第239話 里帰りの計画

「レオ兄ちゃん、神殿や悪魔の件はどう?何か新しい手がかりとかあった?」

「んー、それがまださっぱりでなぁ。まぁ神殿の調査も一日二日で終わるようなもんじゃないしな、もうちょい時間かかるだろうな」

「そうだよねぇ。ラグナ教って他の国にも支部あるんでしょ?全部を隅から隅まで調べるのって、ものすごく時間かかりそうだね」

「だな。しかし、あまりのんびりして証拠を隠す時間を敵側に与える訳にもいかんしな。年内に片付けられるといいんだがな……こればかりはどうなるか、俺にもさっぱり見当がつかん」


 カタポレンの家で晩御飯を食べながら、先日の悪魔の件についてあれこれと話すライトとレオニス。

 普通ならば、小さな子供相手にこんな重大な話は聞かせたりしないのだが。ライトは思いっきり当事者なので、レオニスも遠慮なく話している。


「あ。年内と言えば、ぼく冬休みの間にマキシ君といっしょに八咫烏の里に行きたいんだけど。行ってもいいよね?」

「ん?八咫烏の里に、か?そういやマキシが故郷に帰る時にいっしょに行こうと誘われた、とか何とか言ってたな」

「そうそう、それそれ。でさ、ぼく八咫烏の里がどこにあるのか全く知らないんだけどさ。レオ兄ちゃんは分かるよね?後で教えてくれる?」

「おう、いいぞ。飯食った後に教えてやる」


 晩御飯を食べ終えた後、二人はレオニスの書斎に向かう。

 レオニスはライトにも見えやすくなるように書斎にあった地図を机の上に広げ、いろんな場所を指で指し示しながら教えていく。


「ここが今俺達がいるカタポレンの家、これが目覚めの湖、ここら辺がディーノ村。あ、方向全然違うけどラグナロッツァはここな」

「で、ここら辺に八咫烏の里がある」


 レオニスが地図上の八咫烏の里のある場所を指差した。

 それを見ると、カタポレンの家やディーノ村からはかなり遠い位置にあることが分かる。


「かなり遠いところにあるんだね。マキシ君、よくラグナロッツァまで辿り着けたね……」

「本当にな、カラスの干物にならずに良かったとしか思えんよなぁ」


 ラグナロッツァ北西部に広がるノーヴェ砂漠。マキシが立ち寄ったであろうディーノ村からラグナロッツァに行くには、その広大な灼熱砂漠を通り抜けねばならない。

 マキシの場合、ノーヴェ砂漠で行き倒れになりかけていたところを親切な商隊に拾われて、なんとか命拾いしつつラグナロッツァに辿り着けたらしい。


 どこぞの某全身淡紫色のお姉さんにラウルのヒントをもらったり、ノーヴェ砂漠で商隊に助けられたり、屋敷の前でライトに発見されて命だけでなく長年抱え込んでいた穢れまで祓ってもらったり。

 生まれた直後に穢れを埋め込まれ、百年以上も魔力を搾取されていたのは不幸中の不幸としか言いようがないが、それ以外の部分ではかなり幸運に恵まれ数多くの助力に救われているマキシ。

 幸運の御守素材として、八咫烏の羽根が書籍に取り上げられるのも当然である。


「ラウルがぼく達の護衛としていっしょについてきてくれるって言ってたんだけど、いいかな?」

「ん?ラウルが護衛に名乗り出たのか?軟弱者と言って憚らないラウルにしちゃ珍しいこともあるもんだな」

「うん、きっとラウルはマキシ君のことが心配なんだよ。だってラウルはマキシ君の大親友なんだもん」

「んー……まぁそういうことにしといてやるか」

「???」


 ライトは全く分かっていないようだが、レオニスには分かっていた。

 ラウルが心配なのは、マキシのことだけではない。ライトのことも心配しているのだ。


 かつてラウルの大親友と呼べるのは、マキシだけだった。だが、今は違う。ラウルにとってはライトも既に大親友なのだ。

 そんな大親友二人がカタポレンの森を旅するなど、心配で心配でしょうがないに違いない。だからこそ、今回だけは軟弱者の看板を下ろして護衛を名乗り出たのだ。


「しかし、ここから八咫烏の里までどうやって行こう?普通に歩いて行ったら、何日もかかっちゃうよね?」

「そうだな、のんびり歩いてたら八咫烏の里に着く頃には冬休み終わってるだろうな」

「ええええ、そんなに遠いのー?どうしようー……」


 確かに地図を見る限りでは、かなりの距離がありそうだ。

 だが、今回行くのは八咫烏の里なので、転移門には頼れない。八咫烏の里は森の奥深いところにあり、氷の洞窟のツェリザークの時のように近隣の街経由で行くことは不可なのだ。


