17.成功
「……サラ様、着きました」
馬車に揺られて、ライナス王国の大結界から抜け出した。
するとプライン以外の二人の見た目が変わっていく。
ツノが生え、爪が長くなったり、耳の形が変化する。
やはり何らかの方法で人間の姿になっていただけのようだ。
(魔族……本で見た通りの姿だわ)
「ふぅ…何とか間に合ったな」
「あぁ、大結界の外に出られた…!」
プライン以外の魔族は嬉しそうにしている。
黙って魔族達の姿を見ていると、喜ぶのを止めて気不味そうにしている。
「………いきなり縛られて怖かったろうな」
「それもそうだろうよ。召喚されてから、直ぐに拉致られるなんてな…」
「可哀想な事しちまったな」
「……」
「……」
「っ、兎に角…聖女を一人連れてこれた!作戦は大成功だ!」
「プライン…お前本当に良くやったな!」
「全部お前のお陰だ!プライン…ありがとう」
複雑そうな表情を浮かべていたプラインは、頭をぐしゃぐしゃにされながら、嬉しそうに涙を浮かべている。
変化しない所を見ると、プラインだけは人間だったようだ。
(……何故、魔族の仲間に?)
「……サラ様、お体は大丈夫ですか?」
「………」
「ごめんなさい……本当に」
プラインがここまで下手に出るのも何か理由があるのだろうか?
その理由が引っ掛かる所だが、プラインも魔族の見た目も、どうでもいい事だった。
(使えるか、使えないか………それだけだ)
そんな事を考えていると、どこからか燕尾服を来た男性が現れる。
「…っ、無事だったんですね!!」
「リュカ様…!プラインが上手くやってくれましたっ!!」
「プライン…!!良くやりましたね!魔王様もきっと喜ばれる事でしょう!」
「……はい」
「そちらが今回召喚された聖女ですか?」
「…あの、リュカ様。今回の聖女様は力が無いみたいで‥」
「………何?力がない聖女だと」
「…はい」
リュカと呼ばれた男は、暫く何かを考え込んだ後、此方を観察するように見ていた。
プラインと同じ金色の瞳。
頭には立派なツノが生えており、どちらかというと先程の二人より、見た目は人間に近いような気がした。
(……魔族、ね)
魔族の事で知っている事といえば強い魔法を使う事、人間に害を成すという事くらいだ。
人間であるプラインに普通に接している様子を見ていると、とても害を与えるだけの存在とは思えないが…。
じっと、リュカを見つめ返していた。
魔族にとって聖女の存在に、どんな利用価値があるのだろうか。
すぐに殺す事はないだろうが、用心しなければならない。
魔王が何故、聖女を欲しがるのは分からない。
今回は聖女の力が少ない為、出来ることは限られている。
だからこそ慎重に動かなければならない。
(選択を間違えてはならない)
「なかなか肝の据わった聖女ですね…」
「召喚されたばかりで何も知らないのです」
「………ふむ」
「自分が聖女だという事すら告げられたばかりですから…」
「それよりリュカ様…異世界人は強い魔力を持っているんでしょう?」
「それにいくら使い方を知らないからといって、聖女に力を使われたら俺達はタダじゃすまねぇですよ」
「そうだな……そこの女。怪我をしたくなかったら、よく考えてから動くんだな」
「……」
「とりあえず、三人とも本当に良くやってくれました。魔王様がお待ちかねです!急ぎましょう…」
足元に大きな魔法陣が現れる。
そして魔法陣が黒く光るのと同時に、リュカが言い放つ。
「魔王城に飛びますよ……舌を噛まないように」
グッ…と重力に引っ張られるような感覚に目を閉じた。
体に電気が走るような感覚。
ピリピリと痛みを感じるのは魔族の魔法だからだろうか。
(私の力が抑えられていなかったら…こんな風にはならなかったでしょうね)
女神に奪われた聖女の力は、あの魔法陣がある部屋に行かなければ元に戻らない。
けれど魔族の側にいるならば、大きな聖女としての力は不要なのかもしれない。
(馬鹿な女神………精々自分の行いを悔いてなさい)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます