第234話 予選会。
クリスト王国の王都の東門から壁を沿って少し歩いたところにある広場。
そこには人ほどありそうな大きな砂時計と天幕が置いてあり、天幕の前には鎧を身に纏った者や動きやすい冒険者服を着た者、さらには一般人……更にはさらにはボロ服を着た者……さまざまな地位の十代から二十代の若者達が集まっているようだった。
「セーゼル武闘会の予選会の会場はここッスよぉ~。セーゼル武闘会の出場希望者は天幕の中に入って報告してくださいッス~」
集まったセーゼル武闘会の出場希望者達の真ん中辺りでノックスが一人デカい看板を持って練り歩いていた。
「もう少ししたら締切ッスよぉ~」
「ここが本当にセーゼル武闘会の予選会の会場なのか?」
高価そうな鎧を身に纏った金髪の男性がノックスに話しかけた。
「ん? そうッスよ? 俺はクリスト王国の国王カエサル様より予選会の試験官をやるように仰せつかったノックスっていう者ッスよ」
「……しかし」
金髪の男性は一度言葉を切ってボロい服を着た者達に嫌悪の視線を向けると、ノックスに近づき小声で続けた。
「みすぼらしい姿の者達も混ざっているようだが? 国王カエサル様……そしてベラールド王国からも要人が観戦すると聞くセーゼル武闘会に出場させるのには相応しくないだろう?」
「ハハ、何を言っているんッスか。可笑しい人ッスね」
可笑しそうに笑ったノックスに対して、金髪の男性はムッとした表情になる。
「む? なんだ? 私はおかしなことを言ったつもりはないぞ?」
「怒らないでくださいッスよ。相応しくない人達を振るい落とすために予選会をやるんッスよ? 高貴な存在である貴族の皆さんには是非とも頑張っていただきたいッスね。国王様も期待していると言っていたッスよ? 結果次第では側近登用もなるかもッスねぇ」
「ふむ……そうか? なるほどな。そうだな。私が負けることなどありはしな。ハハハ」
金髪の男性は高笑いをしながらノックスから離れていった。その後ろ姿を見送ったノックスは小さくため息を吐いたのだった。
「なかなか大変そうッスね」
頬をポリポリと掻きながらノックスは苦笑した。そして、周囲にいたセーゼル武闘会の出場希望者へと視線を巡らせた。
「にゃはは、ロビンよ。また会ったな」
「え、あ、ナミ……貴女もセーゼル武闘会に出場するの?」
「あぁ、もちろんだよ。私は強いのでな」
「いや……そうかも知れないが」
「ロビンはやっぱり見る目があるな」
「あ……そう言えば探し人……英雄アレンは見つけることができた?」
「いや、釘を刺されてしまったし。顔を知る部下がここ数日見つけられんと言うし……むうお手上げなのだ。ここを離れてしまったのか。しかし、あの国王とつながりがあるようであったようだが……」
「ん?」
「あ……いや、こっちの話なのだ。しかし、この会場にはなかなか目に留まる実力者が何人か居るのだ」
「噂だと……ナミの後ろに居る獣人達に加えて、ベラールド王国の王子様とその王子様が連れてきた実力者が数名居ると聞いているよ」
「うむ。ベラールド王国の王子様も人間にしてはなかなかじゃが、他にも……やる気なさげの試験官を含めてチラホラ居るな」
「あぁ、あの試験官の人、強そうだよね?」
「そうだな。まぁ私よりは弱いがな。にゃはは」
アレがアレンさんの話していたお騒がせハンバーク公国の姫様ッスか。
獣人……初めて見たッス。
確かに聞いていた話通り強そう……しかし、弱いと言われるのは癪ッスね。
一度、手合わせを願いたいところッスねぇ。
「がはは、何としても俺の力をリナリーへ見せつける。そしたら、リナリーも俺を見るだろう」
「王子……それ、うまくいきますかね?」
「いくに決まっているだろう? リナリーは強い男が好きなんだ。俺は魔法こそ下級までしか使えんが……剣の腕はベラールド王国で一二を争うからな」
「王子の剣の腕がよいことは分かっていますが……そう言うことではないと」
「では、何が良いと言うのだ?」
「聞いた話では最近、リナリー様は語り歌を聞くことにはまっているとか? その……歌い手でも招いて一緒に聞くとか。まぁ食事とか……ではないですかね?」
「むむ、なんだと……そうなのか? そうなのか? イグニス」
「普通、そうじゃないですかね?」
「しかし、何でお前がそんなリナリーについて知っているんだ? まさか、お前もリナリーのことを?」
「いや……あの……そんなことは……」
「なんだと言うのだ! 俺はお前にも負けんぞ! 今回のセーゼル武闘会で勝負だ!」
「えっと……あぁはい、よろしくお願いします」
「うおおおお、俺は負けん!」
あぁ、うん……アレがベラールド王国の何とか王子ッスね。
強そうッスけど……馬鹿っぽそうッスよ。
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