女装男子は百合乙女の夢を見るか?
千石杏香
序章 少年、「女子高生」になる。
花ざかりの森
花ざかりの森に波紋状の石畳が続いている。
満開の季節は少しすぎ、桜は
石畳と
そこは
その中に、緊張した顔で登校する生徒が一人いた。
彼――
――我ながら不思議だ。
そんなことを思いながら一冴は歩く。
太ももがすーすーしている。男子が普通は知らない感触――スカートの履きごこちだ。下着以外、下半身に何かを履いているという気がしない。
自分は今――周囲の女子と同じ格好で登校しているのだ。
――男なのに。
そして、これは片思いの人の格好でもある。
周囲と違うのは、股間が窮屈に感じられるところか。何しろ下着も女子なのだ。胸にも慣れない締めつけがある。
肩から下げているバッグには、「だいふくねこ」というキャラクターのストラップが三つもついている。できるだけ女子だと思われるための小道具として、幼馴染が用意してくれたものだ。
唐突に、何者かからスカートをまくり上げられた。一瞬、いちごの模様のショーツが露わとなる。工夫をこらしているため、不自然な膨らみはない。
「わっ!」
咄嗟にスカートを押さえ、振り返る。
そこには吊り目の少女が立っていた。
前髪も後髪も切りそろえられたセミロング――まるで日本人形のような髪型だ。側頭部からは、メッシュのように白いリボンが流れている。
「ついてないように見える――ね?」
そう言い、
これこそ、ストラップにしろ下着にしろ、男子である一冴に対し、あてこすりのように可愛い物をそろえてくれた幼馴染なのだ。
あわてて周囲を見回し、菊花にしか聞こえない声で一冴は言う。
「一体なにすんだ――お前は?」
「別に――。女子のあいだじゃ、これくらいスキンシップだし。」
「んなわけねーだろ。」
「あんまうろたえると、男だってバレるよ?」
そう言われると、一冴には反論が難しい。
一冴の右手を菊花は握った。当然、一冴は驚く。しかし、今の自分は「女子」なのだということを思い出し、すぐに冷静となった。
「さ――行こ、『いちご』ちゃん。」
「あ――うん。」
菊花に手を引かれ、一冴は歩きだす。
いささか周囲の視線を集めているような気もした。
気まずい――ぎこちない。
しかし今は従うしかない。
たとえ女子同士でも、手をつないで登校するのが普通なのかは分からない。菊花の性格を考えれば、困惑する一冴を面白がっているのかもしれない。しかし判らない以上、従うしかなかった。
三年間、男だとバレずにこの学校で過ごさなければならないのだ。
しかも――女子寮で女子たちと生活しなければならないのである。
そして――思い人と結ばれなければならない。
――けれど、どうしてこうなった?
釈然としない。
少なくとも、今の一冴は女子と手をつなぐ女子にしか見えなかった。
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