第30話「魔法集団戦開始~予想外の展開~」

★ ☆ ★


 審判役を務めるガウンが、集まった両校の生徒たちを見回して試合のルールを説明し始めた。


「ふむ、みな集まったな? これよりクラギ学園とダーノ学園の集団戦を開始する!くれぐれも軍用魔法を使わないように! 使ってよいのは気絶までが限度の初級魔法までだぞ! わかっておるな?」


 いよいよ武道大会が開始される。


 校庭の四方に結界がかけられているので、生徒レベルの魔法なら打ち破ることはできない……のだが、サキが本気を出すと初級魔法でも壊れてしまうので、ちゃんと俺が補強しておいた。


 なお、俺たち教師陣は結界の外で状況を見守ることになる。

 東側が俺たち、西側がダーノだ。


 例のノワに、特に動きはない。

 さんざん牽制しておいたので試合中に下手なマネはしないだろう。


「センセー! 見ててー! あっという間に倒しちゃうからー!」


 そんな中、サキは無邪気にこちらに手を振る。


 なお、生徒たちにはダーノ側の不穏な動きは伝えていない。

 せっかくの武道大会なので、それに集中してほしいからだ。


「おお、やっつけちまえ! でも、油断するなよー!」


 ダーノ側の生徒たちの魔力は思ったよりも高い。さすがエリートだけあって、もともとの基礎魔力が高いのだろう。遺伝については、俺にもどうこうできない。


 ただ、遺伝だけで説明できないものを感じる。

 俺がやったような才能開花に似たものが施されているような気配があるのだ。

 いや、これは――……?


「では、始め――!」


 そのタイミングでガウンが号令し、大会が始まった。


★ ☆ ★


「よーし! みんなぁー! いっくよー!」


 あたしは気合いを入れて、まずは攻撃隊のみんなと最初の魔法攻撃を開始した。

 いつもセンセーは最初の一撃が大事だからって言ってたから。

 まずは一発ぶちかます!


「先手必勝ーーーーー!」


 あたしたちの魔法は、次々と相手に向かって放たれていく。

 もうこれ開幕で決まっちゃったりするんじゃない?


 そう思ったんだけど――。

 相手は、なんと無詠唱でバリアを張ってきた!


「うそっ!?」


 センセーの教えを受けていないのに無詠唱!? なんで!? しかも、すごい耐久力!

 こっちの魔法攻撃は完全に防がれちゃった!


「サキ! ぼやっとしていてはいけませんわ! すぐに切り替えるのです!」


 思いがけないことがあっても、さすがナナミちゃんは瞬時に対応できる。すごい!


「う、うんっ! みんな! 相手の反撃に気をつけながら魔法を撃って!」


 あたしは攻撃隊のみんなに指示を出しながら、魔法を撃っていった。


★ ☆ ★


「無詠唱だと!?」


 俺は、ガラにもなく驚いていた。いや、なんかおかしいなとは思っていたのだが――この時代に俺と同じ発想の指導ができるとは思わなかった。


 そんな俺に対して、あの狐目野郎ノワが視線を向けてくる。

 にやり、と笑みを深めた気がした。


「……ただのキツネ野郎ってわけじゃなさそうだな」


 こんな奴、これまでに出会わなかった。

 だが、俺の鍛えた生徒たちが負けるわけがない。


「落ちついてやれば勝てるからな! 焦るなー!」


 俺の呼びかけに応えるように、生徒たちは落ち着いて対処していく。

 相手が無詠唱というのには驚いたが、こちらのほうが動きが実戦向きだ。


 ……ただ、相手の防御魔法の耐久力が実力以上になっている気がするのだが。

 というか気のせいじゃない。明らかに、おかしい。

 生徒たちに魔力強化のアイテムでも持たせているのか、あるいはほかの理由か。


 結界内の生徒たちに対して分析魔法を使うことは禁止されている。外部から教師が生徒たちになにかしら干渉したら、その時点で失格負けになってしまうのだ。


 つい狐目野郎に気をとられていたが、ダーノの生徒たちも事前に詳細に分析しておくべきだった。しかし、変なアイテムを持っていたら気がつくはずなのだが。


「くくっ! 皆の者! ミヤーオ国の生徒などひとり残らずやってしまいなさい!」


 ノワの言葉に呼応するように、生徒たちが操り人形のように動き始める。

 その瞳は、どことなく暗い。そして、瞳が仄かに赤く輝いたような気がした。

 これは、まさか――?


「まさか、生徒たちを操ってるのか!?」


 傀儡系の魔法だと感づいた俺は、ノワに向って叫ぶ。

 だが、ノワは表情を変えない。


「言いがかりはやめていただきたいですね。小生が魔法を使ってないことは、あなたからはわかるはずでしょう」


 確かに、今のこいつからは魔法は発せられていない。

 だが、ダーノの生徒たちの動きは明らかに傀儡系のソレだ。


「アイテムを持たせているのか、それか洗脳してるのか、なんかしてるのは間違いないだろ? 生徒たちが実力以上の魔法を使えてるんだからな」


「ははは、想像力が豊かなお方だ。でも、そんな無茶苦茶なことを言っても誰も証明できないでしょう」

「だったら、おまえに自白させればいいだけじゃねーか」


 俺はノワへ向けて一歩踏み出す。


「おっと、そんなことをしたら場外乱闘をしかけたとして、そちらの失格負けになってしまうでしょう。いいのですか? この日のためにがんばってきた生徒たちの努力を踏みにじるようなマネをして」


「うぐっ」


 そう言われると、ここでこいつをぶちのめして大会を滅茶苦茶にしてしまうのも気が引ける。……いや、まぁ、こんな茶番どうでもいいっちゃいいのかもしれないが。


 だが、チラリと結果内を見てみると――俺の教え子たちは懸命に戦っていた。


 これまでの俺の教え通り、予想外の事態が起こったときは攻防のバランスを取って立て直すという長期戦スタイルに移行している。


「くっ……まぁ、俺の教え子たちが負けるわけねぇからな。てめぇが余計な小細工をしていようと無駄だ!」


 俺はノワを睨みつけると、片目で結界内の戦況を見守ることにした。

 もう片方の目は、このキツネ野郎を監視だ。


「ふふ、大した自信ですね。でも、すぐにわかりますよ。小生の教え子たちの優秀さが」


 余裕の笑みを浮かべて、俺から視線を外して結果内を向くノワ。

 よっぽどその横顔を殴り倒してやろうかと思ったが、自重した。

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