「んー……そしたら翼竜便でも使うか?」

「翼竜便?何それ?」


 レオニスの話によると、移動には転移門を除いて主に三種類の手段があるという。

 最も普及していて利用率が高いのは馬車。都市と都市を結ぶ定期便が出ていたり、商隊なども幌馬車に商品を入れて売り歩いたりする。

 馬車を使わずに乗車賃を節約したいなら徒歩。ただし、お金こそかからないが日数はかかるし途中魔物や盗賊に襲われる危険性があることは否めない。

 そして、最後のひとつが翼竜を使った翼竜便である。


 翼竜便はその名の通り翼竜を使った籠便で、乗車賃もかなり高い。だが、馬車で行けないような場所に行くなら翼竜便一択だ。もとよりカタポレンの森の中に出入りする馬車など、あるはずもない。

 それに、移動時間も馬車より短縮できる、滅多にできない空の旅を満喫できる、などの利点もある。


「へー、そんなのあるんだー。ぼく、いつも転移門で移動してるから全然知らなかった」

「その方がおかしいっちゃおかしいことなんだがな……とりあえず翼竜便にするか?大きい籠の便にしとけば、余裕で三人乗れるはずだし」

「そうだねー。翼竜便使うにはどうしたらいいの?どこか決まった場所にいるの?」

「ラグナロッツァに事務所があるはずだから、そこで日時指定して予約すればいい。確か冒険者ギルド総本部の近くにあるぞ」

「分かったー、そしたら明日学園終わったらギルドに寄ってクレナさんに聞いてみるねー」

「おう、気をつけて行ってこいよ」


 レオニスからの新情報により、内心興奮するライト。

 翼竜便、つまりはワイバーンが運ぶ籠ってことだよね!ワイバーン!ドラゴン!ファンタジー世界の定番じゃーん!

 これはもう翼竜便使用一択でしょう!ワイバーン見れるの、楽しみー!

 と、そこでふと我に返るライト。


「ねぇ、レオ兄ちゃん。行きは翼竜便でいいとして、返りはどうしよう?八咫烏の里から翼竜便の定期便なんて出てる訳ないよね?」


 そう、行きは良い良い帰りは怖い、では困るのだ。

 ライトの問いに、レオニスは何事もなく答える。


「そしたら帰りはウィカチャを呼んで、目覚めの湖まで瞬間移動で帰ってくればいい。八咫烏の里の近くには巌流滝がある、大量の水あるところならどこからでもウィカチャ呼べるだろ」

「えっ、巌流滝が近くにあるの!?」

「ああ、さすがにウィカチャもまだ一度も行ったことのない場所には行けんだろうが、ライトが呼び寄せる分には問題ないだろう。でもって、一度行き来すれば次からはそこを指定して移動してもらうことも可能になるはずだ」


 ここへきて更にレオニスから耳寄り情報がもたらされる。

 何と八咫烏の里の近くに巌流滝があるというではないか!

 しかもこの巌流滝、実はその水がクエストイベントのお題『闘水』の作成レシピの必要素材として指定されている。

 マキシの里帰りついでにクエストイベントの素材収集までできてしまうとは、まさに一石二鳥である。


「てことは、一回その巌流滝に行けば、後はいつでも八咫烏の里に簡単に行き来できるようになるね」

「そういうことだな」

「良かった!そしたらもしマキシ君が八咫烏の里に帰っちゃっても、いつでもぼく達から会いに行けるんだね!」

「ああ、ウィカチャに協力してもらえば可能だな」

「そしたら今度ウィカチャにも何かお礼を用意しなくちゃ!」


 自分のクエストイベントのことだけでなく、マキシの里帰り後の行き来も容易になることに大喜びするライト。

 ……ま、マキシのあの様子じゃ一時的な里帰りはしてもそのまま八咫烏の里に戻ることなんて、まず絶対になさそうだがな。

 レオニスはライトの喜ぶ様子を見ながら、内心でそんなことを考えていた。





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 前話でも書きましたが、もうすぐラグーン学園が冬休みに入るので第158話で約束したマキシの里帰りをようやく果たせる時期になったのです。

 しかし、ライト的にはまんま観光旅行ですがマキシにとっては何かと複雑な心境でしょう。突然里を飛び出してから、三ヶ月以上経過してますからねぇ。家出息子が家に帰るのは、なかなかに敷居が高いでしょう。

 ですが、ここを乗り越えなければマキシの未来も切り拓くことはできないのです。頑張れマキシ!!

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