第31話 クローン姉妹
今日の最大の目的であった、ライトの本屋での買い物も無事済ませた二人。その歩は冒険者ギルド総本部に向かっていた。
「ライトの欲しい本も買えたし、アルの食糧も買い込んだし、そろそろ帰るかー」
「うん、ディーノ村でアルも待ってるだろうしねー」
時刻は午後4時頃か。まだ日は明るいが、転移門でラグナロッツァからディーノ村の冒険者ギルドに瞬間移動したとしても、そこからまたカタポレンの森の我が家に移動する時間も考えなければならない。
夜の森を子連れで歩くのは、なるべく避けたい。早め早めの行動が肝心なのだ。
冒険者ギルド総本部に戻る道すがら、箱入りスイーツを買い足すレオニス。
どうやらディーノ村のクレア嬢へのお土産のようだ。
うん、確かにね、今日一日アルを預ってもらってるもんね。社会人として御礼の手土産は必須だよね!
買い足しついでに、ライト達が食べるスイーツもまとめ買いする。
大陸一の大都市、ラグナロッツァの特選スイーツ!
そんなステキなものを、買わないなどという選択肢はない。テンション上がるぅー!
そう、今はアルの食糧買い出しのために、毎日のようにラグナロッツァに頻繁に訪れてはいる。主にレオ兄が、ね?
だが、アルが森に帰ればそんな必要もなくなるし、ね……
そんな一抹の寂しさを胸に感じながら、ライトはラグナロッツァでの買い物の仕上げをするのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうこうしているうちに、ライトとレオニスは冒険者ギルド総本部に到着した。
建物の中に入ると、そこそこの数の冒険者がいて結構混雑している。
この時間帯は、達成した依頼の完了承認を受けたり、採取した素材の買取鑑定などでかなり混むようだ。
ライト達はそこら辺の用事はないので、大広間を通り抜けて奥の方にある事務方のいる部屋に向かう。
「おーい、クレナ。ちょっといいかー?」
「スレイド書肆に口座振込してくれ。その後に、俺達そろそろ帰るから転移門使うぞー」
事務室の入口に程近いところにあるデスクに、こちらに背を向けて座っていた女性にレオニスは声をかけた。
その後ろ姿は、髪にベレー帽にワンピース、全てがラベンダーカラー。
髪型や着ている服などが、どこかで見覚えがあるどころじゃなく既視感満載なのは、はて、何故だろう?
ライトが不思議に思いながら見ていると、その女性はレオニスの掛け声に反応して振り向いた。
……
………
…………
何で
どうして
ここに
クレア嬢が
いるの!?
ライトの顎は、外れた勢いで地面まで落ちそうなくらいに大きく開かれた。
「え、ちょ、待ッ、ナニ、何で?何でクレアさんが、ここにいるの??」
言葉を出そうにも上手く出せないくらいに驚愕するライトに、レオニスは悠然と解説する。
「あ、これ?これはクレアじゃなくて、クレナ。ディーノのクレアとは別物な」
「クレアが長女で、クレナは五女、だっけ?まぁ何番目かはよく覚えちゃいないが、二人は血の繋がった姉妹だ」
「双子とか五つ子とかじゃなくて、普通の姉妹な」
「初見とか慣れんうちは、全く顔の区別つかんのも無理はないがな。一応全員に、何かしら微ッ妙ーーーに違うところがあってな?それが分かるようになりゃ、すぐに区別できるようになる」
「ちなみに、クレアとクレナの違うところは、耳の形だ」
「姉妹の中で耳がより丸くて耳たぶが一番大きいのがクレアな」
姉妹、長女、五女……あまりのそっくりっぷりに、混乱が止まらないライト。こんなんもはやクローン技術の域じゃね?と脳内でぐるぐるするも、あまりの衝撃に考えが一向にまとまらない。
つーか、耳の形で別人とか即時判別できるもんなの?エルフ耳やケモ耳ならともかく、普通の人間耳で別人判定とかそんなん無理くね?
