第227話 新たなコンテンツ
その後もライトはナヌスおよびオーガへの支援を経て、順調にクエストをこなしていった。
日曜日には予定通りに回復剤類を双方の里に分配し、オーガの里の結界設置に向けて準備は着々と進んでいく。
クエスト4ページ目を完了し、次に出てきた5ページ目のクエストは以下の内容だった。
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★小人族の危機に備えよ act.2 【闘水】を作ろう!★
〔闘水 原材料〕
【21.赤棘花の蔓10個 報酬:スキル書【遠心分離】 進捗度:0/10】
【22.濃縮エクスポーション1個 報酬:イノセントポーションレシピ 進捗度:0/10】
【23.巌流滝の清水10個 報酬:エネルギードリンク1ダース 進捗度:0/10】
【24.濃縮アークエーテル1個 報酬:セラフィックエーテルレシピ 進捗度:0/10】
【25.茶色のぬるぬる1個 報酬:魔法のスポイト 進捗度:0/100】
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「おお、とうとう回復剤以外の素材採取系に突入したかぁ」
「何ナニ、『【闘水】を作ろう!』とな……闘水、こりゃまた懐かしいもんが出てきたな」
「……つーか、闘水って作れるんだ?」
「しかも、イノセントポーションにセラフィックエーテルのレシピ、だとぅ?」
「回復剤のレシピなんて、初めて見たな……へぇ、こんなもんあったんか……」
クエスト報酬内容に予想外のものを見つけたライトは、興味津々な顔つきでウィンドウを眺めていた。
あー、そういや何かかなり前に『新たなコンテンツとして、生産職を実装する予定です!』とかお知らせで予告してたっけなぁ……その実装を見届ける前にこっちに飛ばされちゃったけど……
ライトは朧気ながらも微かに残る前世の記憶を、懸命に手繰り寄せる。
もともと『ブレイブクライムオンライン』というゲームはRPG要素が強く、討伐やモンスター狩りなどの冒険要素は満載だったがクラフト系要素はほぼないと断言してもいいくらいに薄かった。強いて言うなら、鍛冶屋で武器防具を強化して育てていくくらいか。
それとてクラフト系というよりも、破壊神イグニスの腕次第というギャンブル要素の方がよほど強かったという笑えない話である。
クエストの報酬内容を見る限り、おそらくは実装予定だった生産職用の新要素なのだろう。
しかもイノセントポーションにセラフィックエーテルといえば、まだショップで販売していない討伐報酬限定品だった。その効果はエクスポーションやアークエーテルの2倍という、なかなかに優秀な回復力を誇る。
なので、もしこれらがアイテム作成できるのであればライトとしても嬉しいところだ。もっとも素材採取の手間は都度かかることになるが。
ちなみにお題の主題となっている『闘水』とは、物理攻撃力を一時的に上げるドーピング剤のようなものだ。一度服用すると、30分の間物理攻撃力が10%増加する。
これらの増強剤は、物理攻撃力の闘水以外にも各種存在する。また10%増加は増強剤の中では最下位ランクであり、その上に25%増加、50%増加といった上級品が複数存在する。
それらの品々も、この世界にいればいずれどこかで登場するのだろう。
何にせよまだ見ぬ未知のクエスト、そして新たな要素生産職への道が開けたことに、ライトのゲーマー魂はかつてない程に燃え盛っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日の月曜日。
ライトはいつものようにラグーン学園で過ごしていると、昼休みの図書室にオラシオンがライトのもとを訪ねてきた。
「ライト君、今日も熱心に本を読んでいますね」
「あっ、理事長先生。こんにちは」
ライトはそれまで読んでいた本を閉じて、オラシオンに挨拶をした。
オラシオンは静かにライトの隣の席に座ると、周囲に聞こえにくい程度の小さな声で話しかけ始めた。
「ライト君、忘れているかもしれませんけど、今度の土曜日は神殿との話し合いがありますよ。覚えてますか?」
「……あー、そういやそんな話もありましたっけ……」
オラシオンに問われて、ライトはようやくそのことを思い出した。というか、ここ最近クエストイベントやオーガの里関連で多忙過ぎてすっかり忘れていた。
「今度の土曜日の午前10時に、ラグーン学園の理事長室に来てくださいね。もちろんレオニス卿の同席も可ですよ」
「はい、レオ兄ちゃんにも改めて伝えておきます」
「お願いしますね。そして……」
オラシオンが数瞬の沈黙の後、深いため息をつきながら口を開いた。
「神殿相手にくれぐれもキレたり暴れたりしないよう、ライト君からもよーく言っておいてくださいね」
「はい……」
「レオニス卿の神殿嫌いは本当に、本ッ当ーーーに昔っからの筋金入りですからね……」
「はいぃ……」
オラシオンの懇願ぶりに、聞いている方のライトも縮こまってしまう。
オラシオンも元は有能な冒険者でレオニスの同業者だっただけに、そこら辺のことはライト以上に承知しているようだ。
