森の友
第14話 銀碧狼の子
レオニスからライトに手渡された、小さな犬のような生き物。
ところどころ汚れているが、大きな怪我とかはしてなさそうだ。すやすやと寝ているように見える。
「これは銀碧狼という種族の子だ。森の中で他の魔物に襲われた跡を見つけてな。本来なら人間が手を出すべきところじゃなかったかもしれんが、側に母親らしき大きな銀碧狼も倒れててな……どうにも見過ごすことができんかった」
「そうなんだ……この子、お母さん亡くしちゃったんだね… かわいそうに……」
「あ、母親の銀碧狼は助けてきたぞ?手持ちのエクスポーション山ほどガブ飲みさせてな!ハハハッ」
「あ、そなの……うん、それはヨカッタァ」
レオニスは、仁王立ちで胸を張りながら爽やかに高笑いした。しんみりとしかけた空気が台無しである。
それと同時に、レオニスにエクスポーションを何本も無理矢理ガブ飲みさせられて、涙目になる母狼の残念かつ可哀想な姿が目に浮かぶ。うん、さぞかし大変だったろうな。
まぁ、母子ともに助かって無事ならそれが一番良いことではあるが。
「え、でも、そしたらこの子ここに連れてきてだいじょぶなの?お母さん、おこってここにきちゃうんじゃ?」
「あー、いやいや、それはないから心配すんな」
「そなの?」
「その母狼な、どうもカタポレンの最東端のどこだかに行かなきゃならん用事があるらしくてな?その途中で
そんな事情があったとは。……ん?何かが俺の意識に引っかかる?……何だろうこの魚の小骨リターンズ。
……まぁ何にせよ、母子ともに無事レオニスに救われた話にライトは安堵の表情を見せた。
「お母さんも無事で、よかったねぇ……」
「でな?このまま旅を続けようにも、やはり小さな子連れでは母子ともに危険すぎるってことで、母狼がこっちに戻るまで子狼を見てくれるよう頼まれたんだわ」
ライトは、心底びっくりした顔でレオニスを見た。
母狼に、子狼の子守を、頼まれた、ですと??
……レオ兄、動物っつか魔物の言葉が分かるのか!?んでもって、普通に会話やら意思疎通ができるんか!?
……そうか、さっきの微妙な違和感の正体はこれか!
カタポレン最東端に用があるとか『体調が万全なら絶対に負けなかった!と息巻いてた』とか、その時点で既に十二分にレオ兄と銀碧狼母の会話が立派に成立してたわ!!
レオニスは『何をそんなに目ン玉ひん剥いて、顎まで外れそうな顔してんの?』とばかりに、一体何に驚かれているのかさっぱり分かっていないようで、頭上に?マークが何個か浮かんだような顔をしている。
……
………
…………
うん、何でもできる凄腕冒険者のレオ兄なら、動物や魔物と会話できても全然おかしくないな!つか、金剛級冒険者ともなれば、それくらいの芸当は朝飯前のお茶の子さいさいに違いない!
よし、後で俺もレオ兄に動物&魔物会話術を教えてもらおう!細かいことはキニシナイ!
「そうなんだね、うん、わかった。ぼくがこの子の面倒を見るよ!」
「ライトならそう言ってくれると思ってたぞ。ありがとうな」
レオニスは優しい眼差しで微笑みながら、ライトの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ねぇ、この子のなまえは何ていうの?」
「ん……名前?そういや聞いてねぇなぁ……あの母狼もなーんも言わなんだし」
「えッ、んじゃどうすんの!?呼び名ないとふべんだよ?」
「そうだなぁ、とりあえずはここにいる間だけの仮名ってことで世話係のお前が名前つけて好きなように呼べばいいんじゃね?」
あっけらかんとした顔で言い放つレオニス。
名付けの重み?んなことキニシナイ!
さすがレオ兄、そこにシビれる憧れるぅ!
「えー、レオ兄ちゃん、まものの名付けって、すごく大事なことなんでしょ?」
「んー、まぁ大丈夫なんじゃね?フェンリルの血筋を引く銀碧狼ともなれば、仮の名付け如きで縛られることなんてないだろ!ハハハッ!」
……
………
…………
ぉーぃ、そこなレオニスの兄さんや、ちょいとお待ち。
アナタ、今何てった?フェンリル、ですと?
「えッッッ、ちょ、待ッ、ここここの子、フェンリルなのッ!?」
「ん?そりゃ当たり前だ、銀碧狼ってのはフェンリルを祖に持つ聖なる神狼族のことだぞ?」
「かーちゃんの方も大きくて立派な体躯で、毛色も美しかったしな。この母子は銀碧狼の中でもより高貴な血筋だろうなぁ」
これまた何でもないことのように、レオニスはケロッとした顔でにこやかに驚愕の事実を言い放った。
もうね、レオ兄のキニシナイ!レベルがあまりにも高過ぎて、シビれるどころかモウドクフキヤガエルの毒を一気飲みレベルで飲まされたような気分だ。
毎回毎度のことながら、今回は一際酷い。ああもう、本ッッッ当に心臓に悪い……
「うええええ、そんな神獣レベルの子をかんたんに預かっちゃってもいいもんなの?」
「
「いいい1ヶ月……」
ライトは目の前がぐるぐる回る気がした。
ふと自分の腕の中に抱えた子狼の顔を覗き込む。
その温かさ、ぬくもりは、驚きまくったライトの心をも優しく包んで温めてくれる気がした。
前世では一度もペットなど飼ったことはなかったが、いわゆるもふもふは憧れの存在だった。
あちらの世界では、狂犬病の予防接種やらトイレの躾やら散歩やらブラッシング?等々、実際の飼育というものは大変そうだったが……とりあえず預かるのは1ヶ月くらいってことだし、頑張ってみよう。
そうだ、名前は……
「うーん、きみの毛… 青みがかったきれいな銀色だから……銀を意味するArgentumからアル、でどう、かな?」
「……うん、俺はライトが何言ってんのかさっぱり分からんぞ」
ひとまず子フェンリルの名を「アル」にして、目を覚ましたら汚れを洗い流すためにお風呂に入れてあげよう!と張り切るライトだった。
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