姉妹メイドと恋人立候補の『姫君』に俺の1人暮らしが邪魔された件

四志・零御・フォーファウンド

同棲メイド生活編①

始まる新生活

1話 おはようございます、ご主人様


「ご主人様……、ご主人様………」


 ユサユサと身体が揺られる。当然無視して、布団の奥深くへと潜り込む。

 

 春眠暁を覚えずとは言ったものだが、今の季節は冬。それでも心地良い布団の中を春にしたっていいじゃないか。


「ご主人様……、ご主人様…………、がく様、起きてください……」


 二度寝を決め込んだところで、もう一度身体を揺さぶられた。惰眠貪る背徳感に浸る邪魔をしないでくれ。と返答したいがこれ以上彼女へ迷惑はかけられない。彼女にとってこれは仕事の一環なのだから。


「んゃ――――」


 重い瞼を持ち上げると、キラキラと輝く宝石のような碧眼が俺のことを覗き込んでいた。寝ぼけ眼だった俺は、その美しさに吸い込まれそうで心臓が高鳴る。


 静まれ心臓。この子はメイド。毎朝俺のことを起こしてくれる新妻じゃない。ちょっと特殊な中学3年生、冠城かぶらぎ学の専属メイドだ。


「おはようございます、ご主人様」


「ん……」


「寝ぼけているとご主人様の口に私の舌をねじ込みますよ」


「―—ん…………ん? いま何て言った?」


「おはようございます、学様」


「…………おはよう珠李しゅり


 とんでもないことを口走っていたような気がしたが、まあいいか。


 身体を起こして大きく伸びをする。それと同時に、ベッドの隣ではメイド衣装を身に着けた俺と同い年の少女、犬星いぬぼし珠李しゅりが一礼した。


「本日は15時に露峰つゆみね家ご当主様が訪問されます。対応はお姉様が行いますので、ご安心をください。それ以外の目立った用事はございませんので、日中は受験勉強に集中できるかと思います」


 頼んでもいないのに毎朝今日の予定を教えてくれる。朝が苦手なことを知っている癖に、淡々とした口調で予定の書かれた黒革手帳を目で追っているのだ。


 当然、寝起きで覚えきれない。内容の1つだって頭に入っていないので、その都度予定の時間が近づけば再び教えてくれる。頼んでも無いことだったが、なんだかんだ珠李の習慣になってしまったらしく今更止めるつもりはないらしい。


「爺さんは?」


じん様は夕方に帰られると仰っていました。恐らく17時頃かと」


「わかった。ありがと」


「では朝食の準備をしてまいりますね。失礼いたします」


 珠李はもう一度礼をして静かに部屋を出て行った。その様子を見届けると、俺は怠惰を振り払う為の大きな欠伸をしてベッドから這い出した。


 中学三年生の1人部屋として不釣り合いな二十畳を超える大きな部屋の中から、噴水の見える西洋造りの庭を眺める。


 ここは地元で大屋敷おおやしきと呼ばれる有名な場所。その名の通り、広大な土地を保有した立派な家だ。そんな場所に住まうのは、世界を股にかける大企業、冠城かぶらぎグループを立ち上げた冠城家である。


 特別な環境にいることは自覚し、甘やかされた環境であることも理解する。だからこそ、すべて受け入れて使えるものは自分の為に利用する。


 とまぁ、そんな上流階級特有の捻くれた思想を反面教師に、これまでの人生を歩んできた。


 派閥、後継者争い。血で血を洗う悲惨な出来事を耳にすることも間々ある。 


 漫画の中で展開されているような醜い光景が身近で起こっているのだ。

 

 それらは百歩譲って頷ける。必然の争いと言える。


――――しかし、専属メイドが付いているってのはどう考えてもおかしい。


 後継者争いなんて、家族経営の会社なんかはよく起こる話だ。派閥争いなんかは政治の世界でも良くあることと聞く。


 大きな屋敷を家族だけで管理することは難しい。それは理解できる。


 でも、現代においてメイドという呼称のお手伝いを雇うのは聊かいささ時代に逆行しているのではないか。


 家政婦じゃダメなのか?


 珠李に聞いたところ、冠城家メイド問題は祖父――冠城かぶらぎじんが会社を引き継いだ頃が元凶だと分かった。

 

 元々、冠城家は大昔から家政婦を雇っていたそうだが、彼の趣味によってメイド服が制服の条件となって人を雇い始めたそうだ。それに伴い(制服に仕事が伴うのは意味不明だが)仕事の内容も家事だけでなく、秘書の代行、身の周りの世話にまで及んでいく。


――こうして時が経ち、家政婦はいつの間にか「メイド」としてジョブチェンジを果たしていたのだ。


 これが、冠城家メイドの歴史である。名前だけの話なら深いようで浅い。が、本質的なところで冠城家の歴史と切り離すことが出来ない重要なポジションにいる。


 ……前置きはこのぐらいにして、本題だ。


 随分と歴史ある血筋のせいで、プライベートな時間と空間を作ることは難しい。何かある度にメイドが部屋を訪れる。1人の時間なんてなかなか作れない。


 そんな状況を脱する為、高校入学を期に、俺は1人暮らしをしようと模索しているのである。





<あとがき>


 はじめまして。よんでくれてありがとう。


 四志しし零御れお・フォーファウンドともうします。


 とりあえず2日に一度ぐらいの投稿になるとは思いますが、どうぞよろしゅうねがいます。


 ブックマークや感想等頂けますと励みになります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る