第370話 もうひとつのからくり
「兄上、ありました!」
「……ああ、これに間違いなさそうですね」
オラシオンとエンディが聖遺物を発見したようだ。
二人で品物を検めてから、レオニスのもとに持ってきた。
「レオニス卿、聖遺物を見つけました。腕輪ですが、先程我々が見た時とは形状が異なっています」
「こちらの腕輪からも、先日の司教杖同様とても強い聖なる気を感じます。聖光の腕輪と称しても過言ではありません」
エンディの両手に乗せられたその腕輪は眩い黄金色をしており、幅広い一本の環状でできている。表側には繊細な彫刻とともに、色とりどりの宝石が彫刻と調和するように散りばめられている。
「同じ腕輪でも、さっきまでとは随分違いますね」
「そうですね。環状ではない状態でしたし、あれが魔の状態だったのでしょう」
「……いや、こいつの魔の状態は別の形態、大鎌だ」
レオニスは先程までの亜空間での【女帝】との戦闘をオラシオン達に語って聞かせた。
この腕輪は四帝の【女帝】が操る聖遺物であること、三重の腕輪が解けて大蛇になったこと。その大蛇は血塗られた大鎌にも変化しレオニスに襲いかかってきて、魔法が一切使えず大苦戦したこと。大蛇と大鎌は瞬時に入れ替わることができること、その大蛇に身体を縛られてかなり危ない状況だったこと、などなど。
オラシオンとエンディは、レオニスの話を食い入るように聞いていた。
「何と……レオニス卿ですらかなりの危機に陥っていたとは……」
「では、この腕輪は【女帝】が操っていて、大鎌が真の魔の状態ということですね。命を刈り取る大鎌とは、まさしく魔の状態に相応しい形態です」
「とはいえ、大鎌の状態で教会堂の中に持ち込むことは難しいでしょう。魔剣くらいまでならともかく、さすがに大鎌という形はあまりにも物騒すぎて飾ることも憚られますし」
「ですね。その点腕輪なら、司祭が身につけることで自然に持ち込めます。おそらくは聖光の腕輪に何らかの方法で瘴気などの負の力を侵蝕させて、形状を歪めることで魔の状態に近づけていたのでしょう」
レオニスの話を聞いたオラシオンとエンディが、腕輪の形状に対する推測を交わす。
正解を知る悪魔や四帝はここにはいないので答え合わせをすることはできないが、状況からして彼らの推測はほぼ正解だろう。
「しかし、一切の魔法が使えない空間とは……かなり厄介で危険な場所ですね」
「ああ、回復魔法も回復アイテムも一切使えなくなったからな」
「レオニス卿ほどの御仁がそこまで追い込まれたのも納得ですね。よくぞ無事に戻ってきてくださいました」
「そうだな……これも全てカイ姉のおかげだ」
「……それは……」
レオニスが己の手のひらに乗せた八咫烏の羽根のブローチを見つめながら、しみじみと呟く。
聖具室に突入する前に、そのアクセサリーを破邪対策としてジャケットの襟に着けたところをオラシオンとエンディも目撃している。
先程までは普通に綺麗だったブローチが、今はあちこち砕けて八咫烏の羽根もボロボロになり、何とも無惨な姿になっている。
ほんの十数分の間にこうも変わり果てたブローチの有り様に、オラシオン達も驚きを隠せない。
それを見たエンディが、床に落ちていたいくつかの黒水晶の破片を拾い集めてレオニスにそっと手渡す。
「これらの黒水晶が、レオニス卿の御身をお守りくださったのですね」
「ああ。ラグナロッツァに戻ったら、このブローチを作ってくれたカイ姉に真っ先にお礼を言いに行かなきゃならん」
エンディから黒水晶の欠片を受け取ったレオニスは、一頻りそれらを眺めから八咫烏のブローチとともに大事そうに空間魔法陣の中に仕舞い込んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて、今回も何とか聖遺物の腕輪を回収できたが……これも司教杖と同じく俺が持っていてもいいのか?」
レオニスが腕輪の所有者について、オラシオンとエンディに確認を取る。
亜空間での【女帝】との戦闘でぐったりと疲れきったレオニスも、エンディの上級回復魔法とアークエーテルがぶ飲みにより少し元気を取り戻したようだ。
「そうですね。腕輪も光の状態に戻せていますし、レオニス卿が持っていても問題ないでしょう」
「ええ……それにこの腕輪もおそらくは司教杖同様、廃都の魔城の四帝のもとに行く通行手形となるでしょうし」
「……なぁ。そのことで一つ、疑問があるんだが」
「何でしょう?」
ここでレオニスが何やら疑問があると言い出した。
レオニスからの突然の問題提起に、オラシオンとエンディが不思議そうな顔をする。
「俺は八年前にも、廃都の魔城に乗り込んで壊滅させたことがある。もちろんその時にも四帝と対決し、間違いなく俺の手でその全てを倒した」
「だが、その時には通行手形なんてもんはなかったぞ?」
「そりゃまぁ魔城は迷路のような作りで、最奥の深部に辿り着くまでにはかなりの手間はかかったが。四帝のいる場所に行くために特にこれが要る、という必須アイテムはなかった」
「奴等の言う『通行手形』ってのは、一体何なんだ?」
