第122話 己の成すべきこと
旅立つフェネセンのために、皆がいろいろと準備している間にライトは学園の図書室に足繁く通い詰めていた。
まだ財も力もない自分が、フェネセンのためにしてあげられることは何かないか。それを見つけるために、図書室の本を読み漁っていたのだ。
とはいえ、そう簡単に見つかるものでもない。
何しろライトはまだ8歳の子供だ。自由に使えるお金もないし、それどころかまだジョブ獲得にも至らない、本当に非力な存在でしかない。
ライトは、そんな自分の非力さが歯痒くて仕方がなかった。
昼休みや放課後に図書室に通い詰め始めてから、五日目の昼休みのことだった。
ライトは本棚にある、とある本の背表紙にふと目が留まった。そこに書かれていたタイトルは『子どもでもできる!つくれる!5さいからはじめるおまじないとまどうぐ』である。
タイトルこそ何ともアレで微妙感が漂うが、ライトは考えた。
『へぇ……この世界にも、おまじないとかあるんだー……』
『おまじないはともかく、魔導具はいいかも』
『魔導具なんてそんな大層なもんは作れんが、御守みたいなものくらいなら作れる、かな?』
『そりゃアイギス三姉妹やフェネぴょんみたいな、その道のプロが作る逸品のような訳にはいかんが……こういうのは、気持ちの問題だからな!』
『御守作りとか、何か参考になるようなことが書いてあるかもしれない……よし、読んでみるとするか』
ライトはその本を手に取り、カウンターにて借り出しの許可を受けた。
図書室の本を学園外に持ち出すのは禁止なので、家に持ち帰ってゆっくり読むことはできないが、昼休みや放課後に教室内で読むことはできる。
ライトがラグーン学園に入学してから初めて借りた本を、大事そうに抱えて教室に戻っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その日の授業が終わって放課後になり、ライトは早速図書室から借りてきた本を読み始める。
内容をざっと見たところ、タイトル通り子供向けのものが大半を占めていた。
例えば『抜けた歯を畑に埋めると、作物に虫がつかない』とか『かみの毛をひとふさ切り取って夜おそくにもやし、その灰をねんどにまぜて人形をつくると、その人形が病気の身代わりになってくれる』などの、前世の日本でもありそうなおまじないの類い。
他にも呪文のようや文言や、呪符のような簡易的な魔法陣様の図柄もいくつか掲載されている。
といっても、その効果は『好きな人にふりむいてもらえる』とか『失くしものを見つける』、『忘れ物をしなくなる』などの、他愛のない可愛らしいものがほとんどだ。
まぁよくよく考えれば、このような児童向けの書籍に実戦でも使えるような呪術や本格的な魔導具の作成方法など、書かれているはずもない。
もし本当にものすごい効果の高いものが書かれていたら、むしろそっちの方が大問題になりそうだ。
魔法やスキルという、強大な力が身近に実在する世界だからこそ、一歩間違えれば大惨事を引き起こしかねないのだから。
そんなことを考えながらも、せっかく図書室から初めて借りてきた本なのだから最後まで読むか、とライトはおまじない本を読み進める。
本も半ばを過ぎ後半に差しかかった頃、ライトの手が止まりそのページの記述に目が釘付けになる。
『ヤタガラスの羽根で、幸運のお守りを作ろう!』
そのページに書かれていることには、何でも八咫烏は霊験あらたかな霊鳥なので、もし万が一にもその羽根を手に入れることができたらそれだけで超ラッキー!らしい。
そのラッキーな羽根を更にお守りにすれば、ますます運気上昇して超強運の持ち主になれる!のだそうだ。
そのページの少し前に戻り、改めてよく見返してみると
【第三章 強力な神獣パワーで、恋も運気も全部アゲアゲ!】
とある。本のタイトルには『5さいからはじめる云々』とあったが、どうやら後半の方は5歳より年齢層が上の子をターゲットにした章構成のようだ。
ただ、章のタイトルからしてどうにもアレというか、ほんのりどころかかなり地雷臭が漂う気もするが―――この世界がサイサクス世界(ワールド)であることを考えれば、致し方ないことである。
不吉な予感や気配を払うべく、頭をブンブンと振るライト。
気を取り直して、改めて本の続きに目を通し始める。
『
『
『青龍の鱗と人魚の涙の神秘イヤリング。魅了の力で想い人を君のトリコに!』
突っ込みどころ満載なアイテム名が、これでもかというくらい次々と出てくる。
読み進めていくにつれて、ライトの顔もだんだん引き攣りが強くなっていく。
八岐大蛇の抜け殻とか、どこで拾うてくるの?財布どころか大人もすっぽり入れる寝袋サイズじゃねぇの、それ?
灰闘牙熊の爪の垢って、どうやって採取すんの?採取して最強の戦士になる前に、灰闘牙熊にブッ飛ばされて
青龍なんて神獣どころの話じゃない、四神じゃん!四神の一柱の鱗の採取とか冗談じゃない、命がいくつあっても足りねぇわ!
八咫烏や灰闘牙熊はカタポレンの森に実在する魔物だから、八岐大蛇も青龍も人魚も探せばこの世界のどこかに必ずいるのだろう。ライトも冒険者になったら、是非ともいつかはこの目で見たいなぁ、とは思う。
だが、実在を確認できたところで素材が獲れるかどうかはまた別問題で、簡単に採取できるとは到底思えない。
八咫烏の羽根以外は何とも実用性皆無のおまじないばかりで、さてどうしたもんか、とライトが頭を悩ませ始めたその時。
次のページに、何と!
『フェンリルの抜け毛で作る、開運厄除けブレスレット』
なるものがあるではないか!
『フェンリルの抜け毛』のアテはないが、『フェンリルの末裔』ならばアテはある。そう、銀碧狼のアルとシーナの母子である。
神格の高い銀碧狼母子。その毛並みの美しさ、輝き、煌めき、全てが神々しささえ感じるほどだ。
あの艷やかな毛で作ったブレスレットならば、
よし、ここはアルとマキシに手伝ってもらおう!
そうと決まれば、アルのところに行かなくちゃ!
ライトは己の成すべきことを、ついに見つけたのだった。
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作中のおまじない類。『好きな人にふりむいてもらえる』とか、そんなもんどうでもいいから『忘れ物をしなくなる』←これを私に欲しいんですが!
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