「あ、レオニスさん、こんにちは。お早いお帰りですねぇ」
「まぁな。今日は連れもいることだし、用事も無事済ませたからとっとと帰るさ」
「あら、そうなんですか。せっかくこうしてラグナロッツァにおられることですし、何なら1ヶ月くらいこのギルド内に寝泊まりして、溜まりに溜まった高難易度依頼のお掃除を一気にこなしていってくれてもいいんですよ?」
「お前ね、こんな小さな子供を連れてる人間相手に無茶言うんじゃないよ……」
「大丈夫ですよ、お仕事の間は冒険者ギルドが責任を持ってしっかりお預かりしますから」
「冒険者ギルド内に、託児所なんて存在しねぇだろうが……」
ディーノ村でのクレアとの会話と全く変わらない光景が、ライトの目の前で繰り広げられる。
そっくりなのは顔の作りや出で立ちだけでなく、声も口調もクレアと同一人物としか思えないほどだ。
ライトは呆気にとられたまま、未だに動けない。
「あ、そういえば。ギルド長がレオニスさんに用事があるそうです」
「え、そうなの?面倒事ならとっとと帰っていい?」
「今逃げたところで、いつかは必ず捕まりますよ?」
「えーーー、今日はあちこちたくさん出歩いたから、さっさと帰りたいんだが……」
「またまたぁ、金剛級冒険者ともあろうお人が何を寝言吐いてるんです?寝言は寝て言うものですよ?街中を一日中歩いたところで、体力なんぞこれっぽっちも減らないでしょうに」
「お前ら姉妹は、ホンットに言うこと成すこと全く同じだよね……」
「あらまぁ、心外な。私達姉妹は全然似ていませんよ?」
「そう思ってんのは、世界中どこを探してもお前ら姉妹だけだぞ……」
二人の会話の中にもデジャヴがちらほら見える。
レオニスは諦めたように小さくため息をつき、ライトの方に向き直る。
「ライト、すまんがちょっとギルド長と話してくる。なるべく早く済ませるが、いいか?」
「うん、ぼくなら大丈夫だよ。建物の中にいるから」
「そうだな、そしたらこの部屋にいるか、大広間にでもいって待っててくれ。どうせなら、大広間でギルドの仕事の様子を見るのもいいかもしれんな」
「分かった。ぼくもギルドの中を見て回りたいから、大広間で待つことにするよ」
帰りが少しだけ遅くなるとはいえ、ギルドの仕事の様子を見ることができるのは、ライトにとっても願ってもないことだ。
しかもディーノ村のような小さな町村ではなく、大陸一の大都市ラグナロッツァの冒険者ギルドだ。その規模は比べるべくもない。
「クレナ、ライトを連れて大広間で待っててもらえるか?この時間帯はまだ混雑してるし、誰かに見ててもらわんと。待ちついでに、さっき頼んだスレイド書肆への口座振込と、ライトに大広間の中の案内をしてやってくれると助かる」
「分かりました。それくらいお安い御用です」
「頼む。じゃ、これ、振込金額な。話が終わったら、俺も大広間に行くから」
「レオ兄ちゃん、心配しないで。クレナさんといっしょに待ってるから。いってらっしゃーい」
レオニスはクレナに口座振込のメモを渡し、三人は事務室を出て左右に別れた。
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レ「俺も初めてあいつら見た時は、分身の術でも使ってんのか!?とか思ったもんなー」
ラ「ぼくも一瞬そう思っちゃったよ……ていうか、アレ本当に区別つくの?お父さんお母さんなら間違えずに分かるのかな?」
レ「本人達いわく、父親似母親似祖父似祖母似曽祖父曽祖母似、全員違うらしいぞ?」
ラ「…………」
果たしてライトが一瞬にして彼女らを見分けられる日は来るのでしょうか?
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