第91話 向日葵亭
「いらっしゃいませー!……あっ、イヴリンちゃん!」
「リリィちゃん、やっほー!お昼ご飯食べに来たよー!」
「ありがとー!空いてる席どこでも好きなとこ選んで座ってー」
イヴリンのオススメの店、向日葵亭に着くとそこには同級生のリリィの姿があった。
胡桃色の髪に柿色の瞳の彼女は、きちんと頭に三角巾を被り、可愛らしい向日葵ポケットのついたエプロンも着用して、家業の手伝いをしていた。
店内はなかなか広く、お客もかなり入っていて結構繁盛しているようだ。
「リリィさん、おうちのお店の手伝いしてるの?すごく立派だね!」
「そ、そう?でも、手伝うのはお昼だけだし、食事を運ぶのもまだ無理だから、注文取ったりお水運んだりするだけだよ?」
「それだって立派な仕事だよ!」
「そ、そうかな、えへへ……」
人数分のお冷を持ってきたリリィを、皆してこぞって褒めちぎる。
照れ臭そうにするリリィだが、満更でもなさそうだ。
「メニューとお値段は、壁にかけてある札を見てねー。注文決まったらまた呼んでね!」
リリィはそういうと、厨房の奥に入っていった。
言われた通りに壁を見てみると、メニューの書かれた札がいくつも掛けられている。
なになに、平日限定日替りランチにそばやうどんなんかもあるのか……
そういや年末の大晦日に、運営からユーザー全員に『海老天入り年越しそば』なるSP回復アイテムがプレゼントされたことあったっけな。
その年末の年越しそば、SP回復に使うのがもったいなくて結局使わず終いだったなぁ。
リアルのナマモノじゃないから、腐ることなく長年ずーっとアイテム欄に鎮座ましましてたけど。
まぁ、言語からして現代日本準拠なんだから、食文化も当然現代日本とほぼほぼ同等で、そばやうどんも存在して当然ってことだろうか。
そしたらあれか、『異世界で現地人が知らない未知の料理を次々と披露して、仲間どころか全世界を魅了し席巻する!』みたいな、いわゆる異世界グルメ無双系の展開は、前世でよほど修行を積んだ記憶持ちの凄腕料理人でなければほぼ無理だな。
ま、俺自身もともと料理はそんなに得意じゃないから、グルメ無双なんてしたくてもできないんだけどな!
「皆何頼むー?私はオムライス!」
「ぼくはカツカレーかなー」
「私はミートソーススパゲッティにします」
「僕はハティと同じものにするよ」
あっ、あれこれと余計なことばかり考えてたら、皆注文品決めるの早い!と、ライトは内心焦る。
早々にリリィを呼んで、次々と注文していく。
最後に残ったライトは、慌てながらも悩みに悩んで―――
「ぼくはね、えーと、えーっと……おそば!」
結局そばにしてしまった。
だって、本当に前世と同じそばが食えるのか、すんげー気になったんだよ!いや、うどんも気になったけどさ!
お値段は85Gとか90Gとかどれも100G以下で、前世でいうと1000円以下のお手頃価格だ。
メニューも豊富で、まるでファミレスのようである。これは繁盛しないはずがないな、とライトは思った。
皆で談笑しながらしばらく待っていると、リリィの母親らしき女将が注文した品々を運んできた。
「お待たせー!あなた達、リリィの同級生なんだってね?うちの子と仲良くしてやってね!」
快活で気さくな女将だ。
大きなお盆で皆の注文品を一気に持ってきて、次々とお皿をテーブルの上に置いていく。
ライトの目の前には、かき揚げが乗せられた熱々のそばが入った丼がお箸とともに来た。
おおお、見た目は前世のそばと全く同じだ……
味も馴染みの醤油のそばつゆにお出汁が効いてて美味しい。
イヴリンのオムライスにジョゼのカツカレー、ウォーベック兄妹のミートソーススパゲッティも美味しそうだ。というか、間違いなく美味しいんだろう、4人とも実に美味しそうに頬張っているのだから。
「ふむ、ミートソーススパゲッティなるものは今日初めて食したが、宮廷料理にはない素朴な味わいだな」
「ええ、今度学園の昼食にあったらまた注文したいですわ」
「私のオムライスも美味しいよ!」
「ぼくのカツカレーもボリュームあって、とても食べ応えありますよー」
「ぼく、おそばなんてここにきて初めて食べたけど、とっても美味しいー」
皆口々に、美味しい美味しいと絶賛する。
ライトも前世以来10年ぶりくらいのそばとの再会に、心底嬉しそうだ。
料理上手なレオニスでも、さすがに麺類はスパゲッティくらいしか食卓に出たことがなかった。そばなんておそらくディーノ村では売ってすらいないだろう。
一通り食事を終えて、食後のデザート代わりのぬるぬるドリンク紫を飲みながら、今後の行動について打ち合わせをする。
ちなみにこのぬるぬるドリンクは、リリィのお母さんである女将からのサービスである。そこにはもちろん
「学校でもリリィと仲良く遊んでやってね♪」
という、実に温かい親心のこもった台詞つきであることは言うまでもない。
そして、紫のお味はブドウ味!というのもお約束である。
「さて、この後はどこ行こうか?」
「んー、今日はライト君に市場を案内するってことで来てるから、ライト君の行きたいところを優先するべきだよね?」
「それもそうですね。ライト君、どこか行きたいお店はありますか?」
一応主賓であるライトにお伺いを立てる同級生達。
突然話を振られたライトは、慌てて考える。
武器や防具ももっと見てみたいけど、今日すぐに買う訳ではない。それでは冷やかしになるだけだから、店内には入らない方がいいだろうし……
食材関連は、ラグナロッツァの市場に詳しいであろうラウルに後で聞けばいいし……
……そうだ、あれなら……
「ぼく、ポーションとかの薬を扱うお店を見てみたいんだけど……」
「薬屋?」
「ああ、将来冒険者になりたいライト君なら、是非とも知っておきたい知識ではあるよね」
「ふむ、ウォーベック家では普段は専用の回復師がいるが、市井ではどのような回復剤を使っているのか僕も興味があるな」
「では、薬屋に行くことにしましょうか」
「皆、ありがとう!」
ハイポーションやエクスポーションなどの回復剤は、レオニスが腐るほど持っている。
だがそれとは別に、世間一般で普通に売られているポーション類がどのくらいの価格で取引されているのかを、ライトは知っておきたかったのだ。
個別に勘定を払い終えた一行は、薬屋があるというその他エリアに向かった。
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これまでに出てきた、ぬるぬるドリンク類のおさらい。
オレンジ味の橙、リンゴ味の薄黄、珈琲味の茶色、トマト味の赤、そして本日ブドウ味の紫が新たに登場しました。
第35話でクレアの妹クレナが話していた、期間限定の紅白スペシャルやレインボーデラックス。これもいつか話中に登場させたいなー。
さて、飲ませる役は誰にしようかしら?
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