第422話 レオニスとアクアの親睦

 カタポレンの森の家を出立し、程なくして目覚めの湖に到着したライトとレオニス。

 まだ朝の清涼な空気感の残る湖面に向かって、桟橋の先端に立ったライトが大きな声で呼びかける。


「イード、ウィカ、アクア、おはよう!ぼくだよ、ライトだよー!」


 呼びかけてからしばらく待っていると、湖面にポコポコと水泡が出てくると同時にイードとウィカとアクアがゆっくりと浮いてきた。

 ウィカはいつものようにイードの頭にちょこんと乗り、アクアはイードの横にいる。皆ニコニコ笑顔でライトを心から歓迎しているのが分かる和やかな表情だ。

 ライトの後ろに控えていたレオニスが、早速ライトに問いかけた。


「イードの横にいるのが水竜のアクアか?」

「うん、そうだよ!今アクアにも紹介するね!」


 ライトは改めてアクアの方に身体を向き直し、レオニスのことを紹介する。


「アクア、久しぶりだね!アクアは初めて会う人だからちゃんと紹介するね。ぼくの後ろにいる人は、レオニス・フィアっていう人なの」

「今ライトの紹介に与ったレオニスだ。アクア、よろしくな」

「レオ兄ちゃんはね、ぼくを育ててくれている親代わりの人なんだ。イードやウィカとも仲良しなんだよ。ぼくにとって大事な人だから、アクアも仲良くしてね!」

「クルルゥ♪」


 アクアがライトとレオニスに向かって長い首を下げ、頭を擦り寄せてくる。どうやらライトの言っていることをきちんと理解しているようだ。

 二人に頬ずりしてくるアクア、何とも可愛らしい仕草である。

 だが、その可愛らしさだけでは目を瞑ることのできない問題が一つあった。


「ライト……この水竜、卵から孵化したばかりなんだよな?」

「う、うん……ぼくがアクアの孵化に立ち会ったのは冬休み最後の日のことだから、それから一ヶ月半くらいしか経過してないけど……」

「……にしちゃ、相当デカくねぇか?」

「……う、うん……」


 そう、また少し会わないうちにアクアのサイズが大きくなっていたのだ。

 前回ライトがアクアとちゃんと会ったのは約四週間前のこと。その時はまだライトの両腕で抱えても背中に届かない程度だった。

 それが今ではそれどころの話ではない。アクアの大きさはスワンボートサイズになっていた。


 ライトとレオニスはアクア達にニッコリ、と微笑みかけてから、二人してクルッ!と180度回れ右してイード達に背を向けてから、何やらゴニョゴニョと話し始める。


「孵化した直後はどれくらいの大きさだったんだ?」

「えーと……これくらい?」

「一番最近見た大きさは?」

「ンーと……これくらい?」

「成長速度、早過ぎくね?」

「う、うん……ぼくもまさかアクアがここまで大きくなってるとは、正直思ってなかった……」


 レオニスの質問に、ライトは両手でそれぞれ大きさを示す。

 孵化したばかりと聞いていたレオニスが、今のアクアのサイズを見て驚愕するのは当然だ。だがそれはレオニスだけでなく、アクアの正体を知るライトですらも予想外のことだった。


 前回会った時にアクアのダイビングアタックでKOされたライト。あの時はまだ多少気を失う程度で済んだが、今のスワンボートサイズで同じことをされたら間違いなく死に至るだろう。

