな!」という張り紙がされていた。


「おーい!」


「うっさいんだけどぉ!」


 怒鳴り声と共に扉が開き、僕の顔面を勢いよく叩き付けた。


「いっでえぇ!!!」


「あ、ごめん」


 部屋から出てきたのは、青い瞳が特徴的なポニーテールの少女だった。1日中パソコンに向き合っている彼女は、目元に酷いクマを作りブルーライトカット仕様の眼鏡をかけている。本人曰く、10.0あるので度は入っていないそうだ。


「って、なんでアタシが謝ってんのよ。そんなところに立っているアンタが悪いじゃない」


「ったく、これが妹か……」


「なによ、妹は可愛がりなさいよ」


「そんなこと言われてもなぁ」


 彼女の名前は火恋かれん。僕の妹……なのだが、彼女の存在はつい数か月前に知った。何を隠そう、彼女は母親の異なる腹違いの妹だ。そりゃあ存在を隠されていれば知る術もない。火恋は突然、僕の家にやって来て自身を妹だと名乗った。


 一般人ならば新手の宗教勧誘か、暖かくなったら現れる変人だと思ってすぐに追い返すだろう。しかし、僕には受け入れるだけの事情を持っていたのだ。


「それで、何の要件よ。忙しいんだけど」


「朝ごはん出来たぞ」


「持ってきて」


「食事はリビングでとるように言っているだろう」


「階段を下りるの時間の無駄なんだけど」


「ダメだ。朝食抜きにするぞ」


「……わかったわよ。面倒な男ね。だから童貞なのよ」


「なっ! 何を言ってんだよ!」


「え、何、図星? はっ、うけるー! ……はぁー、ったく、アンタと喋っているだけで疲れるわ。仕方が無いからリビングで食事してあげるわよ」


 火恋はそう言って乱暴に扉を閉めた。


「お嬢様かよ……」


 まったく、世話の焼ける妹が出来たものだ。数カ月前までは一軒家に1人暮らしという悠々自適な生活を勤しんでいたというのに。


 こんなところに突っ立っていても仕方がないので1階に戻る。


 電子レンジの中に取り残されていたハンバーグを救出して、ごはんも炊飯器から皿に盛りつける。


「朝ごはんは何かしら?」


 嗅覚が敏感な火恋がいつの間にかキッチンに来ていた。なんだかんだ言って食事には釣られるのだ。


「昨日のハンバーグの残りだ」


「え~~~。もっと豪華なもの作りなさいよ」


「文句があるなら自分で作るんだな」


「無理」


「なら食事をリビングに運んでくれ」


「……仕方がないわね」


 不貞腐れながらも2人分の料理をリビングの机へと運んでいく。


『今日の早朝2時、道端に止めていた車が何者かに奪われる事件が発生しました。当時、2人の男女が乗車しており、犯人は拳銃のようなものを取り出して二人を脅してそのまま車を奪い逃走したとのことです。未だ犯人は見つかっておらず――』


 おもむろに付けたテレビから物騒なニュースが取り上げられていた。


「車を奪うのに拳銃かよ。ここはアメリカじゃないんだから」


 ハンバーグを頬張りながら、俺には無関係であろう出来事にコメントを残す。


「夜中に男女2人きりで道端に停車……カーセックスでもしてたわけ?」


「ぶはっッ!!!」


 思わず口の中からハンバーグが溢れ出した。


「何やってんのよ!汚いわね!」


「おまえが変な事を言うからだろ!」


「カーセックスって言っただけで動揺する男とか日本の教育はどうなってんのよ」


「日本の教育はどうやら間違っていないようだな」


「どうでもいいわよ。ごちそうさま。所詮は夕飯の残りってところね」


「文句があるならこれからオマエの食事は抜きだ」


「すみませんでした。とても美味しかったです。また食べたいです」


「誠意を示して食器を台所に持っていくんだ」


「はーい」


 心底不服そうに返事をして、火恋は食器を運んだ。


 自分も食事を終えると食器を洗い済ませて歯を磨く。


「それじゃあ家を出るから戸締りを頼んだぞ」


「はいはーい」


 ソファで転がっている火恋に声をかけると学校に向かう為に家を出た。




<あとがき>


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