03.悲哀



「突然、辛かったろう……すまない」


「……うっ」


「サラ様………わたくし達が居ますから」



安心させるように微笑んだ二人に涙を拭った。

カーティスとアンジェリカの手を取り立ち上がった。


その日から、ライナス王国で暮らす事になった。


やはりライナス王国に召喚された聖女は役目が終わるまで、元の世界に帰る事が出来ないのだという。

それを聞いて悲しくて暫く部屋で塞ぎ込んでいた。


そんな時、カーティスとアンジェリカが部屋に通って励ましてくれたのだ。

次第に元気を取り戻して、城を歩いて回ったり、教会に行ってみたり……次第にライナス王国のことをもっと知りたいと思うようになった。


寂しさは次第に薄れていったが、やはり元の世界に帰りたいという気持ちは消えない。


詳しく話を聞くと、どうやら王国で崇められている『女神ライナス』が国を守るために、異世界から召喚した聖女だった。

そしてライナス王国を魔族から守るために必要な大結界を張るために呼び出されたようだ。


初めて召喚された日は混乱していて、殆ど話を聞いていなかった。


(本当に私にそんな力が、あるのかしら……?)


自分の手のひらを見た。


普通の女子高生として過ごしていたのに、急に国を守る力があると言われても信じられなかった。

それに急に異世界で聖女になってくれと言われても「はい、そうですか」と、受け入れる事は出来なかった。


日本とは全く違う生活様式を間近で見て、本当に異世界に来たのだと実感した。

ライナス王国の事を教わりながら、異世界での生活に慣れるのに必死だった。


けれど国での扱いは一国の姫のようだった。

沢山の侍女や護衛が付けられていた。


人に世話をしてもらう事に慣れていないからか驚きの連続だった。

着替えも、ご飯も、お風呂ですら侍女が全て身の回りの世話をしてくれた。


そして『純白の聖女様』と呼ばれる事に慣れてきた頃だった。

一年後に張る大結界に向けて、聖女としての修行が始まった。

教会での立ち振る舞いや、聖女の役割を教わった。

聖女しか使えない治癒魔法の訓練をしたり、人に安らぎを与えられるように祈りを捧げた。


ライナス王国で体験することは、全てが新鮮だった。


アンジェリカは忙しいようで、一緒に街の教会へ行く事は無かった。

ひたすら治癒魔法の訓練を続けていたが、上手くいかずに落ち込んでいた。

そんな時、綺麗なドレスに身を包んだアンジェリカがダンスの練習をしていた。



「アンジェリカ様は、すごいですね…!」


「え……?」


「聖女の仕事も忙しいのに色々と頑張っていて!ダンス、凄く綺麗でした。正直、羨ましいです。私は全然上手く出来なくて……!」


「………元気を出して、サラ様。慣れたら誰でも出来るようにわ」



アンジェリカはいつも優しく声を掛けてくれた。


けれどライナス王国にとって異物である異世界から来た私に対して否定的な人達も居た。

そしてカーティスとの関係を羨む令嬢達から嫌がらせを受ける事もあった。

変な噂を流されたり、時には絡まれる事もあった。



「まぁ……はしたないわ」


「いくら聖女だからといっても許せませんわ」


「…………申し訳、ありません」


「皆様、見苦しいわよ……異世界人のサラ様には難しい事もありますわ」


「けれど……」


「例え何も知らなくても仕方ないわ……!彼女はライナス王国の人間ではないのだから」


「ア、アンジェリカ様がそう言うなら」


「そ、そうですわね」



妬む声を退けて、いつも令嬢達から守ってくれた。

そんなアンジェリカをとても信頼していた。



「アンジェリカ様……迷惑掛けてすみません」


「サラは異世界から来たのだから……無理はしなくてもいいのよ?」


「はい……!でも私、頑張りますね」


「…………そう」



早く周囲に認められるように毎日善行を積み重ねた。

国の為に祈り、国民の為に教会で祈りを捧げながら回った。

人々を慈しみ、愛して、優しさを分け与えた。


徐々にコツを掴むと瞬く間に怪我が治り、病の症状を和らげる事が出来た。

ライナス王国の人達に喜んで貰いたくて懸命に働いた。


次第に『サラ』を讃えて支持する声が増えていった。

純白の聖女として慕ってくれる人達を大切に思っていた。

頑張りを受け入れてくれる周囲の声が嬉しかったのだ。



ーーーーそんな時だった。



「サラ、ずっと君に惹かれていたんだ」


「カーティス様……」


「国の為に尽くしてくれるサラに、僕は心から感謝しているよ」


「ありがとうございます……!」


「もし良かったら、明日街に出かけないか?」


「え……?」


「明日は休みだろう?」


「はい、是非!」



縮まる距離に胸はドキドキと音を立てていた。

いつも此方を気遣い、優しいカーティスの想いに応えるようになっていった。

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