マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜

潟湖

始まりの時

第1話 プロローグ

 猛烈に吹き荒ぶ嵐の中、激しい雨音と眩しく光る稲光、その少し後に身体を揺さぶる落雷の轟音―――

 それがこの世界で新たな生を受けた俺の、一番最初の記憶にして目覚めた瞬間だった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 冒険者の父グランと町娘の母レミとの間に生まれた息子ライト、それがこの世界での俺の名前である。

 平民なので姓はない。強いて名乗るなら、両親の生まれ故郷であるディーノ村の名を冠して「ディーノのライト」といったところか。将来何らかの称号なり二つ名なりつくことがあれば、それを名乗るのだろうが。


 そして、俺はこの世界の両親の顔を知らない。

 父グランは俺が生まれる前に、遠い異国のダンジョンで死亡した。

 その時母レミは俺を身篭っていたが、父母ともにディーノ村の孤児院育ちの天涯孤独の身で、頼れる親兄弟や親戚もなく途方に暮れた。

 母は苦渋の末、生まれ育ったアクシーディア公国を去り、独り身の女でも比較的過ごしやすく何とか暮らしていけるという隣国のハイロマ王国に移り住んだという。


 だが、女手ひとつで身寄りもなく異国に渡り、出産子育てするのはやはり相当厳しかったのだろう。俺が生後三ヶ月の頃に母は体調を崩し病に倒れ、そのまま目を覚ますことなく約一ヶ月後に帰らぬ人となったそうだ。


 母が倒れるまで、俺は母とともに宿屋の住み込みでいたが、彼女が病に倒れた後は教会の孤児院に預けられていたらしい。

 そして一人きりの母親がついに帰らぬ人となった後は、ずっと孤児院で過ごすことになる。


 だが、生まれたばかりの赤子やそれに近い乳幼児というものは、里親の候補に名乗り出れば養子として引き取られることも多い。物心つく前の赤子の方が、養子に出される側も迎える側も都合がいい、というのはどの世界でも同じ。

 実際に俺も、母が亡くなった後もしばらくの間教会で面倒を見てもらい、生後半年頃には裕福な商家のもとに養子に出される予定だった。


 そんな時に現れたのが、レオニス・フィア。

 俺の両親と同じ孤児院で育った幼馴染という人で、その時点で既に最上級ランクの冒険者に達していた人だ。

 当時国の依頼を受け、遠方に討伐任務に出向いていたが、その最中に父の訃報を受けたという。


 すぐにでも故郷に戻りたかったが、討伐任務を途中で放り出す訳にもいかず。ようやく任務やその後始末から解放され故郷に戻った時には、母は既にディーノ村どころかアクシーディア公国にいなかった。

 レオニスは、ほぼ残されていないに等しい足取りを懸命に探し続け、やっとハイロマ王国の教会に辿り着いた。

 そして、孤児院で兄と慕った人の忘れ形見が養子に出されるという話を聞き、居ても立ってもいられず俺を引き取ったのだ。


 俺が彼に出会い引き取られたあの日は、大型の嵐が近づいていて一日中豪雨と落雷が激しく続いていた日だった。

 その日から俺の養父となったレオニスは、俺を抱きかかえながら誰かの墓前に立っていた。

 そこから冒頭の景色に繋がる。


 いつ降り止むともしれない激しい雨と、それらが地面に打ち付けられるけたたましい音。眩しく輝く雷光を受けて浮かび上がるレオニスの顔。

 彼の顔を見た瞬間、俺は落雷に打たれたかのような衝撃が身の内に走った。


 それと同時に、俺の脳内に様々な場面が怒濤の如く浮かんでは押し寄せる。

 スマホ片手にゲームをしている男、男の家族と思しき人々の顔、どこかの店らしき場所で働く男、ゲームのキャラクター達の顔や仕草、ゲームの挙動に一喜一憂する男……


 そう、この俺ライトの―――いわゆる前世の記憶というやつが甦ったのだ。


 その情報量の膨大さとあまりにも唐突に起きた出来事に、俺の頭と心は混乱を極め激しく号泣した。

 レオニスの冒険者としてのトレードマークである、深紅のロングジャケット。その襟にしがみつきながら、ただひたすらに泣き続けることしかできなかった。


「うわあああああ!ああっ、あっ、ああああああ!!」


 とめどなく溢れる、胸を掻きむしられるような泣き叫ぶ声も、降り続ける激しい雨音と雷の轟音にかき消されていた―――

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