確かにレオニスは、八年前の廃都の魔城の反乱時にグランの仇を討つべく単身で乗り込み、四帝全てをその手で討ち果たしている。
その際レオニスは、通行手形などというものは何一つ持っていなかったし、手ぶらの状態で四帝のもとに辿り着けたのだ。
なのに、今になって通行手形とは、一体どういうことだろう?というレオニスの疑問はもっともなものだった。
レオニスが呈した疑問に、オラシオンもエンディも考え込む。
しばしの沈黙の後、オラシオンがその口を開いたを
「ふむ……確かに廃都の魔城に入るのに、通行手形が要るなどという話は今まで聞いたことがありません。ですが……」
「こうは考えられませんか?八年前のレオニス卿はもとより、今まで倒してきた廃都の魔城の四帝は全て偽物―――いや、偽物というより替え玉と言うべきか」
「……替え玉?」
オラシオンの言葉に、レオニスが不思議そうな顔で問い返す。
「そう、替え玉。今まで倒してきた四帝は全て替え玉で、本物の四帝はどこか別の場所にいる。四帝の本体がいる本当の場所に行くには、聖遺物が必要である―――そういうことではないでしょうか?」
「…………なるほど。それなら奴等を何度倒そうが、何食わぬ顔で復活してきたことの説明もつくな」
「ええ。これまで人類が幾度廃都の魔城を討ち滅ぼしてきたことか……それでも奴等は、時を置かずしてサイサクス大陸に恐怖を齎す存在として必ず蘇ってきた。廃都の魔城で通常行ける場所には替え玉が置いてあって、本体は別の安全な場所にいるからこそできる芸当なのだ、と考えれば納得がいきます」
レオニスが八年前に倒した廃都の魔城の四帝は、実は替え玉だった―――それはかなり衝撃的な話だ。
しかもこれはまだオラシオンの推察に過ぎず、それを裏付ける証拠は今のところまだ一つもない。だが、レオニスには納得できるところもかなりあった。
まず、亜空間で戦った【女帝】の強さが半端ではなかった。
レオニスは攻撃魔法やアイテムを一切使えないという壮絶に不利な状況ではあったが、それを差し引いても八年前の比ではない。
その尋常ではない強さこそが本来の【女帝】の力であり、表に置かれている替え玉はかなり力の劣る劣化版なのだ、と考えれば腑に落ちる。
そして、通行手形がなければ辿り着けない別の場所に四帝がいる、というのも何気に理に適っている。
仇敵である人類には、表の替え玉を相手にさせておいておけばいい。そうすれば、人類はいつまでも表をうろちょろしては替え玉を倒して四帝を殲滅したー!と喜んで帰っていくのだ。
そして四帝は、ほとぼりが冷めた頃に表の替え玉を何食わぬ顔で復活させる。完全な自作自演もいいところである。
そうやって四帝はこれまでずっと、自身達に一切危害の及ばない安全な場所にいて高みの見物と洒落込んで人類の奮闘を嘲笑っていたのだ。そう思うと、何とも腸の煮えくり返る思いである。
「そしたら、今まで俺達人類が戦ってきた廃都の魔城は上っ面の替え玉で、本当の四帝は別のところにいて―――そこに行くための通行手形として聖遺物が必要、ってことなんだな」
「通行手形という存在があることを考えると、それが自然な流れで妥当でしょう」
「ならば、何としても残りの二つも手に入れなければな」
思わぬところで廃都の魔城の四帝が仕掛けたからくりの一端を知ることとなったレオニス達。
四帝の本体は別のところにいる―――これは、かつてフェネセンが暴いた『四帝は世界中のあらゆるところに穢れを埋め込んで魔力を搾取している』というからくりにも匹敵する重要事項だ。
人類とて、いつまでも四帝の手のひらの上で滑稽に踊らされてばかりではいない。四帝が長年用いていたからくりも、次々と暴かれつつある。
グランの仇というだけでなく、サイサクス世界に生きる全ての仇敵である廃都の魔城の四帝。
その仇敵の真の居場所に辿り着くためのキーアイテム、二つ目の聖遺物を入手したレオニスは仇敵の討滅への思いを新たにしていた。
====================
レオニス、二つ目の聖遺物ゲットだぜ!です。
RPGゲームなどでも、ラスボスのところまで行くために必要なフラグアイテムって必ずありましたよね!
作者はもう近年その手のゲームをしなくなって久しいですが、昔はドラクエやFF、FE、メガテンなどプレイしてました。あー、こんなこと書いてるとまた遊んでみたいなー、とチロッとだけ思ったりもします。
ですが( ̄ω ̄) 思うだけで実際に着手する気力がないという_| ̄|●
つか、そもそも私3D系のゲームって苦手なんですよ。理由は単純、3D酔いするから><
昔甥っ子とマリオカートしてて頭痛くなりまして。そこで己の3D酔い体質を知って以来、その手の映像は極力避けてるんですよねぇ。
でもって、近年のゲームって美麗グラフィックを謳った3Dアクション系が多いじゃないですか。作者は多分もうこの先一生、一般的なゲームはできないんだろうな…(;ω;)…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます