第193話 新たなイベント
結局神殿との話し合いは、一ヶ月後の土曜日となった。あの後オラシオンの伝手により、改めてそうなったのだという。
またかなり先の日程になるが、No.3の大主教よりもさらに上の人に働きかけたというのだからその人の都合もあるし、かなり多忙な人なのだろう。そもそもNo.3より上といったら、もうNo.2かNo.1しかいないのだし。
そんな上も上の、まさしく雲の上のような存在のお偉いさんがすぐに予定を空けられるはずもない。
そんな訳で、思わぬ猶予?を手に入れたライトは、さて次は何をしよう?と考えていた。
『アイギスに届けるミサンガ編みや、習熟度上げのSP消化修行は当然毎日続けるとして……他に何かすること、今できることはないかなぁ』
『……イベント欄を見返してみるか……』
先日のオートモードで散々働かせてしまったフォルを膝に置いて、さわさわと優しく撫でながらライトは膨大な量のイベント欄を下から上へスクロールさせつつ見ていく。
『???』で伏せられた未解放のものも多いが、イベントタイトルが読めるものは今のライトでも発動可能である。
『うーん……今の俺でもできそうなものといえば、やっぱり【湖の畔に住む小人達の願いを叶えよ】くらいか……』
『湖の畔の湖ってのは目覚めの湖のことだから、孵化させたばかりのウィカの様子も見に行けてある意味一石二鳥だしな』
『……これにするか』
ライトは意を決して、イベントボタンを押した。
その瞬間に、イベント詳細が書かれた別ウィンドウが出てきた。
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【湖の畔に住む小人達、彼らの願いを叶えてあげよう!】
【目覚めの湖の畔に住む小人達、彼らには様々な悩みや願いがあります】
【彼らの悩みを解決したり、願いを叶えることで報酬が貰えます】
【また、願いを叶えて報酬を貰う度に彼らとの親密度が高まります】
【小人達との親密度が高まれば高まるほど、依頼の難易度は増します】
【そして依頼の難易度が高ければ高いほど、報酬も豪華な物になります】
【小人達と仲良くなって、様々な激レア報酬を大量ゲットしよう!】
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そこに書かれていたイベントの詳細内容は、ライトの知識通りだった。
湖の畔に住む小人達の様々な願いを叶えて報酬を貰う、という読んで字の如しである。
その内容は身近なもので済ませられる本当に些細なものからかなり手を焼く厄介なレベルまで多岐に渡り、幅広い難易度の多種多様なお題をこなしていくクエスト形式イベントだ。
だが、数あるクエスト形式イベントの中でもこの【湖の畔に住む小人達の願いを叶えよ】だけは少々特殊で、クエストクリアに必要な条件は全てアイテム収集や素材採取の類いが設定されている。
これはこのイベントが新規登録したばかりの、正真正銘の初心者ユーザー向けに作られたものだからである。
まだ装備やアイテムの手持ちが少ない初心者は、強力な魔物の討伐や任務などをこなしていくのは難しい。そういった新規ユーザー達にもイベントを進められるように、魔物討伐等に比べたら格段に難易度の低い素材採取を中心にクエスト構成されている。
そしてこのイベントをクリアしていくことで、その報酬に大量の資金や装備品などを得てステップアップしていけるように作られた、いわば『新人育成イベント』なのだ。
お題の内容は『ポーションを○個集めよ』といった形式で出される。
そしてお題の数も多く、ライトの記憶では全部で50個はあったはずだ。
例えば【ポーションを○個集めよ】というお題でも、最初のうちは1個、その次は10個、そのまた次は100個、といったように主に数が増える方に変動して繰り返し出てくる。そしてその求められる品物も簡単なものからだんだんと稀少性の高いものに移行していくことで、難易度をじわじわと上げてくる。
こうした様々な手段を用いることにより、クエストの総数やらボリュームを増し増ししながら初心者達を鍛える訓練としているのだ。
ちなみにこのイベントだけは、そのボリュームの多さから例外的に他のイベントと並行して行えることになっている。だが、その反面期間に限りがあって新規登録後100日を過ぎるとイベントが終了する。
ライトがイベント欄を発見した時に『湖の小人はかなり時間かかるやつだから後回しにして』と考えた理由は、まさにここにあった。
実質100日という日数制限があるため、この世界でもその制限が適用されることを想定して開始する時期を慎重に選びたかったのだ。
幸いにして当分は平和な日々が続きそうな今なら、このイベントも恙無く早期に完了できるかもしれない。というか、他のイベントを同時進行でこなすような余力もゴリ押しする実力も全くない今こそが、このイベントだけに専念できる最も絶好の機会である。