オラシオンの一連の様子を目の当たりにしたライト、今日帰宅したら早速レオニスに日時の伝達とともによくよく注意しておこう……と決意した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして数日があっという間に過ぎ、神殿との話し合いが行われる土曜日がやってきた。
普段通りに朝起きて、のんびりと朝食を摂るライトとレオニス。
ライトはおそるおそるレオニスに問うた。
「レオ兄ちゃん……今日の予定、覚えてる?」
「ああ、もちろん覚えているぞ。午前中にラグーン学園に行って神殿の奴等と話し合いをするんだろ?」
「うん。どんな話をしたいのか、結局さっぱり分かんなかったけどね……」
「けっ、どうせろくな話じゃねぇんだろ」
レオニスがあからさまに不機嫌な様子で、吐き捨てるように言う。
「そこら辺はまぁ聞いてみないと分かんないけど。レオ兄ちゃん、とにかくおとなしくしててね?絶対に暴れたりしないでね?」
「分かってるって。そう何度も言わんでいい。お前こないだからずっとそればっかりじゃねぇか」
レオニスが不貞腐れたように、口を尖らせながら言う。
その様子に、ライトもカチンときて遠慮なく言い返す。
「そんなのレオ兄ちゃんが悪いんでしょ。前に神殿を更地にしてやるって言ったのはどこの誰?」
「うぐっ……そ、それは……」
「レオ兄ちゃんの場合ね、たとえ冗談のつもりでもそれが本当にできちゃう人だから困るの。洒落になんないんだからね?」
「ぐぬぬ……」
ライトに思いっきり図星を指されたレオニス、ぐうの音も出ない。
「それに、レオ兄ちゃんの場合ちょっとイライラしただけでも普通の人は気圧されて喋れなくなっちゃうんだからね?」
「はい……」
「まぁ神殿でもすごーく偉い人が来るようだから?レオ兄ちゃんの威圧にも堪えられるだろうけどさ」
「はいぃ……」
「それでも、相手の人のためにも威圧はしないに越したことはないんだからね?お願いだから、今日だけは怒らないでね?」
「はいぃぃ……」
レオニスのぐうの音封印を機に、いつもの二人に戻っていく。
うっかり天然気味のレオニスを、しっかり者のライトが諭し導く。これが二人のいつもの日常なのだ。
「さ、んじゃぼちぼち出かける支度するか」
「ん?もう行くの?早過ぎない?」
壁掛け時計の時刻を見ると、ちょうど9時を少し過ぎた頃。転移門を使えば15分程度で行けるラグーン学園に向かうにしては、かなり早い時間だ。
まだ時間的にも相当余裕があるというのに、レオニスがもう出かける支度をすると言ったのを不思議に思ったライトが聞き返した。
「そうか?お前もあっちの屋敷で制服に着替えるだろ?だったら俺も今から制服に着替えとかないと、時間足りんだろ?」
「ん?今日は別に休みの日で授業ないし、制服に着替えて行く必要なんてないから普通の私服でいくよ?」
そこまで言ってから何かに気づき、はたと動きが止まるライト。
「……っていうか。レオ兄ちゃんの言う制服って、まさかあのロングジャケットのこと?あれを着る気?」
「そりゃもちろん。俺の制服にして正装っちゃあれに決まってんだろ?」
「…………」
「ん?ライト、どうした?」
さも当然の如く、何の疑問も持たずに言い放つレオニス。
一方ライトは俯きながらプルプルと震えている。そして耐えかねたかのように、ライト渾身の特大の雷がカタポレンの家に迸り落ちた。
「ンなもんダメに決まってるでしょッ!!」
「そんなゴリッゴリの完全重装備で何しに行くのさッ!!」
「だいたい正装ってんなら、ぼくの入学初日に着たアイギス製のカッコいいスーツがあるでしょうがッ!!」
「ていうか、緊急時以外はあのスーツ以外でラグーン学園入るの禁止だからねッ!」
「もしそれでも、どーーーしても深紅の装備を着るってんなら……」
プルプルと打ち震えるライトから、今にも
「今日はぼく一人で行く!!レオ兄ちゃんは置いてくよ!このおうちで一日ずっと、ぼくが帰ってくるまでお留守番だからねッ!」
「……分かったッ!?」
ライトの剣幕のあまりの凄まじさに、レオニスは人差し指で耳を塞ぎながら直立不動の姿勢で固まる。
レオニスからの返事がないことに業を煮やしたライト、今度は地の底から絞り出すような低い声で静かに問う。
「……レオ兄ちゃん、分かったの?分かったらお返事は?」
「はいぃぃぃ……」
こうしてレオニスは、人生二度目のアイギス製スーツを着用することになった。
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冒険者モードの正装である、真紅のジャケット&大剣装備でラグーン学園に行こうとするレオニス。
それってつまりは戦車やブルドーザー、装甲列車なんかで学校に乗り込もうとしているようなもんですね。あるいはウェディングドレスや宝塚ばりの豪華絢爛なド派手衣装で授業参観に行く、みたいな。
そりゃライトも特大の雷を落とすというものです。
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