 アクア、あの時ちゃんと学んだから今日は飛び込んでこなかったんだね……アクアがお利口さんで本ッ当ーーーに良かった……

 ライトはプルプルと震えながら、アクアの学習能力の高さに密かに感謝していた。


 ライトとレオニスがこしょこしょと話し合っている間、イード達はきょとんとしながら待っている。

 イード達の『どうしたの??』という視線に気付いたライト達、ハッ!としながら慌てて三体のいる方に身体を向き直す。


「レ、レオ兄ちゃん、新しい仲間のアクアをよろしくね!」

「お、おう!こっちこそよろしくな!」

「アクアもイードやウィカと仲良くしてた? 目覚めの湖での暮らしはどう? 楽しく過ごせてる?」

「クァァァァ♪」

「そっか、良かったね!イードもウィカもいつもありがとう!」

「キシュルルル♪」

「うなぁーん♪」


 直接の言葉こそ分からないものの、アクア達の満足そうな表情から普段皆と仲良く過ごせていることが分かる。

 湖の主に水の精霊に水神、一つ屋根の下ならぬ一つ水の中で平和に暮らせるのは何より良いことだ。

 イード達の円満な仲を確認できたライトは、心から安堵した。


「そしたらね、今日も皆にお土産あるんだ!」

「イードにはいつものアレ、ウィカには帆立とツナの海藻サラダ、アクアにもイードと同じものがあるよ」

「はい、ウィカ、どうぞ。あ、せっかくだからアクアの分はレオ兄ちゃんがあげてねー」


 ライトは早速アイテムリュックから手土産類を取り出す。

 まずウィカ用の帆立とツナの海藻サラダの皿を桟橋の床板の上にそっと置き、ウィカに差し出す。

 イードとアクア用のスペシャルミートボールくんは、いつもイードに手渡し?で手ずから食べさせているので、アクアの分はレオニスに食べさせ担当してもらうことにした。

 そう、公園の鳩や水族館の鯉の餌やりじゃないが、餌のやり取りでレオニスとアクアの親睦も深めてもらおう!という訳である。


 まずレオニスにスペシャルミートボールくんを渡し、次に自分の分を出してイードに与える。

 イードはいつもお馴染みの大好物なので、迷うことなく嬉しそうにヒョイ、パクッ、とホイホイ食べていく。

 一方のアクアは、レオニスが手にしたスペシャルミートボールくんを不思議そうに眺めながら、スンスンと匂いを嗅いだりしている。


 アクアにとってそれは全く未知の食べ物なので、そうした慎重な行動になるのは致し方ない。それはレオニスにも理解できているので、アクアが納得するまでじっと待っている。

 バレーボール大のスペシャルミートボールくんを手に持ったままじっと動かないレオニスに、じーっと様子を伺い続けるアクア。両者の間に何とも微妙な空気が流れる。


 そんな風にしているうちに、イードの方はもう全部食べてしまったようだ。

 イードへの手土産渡しを終えたライトが、レオニスの横に寄ってきた。


「あ、アクアまだ食べてないの?」

「ああ。初めての食べ物だから、迷ってるみたいだ」

「そっかぁ、そうだよね。でもレオ兄ちゃんも、アクアに何か優しく声かけてあげてよ。無言で立ってるだけじゃ、アクアもどうしていいか分かんないよ」

「そ、そうか?」


 ライトに促されたレオニス、戸惑いながらもアクアに声をかける。


「あー、アクア、これはとっても美味しい食べ物でな? イードも大好物なんだ」

「クルルゥ?」

「試しに一個食べてみてくれ。もし味が気に入らなかったら、無理して食べなくてもいいから」

「クゥゥゥゥ……」


 レオニスの穏やかな語りかけに、アクアも再びゆっくりと頭を近づけてスペシャルミートボールくんをカプッ!と一口で口に入れた。

 そこからもくもく、と二回三回咀嚼したアクア。その顔が突如パァッ!と明るくなる。どうやらスペシャルミートボールくんのお味がお気に召したようだ。


 嬉しそうに食べるアクアを見たライト、早速二個目のスペシャルミートボールくんをレオニスに渡す。

 美味しいということが一度伝われば、後は簡単だ。アクアも安心してレオニスの手から二個目、三個目とどんどん食べていく。


「おおお……喜んで食べてくれてるぞ……何というか、可愛いな」

「でしょう? アクアはとってもお利口さんで可愛い子だよ!」

「本当だな、ライトの言う通りだ」


 スペシャルミートボールくんを実に美味しそうに食べるアクアを見て、レオニスもアクアの可愛らしさが実感できているようだ。

 アクアもまたレオニスの手から食べさせてもらっていることにより、レオニスへの警戒心はほぼなくなっている。

 ライトの狙い通り、両者の親睦はバッチリ深まったようだ。


 しかし、十個完食した頃には心なしかアクアがまた一回り大きくなっているような気がする。

 多分気のせいではないと思うのだが、レオニスは気づいていないようだしステータスチェックはまた後回しにする。


 アクアがあっという間に手土産を平らげたところで、そろそろライトが本題に入る。


「あのね、今日は皆に聞きたいことがあるんだ」

「この目覚めの湖に、水の女王がいるって聞いたんだけど。皆知ってる? もし知ってたら、ぼく達会いに行きたいんだ」


 ライトの問いかけに、今度はイードとウィカとアクアがライト達に背を向けてこしょこしょと話し合っている。

 先程とは立場が完全に逆転している図である。


 しばらくしてイード達の顔がライト達に向けられた。

 糸目の笑顔のウィカとアクアに、同じく触腕の先っちょを頭の上で軽く触れて大きな丸を作るイード。どうやらOKのサインのようだ。

 イード達のOKをもらえたことに、ライトとレオニスは喜ぶ。


「イード、ウィカ、アクア、ありがとう!」

「皆、助かる。ありがとう」


 イードがライトとレオニスをそれぞれ片腕で抱える形で連れていってくれるようだ。

 ウィカがライトの肩に乗る前に、靭やかな尻尾でレオニスの額にちょん、と軽く触れた。ライト同様に水の中でも呼吸や会話ができるよう、力を貸してくれたようだ。


「さぁ、皆で水の女王様のところに出発ー!」


 準備万端整ったところで、ライトが声も高らかに宣言する。

 ライトの溌剌とした掛け声を合図に、皆で目覚めの湖に潜っていった。





====================


 二人と三体の水中ピクニック。

 最初はライトをアクアの背中に乗せて水中遊泳させようかと考えていたんですが。どーーーにも何かが引っかかりまして。

 はて、一体何がイカンザキなのだ???( ̄ω ̄)

 しばらく考えて考えて考えて、ようやく辿り着いた答え。それは…(=ω=)…

『スワンボートの外側に子供が乗ったら、赤ん坊がおまるに跨っているようにしか見えん!』

でした(;ω;)

 嗚呼アクアの現状サイズをスワンボートサイズに例えたのがいけなかったのね……くッそー、バカ馬鹿作者のバカーーー><


 でも!アクアは成長早いし!スワンボートサイズなんてすーぐ超えてもっと巨大化するんだから!そしたらもうおまるなんて言わせないわッ!

 その時こそライトとアクアで『湖のトリトン』するんだからねッ・゜(うд´)・゜・

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