そして先程クエストの開始ボタンを押したが、まだお題の内容はどこをクリックしても出てこない。おそらくは、湖畔に住む小人達と実際に会って話を聞くことで発動するのだろう。
実際に目覚めの湖の畔にいるはずの小人達の集落は次の土曜日に探しに行くとして、それまでの平日の間はクエストで要求されるであろう素材やアイテム類を予め先に貯めておくことに専念しよう!と決めたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『よしよし、アイテム類はそこそこ貯まってきたな』
目覚めの湖の畔の探索を翌日に控えた、週末の金曜日。
自室にてマイページのアイテム欄を開きながら、その成果を眺め独りごちるライト。
ライトのマイページのアイテム欄は、ここ一週間弱の間にかなりの種類が追加されてなかなかに充実してきた。もっとも、その半分くらいは使い魔フォルのお持ち帰りの珍品類なのだが。
ポーションやエーテル等の低級回復剤なら、わざわざ購入せずともカタポレンの家の倉庫に唸るほど眠っているので実質使い放題だ。
ハイポーションやハイエーテル等の中級回復剤も同様で、レオニスの許可がなくともいつでも倉庫から取り出して自由に使える。
エクスポーションやアークエーテル等の高級回復剤になるとさすがに無断使用する訳にもいかないが、そこら辺はフォルがお使いで結構な確率で拾ってきてくれる。この世界では高級回復剤とされるそれらの品々は、かつてのゲーム内では『いつでもどこでも拾える雑魚アイテム』に過ぎなかったのである。
また、回復剤の他にも口に含んでいる間から舐め終わって約1時間は解毒作用を発揮する『アンチドートキャンディ』や、麻痺に同様の効果がある『パラリシスパイシードリンク』などを作るために必要な特定の素材を求められることもある。
ここら辺は植物系の素材も多いので、以前レオニスがスレイド書肆でライトのために買ってくれた書籍【全世界植物大全/最新版】が大いに役立ってくれそうだ。
だが、お題のクリアに必要な数量など細かいことまでは覚えておらず、完全には思い出せなかったのでとりあえず素材系のお題で間違いなく出てくるはずの『毒茨の球根』や『暗黒花の花粉』が採れそうな場所を朝の森林ジョギング中に注意深く観察しながら見つけておいて、後でいつでも採取しに行けるようにメモに書き留めて記録しておく。
事前に用意できるのは、これくらいか。
明日向かう目覚めの湖の畔に行くために、できる準備は万全に整えた。
ライトは遠足の前日のような気分で、ワクワクしながら眠りについた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日の朝。ライトはいつも以上に早く起きて、出かける支度をしていた。
そんなライトを、レオニスは少し不思議そうに眺めている。
「何だライト、今日はいつにも増して早起きだな」
「うん、今日はフォルといっしょにイードのところに行こうと思って」
「イードに新しい友達として紹介するのか?」
「うん!!」
実に嬉しそうに、レオニスの問いを肯定するライト。
そんなライトを見て、レオニスも和んだのか優しい笑みを浮かべる。
「そうか、まぁイードも友達が増えれば喜ぶだろ」
「本当はイードも湖の外に出られればいいんだけどねー」
「さすがに水棲の魔物にそれを求めるのは厳しいだろうなぁ」
「だよねー。だから、ぼくの方からフォルを連れていって友達になってもらえたらいいなって思ったの」
「そうだな。俺は今日はちょいと野暮用があって出かけるからいっしょには行けんが、気をつけて行ってこいよ。でもって、イードによろしく言っておいてくれな」
「うん、分かった!」
いつものレオニスなら、俺ももついて行く!と言いそうな場面だが、何やら出かける用事があるらしい。二匹目の使い魔ウィカの様子見や、イベントのために小人達の集落探しをしたいライトにとっては好都合だ。
朝食を食べ終えたライトは、森の中を走るための軽装に着替える。
「いってきまーす!」
「おう、気をつけてなー」
大きな声で、元気いっぱいの挨拶とともに家を飛び出していくライト。
持ち出し自由のポーション類やエーテル類だけでなくおやつや飲み物、雨合羽や敷物等々ありとあらゆる遠足用グッズ?をぎっしりと詰め込んだアイテムリュックを背負って、ライトは目覚めの湖に向かっていった。
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ライトもラグーン学園での勉強やアイギスでのバイト等々、日々やらねばならぬことはそこそこあるのですが、やはりゲームイベントもガンガンこなしていきたいのです。
それはひとえにゲーマーの性もありますが、職業スキルや使い魔等々得られるものや嬉しい出会いといったものも数多くあるからです。
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